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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス


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287 介入者

並行世界とは異なる複数の事象が、介入者によるものだとはっきりした後のルーファス達は、モナルカに滞在しながらその相手を居場所を探していました。ルーファスとゲデにトニスにしかわからない〝違い〟を記憶の中で比較し、数少ない手がかりから行方を掴もうとしますが、中々上手く行っていないようです。介入者の目的がなんなのかさえわからないままに、相変わらずピリピリしているルーファスの元へ、ギルドマスターのウルルから連絡が来て…?

            【 第二百八十七話 介入者 】



 ――俺達『太陽の希望(ソル・エルピス)』がモナルカに滞在して早くも二週間になる。


 当初の予定では疾っくにファーディア王国入りを果たしているはずが、ラ・カーナへ向かう直前の目的地である『ツェツハ』の街が失われたままでは、それを放置して進むわけに行かなかった。

 それはこの世界にいる〝今の〟人々にとって既に〝現実〟だが、介入者の存在が確かである痕跡(証拠)を見つけた以上、〝改竄された現実〟であると言うのが真実だからだ。


 ならばこれを放置したまま未来へ進んだ場合どうなるかと言うと、俺にとってここは間違いなく『現実世界』であるのに、辿り着く果てはまた、あの並行世界同様の滅亡という結果になり兼ねない。

 つまり俺はどうあってもこの件の介入者を見つけ出し、改竄前の正しい現実に戻して貰わなければならなくなった。


 これまでの情報で相手は『暗黒神以外の神』である可能性はかなり高く、それがどんな力を司る神にせよ恐ろしい相手であることには変わりがない。

 だからこそできれば自分一人でなんとかしようと思ったのだが失敗し、仲間の有り難みをひしひしと感じて深く反省することにもなった。


 そして俺は消滅並行世界(ロスト・アナザー)でのことを打ち明けないまま、みんなの好意に甘えて助けを借りながらその行方を捜しているのだが、未だにその居場所を掴めないでいる。


 このままでは長期間モナルカから動けずに、足止めされてしまう怖れがある。


 ケルベロスの信者に奪われたア・ドゥラ・ズシュガの休眠卵もどこへ運ばれたのかわからず、到底シルヴァンの拉致を完全に回避できたとは言えない。

 今のところウェンリーがスカサハとセルストイの襲撃を受ける様子はないが、仲間を頼ることにはしたものの俺の不安は募るばかりだ。


 ――どうすれば介入者の居場所を掴めるだろう。


 余裕はなくピリピリしている自覚はあるが、せめて直接俺や仲間に手出しをせず〝カステン家〟や〝シラー〟そして〝クレンドール・アバローナ〟など、並行世界での俺の行動を知らなければ標的にできない人達を選んで対象にした理由が知りたい。

 それも生死を真逆に変えると言う、人の心に深い傷を刻むような残酷な真似を、敢えてする理由を――



「――そうか、ハチス村の異変の噂は関係なかったか…」


 借りている宿の部屋で、メル・ルーク国内の各町村へ情報収集に当たって貰っているサイードからの連絡を受けると、今日もまた収穫を得られなかったことに俺は深く溜息を吐いた。


『ええ。今日はこれから西のブットレアまで足を伸ばしてみます。一度明日にはそちらへ帰りますから、空振りでもあまり気落ちしないで待っていてください。目的がなににせよ自ら存在を教えている以上は、いつか必ず手がかりも掴めるはずですから。』

「ああ、ありがとう…気をつけてな。プロートン達にも俺が帰りを待っていると伝えてくれ。」


 サイードにはそう言われたものの、通信を終えた後で俺は肩を落とした。


 ――これで国内の半分に当たる町村は調べ尽くしたか…これだけのことをしておいて、介入者はメル・ルークにいるわけじゃないのか?

 もしかしたら、全く見当違いの場所を捜しているんじゃないかって気がして来た…。


「教会のあの神父が消えなければ捕まえて吐かせることもできたのにな…おかしいとは思ったけど、一人で動くつもりでいたから慎重になり過ぎたのは失敗だった。」


 まさかゲデヒトニスの指示でカイゼリンとシラーが調査に潜り込んだ後、その晩のうちに姿を消すとは思わなかった。

 カイゼリン達がなにか見つけたせいなのかとも思ったけど、あの御神像を自分で壊したせいで嘆いていたとしか聞けなかったし…あの神父はなんのためにいたんだ?


「…もう一度二人を連れてあの教会へ行ってみるか。」


 そうだ…なんの理由もなく神の配下が神父に化けてまで潜伏していたはずはない。きっと俺がなにか見落としているんだ。


 俺は座っていた椅子から立ち上がり、共鳴石で話すために一人にして貰っていた寝室から扉を開けてリビングへ出た。


 ――カイゼリン達の報告によると、あの不気味な神父の正体はどうやら人語を解する『白銀の蜘蛛』だったようだ。

 白銀の蜘蛛を配下に従えており、その配下が『フェイト様』と口にしたのなら、介入者の正体は恐らく…


「お!サイードとの連絡は終わったのか?どうだったよ。」


 俺は待ち構えていたウェンリーの問いに首を振る。


「あー…そっか。」

「これからもう一度カイゼリンとシラーを連れて、あの教会を調べに行ってみようと思うんだけど…カイゼリン達は?」

「シラーはマイルと聞き込みに出たけど、カイゼリンはリヴと二人で()()()に行ったぜ。」

「……デート?」


 ウェンリーのにやけながらの返事に、俺は聞き間違いかと思って眉を顰めた。


「シシシ、最近あの二人すっげえ良い雰囲気じゃん?俺らの前じゃ絶対にベタベタしねえけど、もうキスぐらいはしたんじゃねえかな~」

「……キス??」


 そんな俺の反応に横からシルヴァンが口を挟む。


「余計な話をルーファスに聞かせるな、ウェンリー。――デートではないぞ、あの二人は今日の分の討伐依頼を済ませに行っただけだ。」


 シルヴァンはこう言っているが、ウェンリーの顔を見るに〝討伐依頼〟を兼ねた〝逢い引き〟なのだろう。


「誤魔化さなくていい。シルヴァン、リヴとカイゼリンはそれほど親しげな様子なのか?」

「あー…、まあ…、…うむ、そのだな…」


 俺から目線を逸らし、どう答えるのが正解か、という顔をしてシルヴァンは曖昧に返した。


「はっきり教えてやれって。シルヴァンだってようやくリヴに春が来た、ってにこにこしてたじゃん。」

「ぐ…こ、こら、ウェンリー、それは…!」

「………」


 そうか…介入者に集中していて気づかなかったな、いつの間にそこまで進展していたんだ?


 俺は素直に〝それは良かった〟と言えるような状態になく、並行世界とは異なる二人の仲に一抹の不安を抱いた。


 ――改竄された現実であることを考えると、あまり良いとは言えないな…先にリヴにだけでも、それとなくこの件が終わるまではだめだと言っておくべきだったのか…?

 いや…それでも既に惹かれ合っていたのなら、俺にどうこうできるはずはない。


 俺の懸念が杞憂に終わればいいが…


 無言で考え込む俺を見て、ウェンリーは意外な反応だと思ったらしい。


「ええと…ルーファス?なんか駄目だったか?すげえ顔してンだけど…」

「え?…ああ、別にそういうわけじゃないんだ。」


 俺にあの二人の恋愛を禁じるつもりはなかったのだが、今はあまりにも時期が悪かった。

 俺もこの件が終わった後でなら、ウェンリーやシルヴァンのように〝それは良かった〟と素直に祝福できただろう。


 ――念のためにリヴが戻ったら、恋仲になっているのかだけでも確かめておいた方が良さそうだ。


 カイゼリンがリヴに惹かれるのは当然で、今は『残溜者(ファクトロア)』でなくても前々前世が『スペルビア・ファート』だったのだからわかりきっていた。

 だがあれほど怯えて逃げ回っていたのに、リヴの方は外見が好みだと言うだけでこうもあっさり落ちるとは意外だった。


 まあ今のカイゼリンは並行世界とでも性格が違うから、無理はないのかもしれないが。


「急を要するなら呼び戻すか?」

「いや、必要ない。でもそうだな…代わりに今日はおまえが俺に付き合ってくれるか。」

「うむ、もちろんだ。」


 俺の申し出にシルヴァンは嬉しそうな笑顔を見せた。


「俺は?ルーファス。」

「おまえはゲデヒトニスと討伐依頼を済ませに行く約束をしてるだろう。もうすぐ帰って来るぞ。」

「それは後でも行けんじゃん。」

「駄目だ。俺はまだおまえにパーティー戦への参加を許可していない。シルヴァンも前衛への復帰は認めていないが、勘を鈍らせないための依頼だ。まさかそれすら手を抜くつもりなのか?」

「…ちえ、わかったよ。」

「ゲデヒトニスかイシー達が先に戻ったら、俺とシルヴァンは教会へ行ったと伝えておいてくれ。一時間ほどで帰るから。」

「了解。」


 ――もっと食い下がるかと思ったけど…素直に引き下がったな。シルヴァンもそうだけど、この頃はウェンリーも随分俺の言うことを聞くようになった。…あの日以来か?


 この分ならそろそろ元に戻しても問題ないかもしれない。まあ油断はできないけど…


 そうして俺はシルヴァンと一緒に、もう一度元は孤児院だった場所に建つ、あの教会へ再度向かうことにしたのだった。



 宿を出て昼間の通りをルーファスと並んで歩くシルヴァンティスは、介入者の居場所が掴めないことにピリピリしている(あるじ)を見て思う。


 «あの日以来少しは良くなったかと思えば、精神的に張り詰めているのは変わらぬか…話せないと認めた分、その口数はめっきり減った。

 こうして移動中でさえ黙り込んでなにかしら考えている。…なにも尋ねてはならぬとわかっているだけに、歯痒いな。


 サイードの推測によると、ルーファスにとって今のこの時間は既に一度経験したことのある過去らしい。

 普通ならまさかと思うところだが…妙に納得が行く。同じ時間をやり直した原因が我らになければ良いのだが…

 (あるじ)の眉間の皺が取れ、以前のように暗黒神とカオスのことだけを考えられるようになれば、なにがあったのかもいつかは話して貰えるであろうか?»


 イスマイルには知らぬが花よ、と言われそうだ。そう思いながらシルヴァンティスは苦笑する。

 無言のまま人の多い繁華街を歩いて程なく、ルーファスのではなくシルヴァンティスの共鳴石がその胸元で着信を知らせる振動を発し始めた。

 それに気づいたシルヴァンティスは足を止め、鎖で首に提げてある魔道具を取り出しながらルーファスを呼び止めた。


「ルーファス。」


 その声に振り向いたルーファスも立ち止まると、二人は人通りの邪魔にならないよう道の端へ移動する。


『――シルヴァンティス、私だ。』


 試作品より改良され、僅か二センチ程の薄い箱型へ小型軽量化した強化共鳴石(トークボックス)から響いて来たのは、魔物駆除協会(ハンターズ・ギルド)のギルドマスターであり黒鳥族(カーグ)の長でもあるウルル=カンザスの声だった。


「ウルルか、どうした。」


 ルーファスにではなく自分に連絡をしてくるとは、なにか個人的な用か?と首を捻るも、ルーファスも聞いている傍で告げた内容は意外なものだった。


『いきなりすまぬ。実はルーファス様にお願いしたいことがあるのだが…その後ご様子は如何だろうか?』


 それを聞いたルーファスが思わず苦笑したのは言うまでもない。


「ルーファスならここにいる。らしくもない失態だが、急用か?」

『なっ…ル、ルーファス様も聞いておられるのか!?』


 確かにこんな失敗は珍しい、と思いながら透かさずルーファスは答えた。


「なんだか気を使わせているみたいですまないな、どうしたんだ?」

『い、いえ、少々時間のかかりそうな厄介なお願いなので、ご都合をお伺いしてからと思い…』

「なんだ、そんなことは気にしなくてもいい。いくら俺でもできなければ安易に引き受けたりはしないさ。――それで?」


 シルヴァンティスはもう自分の強化共鳴石(トークボックス)をルーファスに手渡して直接二人に会話をさせることに決めると、傍でルーファスとウルルのやり取りに聞き耳を立てた。


 ルーファスは話を始める前に、すぐさま遮音結界を張る。


「――魔物を従える少女?」


 その思いも寄らない話の出だしに、ルーファスはちらりとシルヴァンティスを見た。

 それは少し長くなりそうだ、という合図でもあり、シルヴァンティスはこくりと頷き返す。


『はい。まだ十才くらいの子供らしいのですが、森の中で浮浪児として生きて来たようで、殆ど言葉も話せずに自身の力をどこまで理解しているかも不明瞭だそうです。』


 «街の中でも外でも、その年まで生き伸びていることの方が驚きだな…そう言った特殊能力を発現した子供は、大抵物心が付く前に両親の手で殺されてしまうのが世の常だ。»


 ある程度育つまで誰かに保護されていたか、余程運の良い生存本能の強い子供なのだろう、とルーファスは感心する。


「それはまた…随分特殊なケースだな。浮浪児と言うことは、親はいないのか。」


 一方、ルーファスとウルルの会話を聞いているシルヴァンティスは、話の内容よりもルーファスとウルルの互いの話し方に変化が起きていたことの方に驚いた。


 «ウルル=カンザスに対するルーファスの話し方が、千年前に戻っている…それにこれは、ウルルの方もルーファスの変化に気づいておるな。


 此奴め…なぜ我に先に一言話しておかぬのだ…!»


 ――などと少し憤慨している。


『二、三(とし)が上の兄といるとのことですが、その兄も自分については良くわからないと言っており、本当の兄妹ではないようです。兄はどうか不明ですが、少女の方は恐らく力を怖れた親に捨てられたのではないかとのことでした。』


 そしてウルル=カンザスの方は、この連絡でそれとなくシルヴァンティスにルーファスの変化について伝えるつもりでいた。

 …が、ユスティーツから受けた報告の件で俄に忙しくなり、他にもシェナハーン王国中に仕掛けられている〝赤黒い結晶〟の破壊と調査もまだ続いていたため、シルヴァンティスがルーファスといる可能性も考えずに(と言うか、この時間ならそれが普通である)こんな平凡なミスをしてしまったのだった。


 ウルル=カンザスはルーファスの記憶が戻っていることに気づいているも、記憶を失っていた時のように接すれば良いのか、千年前までのように場合によって空気を読んだ方が良いのか、まだルーファスに対する態度をどう変えるべきなのかで悩み中だ。

 当のルーファスの方は自分のことで手一杯で、そんなウルルの変化にもまだ気がついていないようだが。


「そうか…それなら魔族の子供か、人間の子供でも魔族の血が流れているかどうかまではわからないな。」

『!…やはりそこに思い至られますか。』

「ああ。俺のデータベースにも、魔物を使役する者や魔物の方が自らの意思で付き従う、若しくは魅了される者には、魔族の中でも能力や位の高い血族の血が深く関わっているとある。」


 «データベース…ルーファス様の例の〝自己管理システム〟という超高位魔法による蓄積情報か。…魔族に関する内容をこうも当たり前に話されるとは、やはりルーファス様のご記憶は戻っていらっしゃるのだな…»


 ウルル=カンザスは共鳴石の向こうでそんなことを考える。


「ただ千年前ならいざ知らず、この現代でカオスでもない魔族が人に紛れている可能性自体低い上に、魔族と人間の混血など先ず考えられないだろう。」

『では残る可能性は〝先祖返り〟でしょうか?』

「恐らくな。」


 «先祖返りによる力の発露か…碌に言葉も話せないのなら、大人から酷い扱いを受けて怖い目に遭わされたこともあるだろう。

 もしかしたら人間に怯えて暮らしているのかもしれないな。»


 全く面識のない子供のことを考え、ルーファスは極自然にその身を案じる。


「――それでその子はどうしているんだ?親に捨てられて保護者もいないとなると、できるだけ早く力を封印して誰か守ってくれる大人と一緒に生きられるようにするべきだ。でなければ最悪の場合、その特殊能力を持て余して悪い方へ進んでしまう恐れがある。森の中で浮浪児として生きているなら既に魔物の中で暮らしているんだろうから、そのまま放置しておくのはとても良いこととは言えないぞ。」

『はい。ですがその…私の力では、害のない能力をそのままにして、潜在的な祖先の血に影響する封印魔道具を作製するのは困難なのです。』


 瞬間、ルーファスは悟った。


「ああ、なるほど…それを俺に頼みたいのか。…確かに時間は必要だし、ちょっと厄介だな。」


 «現行の通常能力を全く封印せずに、祖先の血に纏わる特殊能力〝だけ〟を選別して封じる手段を構じないとならないのか…確かにこれはウルルさんでも無理だ。

 指定条件の選定だけでも相当な時間がかかる上に、子供だから成長に伴う新たな能力の獲得から身体や力の変化まで考慮しなければならない。

 それならいっその事、俺がその子の面倒を見た方が早いくらいだが…さすがにそれは安請け合いできないだろう。»


 それでもルーファスは最終手段として、その子を引き取る状況まで頭に思い浮かべた。


『申し訳ありません。このようなことをお願いするのは心苦しいのですが、依頼者にはアゴニー・アラークの捜索を手伝って貰ったので、どうかご考慮頂けないかと存じます。』


 続くウルルの言葉を聞いて、ルーファスはの表情はパッと明るくなる。


 ルーファスは並行世界での情報を元にラ・カーナ王国の王族だというサイファー・カレーガ王子と、一緒にいたアゴニー・アラークの捜索を先んじてウルル=カンザスに頼んでいた。

 これはサイファー王子がシェナハーン王国で行方不明になっていることから、時間がかかることを考慮してのこともある。


「アゴニー・アラークが見つかったのか、それは朗報だな!今は立て込んでいて動けないが、状況が落ち着いたらすぐにでも話を聞きに行きたい。アゴニーの身柄はフェルナンドに預けてくれたのか?」

『ご指示の通りに致しました。彼にはルーファス様との面会までバセオラ村に留まり、フェルナンド・マクランの下できちんと働けば、特例として資格の再取得を認める旨を告げると喜んで契約にも応じましたよ。』

「ありがとう。あの彼はあの時点でも、なぜあんな連中といるのかを不思議に思うような男だったんだ。詳しい話は本人から聞くけど、無理を言ってすまなかった。大変だっただろう?さすがはウルルさんだ。」

『いいえ、勿体ない御言葉です。』


 ルーファス様に褒められた、とウルルの顔が綻んだのは言うまでもない。


「うん、そういうことなら依頼者の為にも、できるだけ早く封印用の魔道具を作れるように時間を取るよ。最も早いのは俺がその子に直接会って実際に力を見ることだけど…街には入れないだろうから難しいだろうな。」

『仰る通りかと。長くなりましたが、勝手ながら何卒よろしくお願い致します。』

「ああ、引き受けた。そうだ、またなにかあったら、その時はもう遠慮しないで連絡をくれ。」


 こうしてルーファスはウルルとの通信を終えたのだった。


「――アゴニー・アラークと言うのは誰だったか…発音の響きから名に聞き覚えはあるのだが、思い出せぬな。」


 強化共鳴石を手渡すと、それを受け取って首に鎖をかけながらシルヴァンティスは記憶を辿っている。


「シェナハーン王国のボスケ湿地帯で俺が罠に嵌めて規約違反の証拠を挙げ、ウルルさんに即時守護者の資格(ハンターライセンス)を剥奪されたSランク級守護者の一人だ。」

「!――ああ、それで聞き覚えがあったのか。その男に…」


 なんの用があるのだ、と尋ねそうになり、ハッとしたシルヴァンティスはすぐに言葉を飲み込んだ。

 そんな彼の表情と仕草を見てルーファスは静かに微笑むと、ポン、と腕の辺りを軽く叩いて遮音結界を解いた。


「…行こうか。」


 周囲の喧噪が二人の耳に戻り、改めて教会へ向かって歩き出そうとした時だ。


「あの!!」


 ――と、今度は男の声で後ろから誰かに声をかけられてしまう。


「はあ、今度はなんだ。」


 呼び止めた相手にはなんの非もないのに、こうして街中で頻繁に見知らぬ者から声をかけられるシルヴァンティス(だけでなく太陽の希望は全員同じなのだが、例の申請条件と副リーダーであるため特に多い)は、一瞬でブスっとした不機嫌顔を振り向きざまに向けた。

 それと同時にもちろんルーファスも振り返っているのだが、シルヴァンティスの顔に微苦笑しながら相手を見る。


「!」


 するとそこに立っていたのは、並行世界での出来事からルーファスはあまり良い印象を抱いていない、Aランク級パーティー『カラマーダ』の面々だった。


 «ガシェー・ダーマー…!!»


 瞬間、努めて出さないようにしよう、と思うも、ルーファスは嫌そうな顔をしてしまう。

 そしてその表情をシルヴァンティスは見逃さなかった。


「なんだ?我らになにか用か。」


 ルーファスの心中を敏感に悟った彼は、鬼の如き恐ろしい顔をして彼らを威嚇しながら尋ねる。

 当然、カラマーダの面々は震え上がった。


「あああ、あの…すいません!俺らAランク級パーティーの『カラマーダ』って言います!!銀髪の守護者さん…太陽の希望(ソル・エルピス)のリーダーに話があって…」


 その全てを言い終わらないうちに、シルヴァンティスはピシャリと断った。


「間に合っている。」

「……は?」

「おまえ達のようなハンターとの時間は、お腹一杯迷惑千万だ。だから間に合っている、と言った。」

「えー……」


 そのあまりにも冷たい対応にガシェー・ダーマーはがっくりと肩を落とした。その直後、ルーファスはシルヴァンティスの前に進み出て彼を制止する。


「いや、いいんだ…シルヴァン。多分彼らが俺に声をかけたのは、俺のせいだ。」

「…なに?」


 嫌そうな顔をしたにも関わらず、気を取り直したかのようなルーファスの態度にシルヴァンティスは面食らう。



 ――そうだ、彼らを並行世界と同じに思う俺の方が間違っている。このカラマーダはなにもしていない、ただの善良な守護者パーティーだ。折を見て俺の方も会うつもりでいたじゃないか。


 俺は同業者を死に追いやったことで、その罪悪感に苛まれて死にそうな顔をしていたダーマーの顔を思い浮かべた。

 だが目の前の彼はそれとは全くの別人で、明るくハキハキとした自分の仕事に誇りを持っている、守護者らしい好青年だった。

 それにメンバーの全員を真眼で見ても、ヴャトルクローフィはもちろん、誰の中にもリムドゥーフの姿は見えない。


 このカラマーダはもう俺の知るあのカラマーダじゃない…それなのにこんな態度を取るのは、さすがにいけないよな。


 そうして俺は自分の態度を改めたのだった。


「良く街中で声をかけられるから迷惑そうな顔をしてすまなかった。――俺に声をかけて来たのは、俺が二週間前に君達カラマーダの詳細情報をギルドの端末で閲覧したからだろう?」

「!?」

「!」


 俺の言葉にシルヴァンは驚き、ダーマーはパッとその顔を上げて嬉しそうに俺を見た。


「その理由が聞きたくて、もしかして俺を捜していたのかな。」


 俺の中のダーマーは別人だと割り切り、いつものように俺は笑顔を向ける。


「そうそう、そうなんですよ!!すいません、世界最高位パーティーの世界最高位守護者の方に、俺らみたいのが声をかけること自体烏滸がましいんですけど、お仲間でザンバラ長髪の赤毛君にギルドを通じて連絡するって言われて、待ってても一向に連絡が来ないんで、つい呼び止めちゃいましたっ!!」

「「??」」

「…ザンバラ長髪の――」

「赤毛君?」


 思わず俺はシルヴァンと顔を見合わせた。


「もしやデウテロンのことか?」

「ウェンリーは短髪だし、長髪で赤毛ならそうだろうな。…もしかして忙しくて忘れているのか?」

「ふむ…」


 暫しシルヴァンは腕組みをして首を傾げながら記憶を辿ると、〝あ、そうだった!〟みたいな顔をして目を見開いた。


「そう言えばそのような話を我が聞いたような気もするぞ。今は立て込んでいるからそんなのは後にせよ、とデウテロンを叱ったような覚えが――ぬ…」

「つまり俺に伝わっていないのは、デウテロンじゃなくておまえのせいか。」


 〝ぬ…〟じゃないだろう。――俺はシルヴァンに苦笑する。


「すまぬな、我のせいでリーダーにそなたらのことを伝えそびれていたようだ。ここで謝罪しよう。」


 意外にもシルヴァンは素直にカラマーダへ頭を下げたのだった。


「ルーファス、教会へ行くのはどうする?」


 その問いに俺が答える前に、ダーマーは割って入る。


「あ、忙しいんなら出直します!」


 腰が低いな…あのダーマーの本質はこんな人間だったのか。…いや、俺自身もあの時とは違うしな。


「いや、俺の方も聞きたいことがあるんだ。丁度いい、そちらの都合が良ければギルドのミーティングルームへ行こう。…良いかな?」


 ダーマーは「はい、喜んで!」と元気に返した。


 浮き足立つカラマーダの五人を引き連れ、俺とシルヴァンはギルドのハンターフロアで窓口にミーティングルームを借りられるか尋ねる。

 たとえ空いていなくても無理を通せば貸して貰えるが、俺達はそんな横暴な真似をしたことはない。

 幸いにしてちょうど一部屋空いたばかりだったので、そこを少しの時間だけ借りることにした。


 モナルカで二週間毎日このギルドを利用しているが、メンバー以外の守護者と行動をしているのはこれが初めてであり、俺達を見ていたハンター達はざわついている。


 ああ、そう言えばこんな雰囲気を、俺はメクレンでリカルドと一緒にいた時に感じたことがある。…ふとそんなことを思い出した。


 外からは俺の方が年下に見えるだろうに…パーティーとしても最高位守護者としてもここまで上り詰めると、やっぱり回りの反応は一変するものなんだな。

 以前リカルドの見ていた光景を、今は俺が見ているなんて…少し不思議な気分だ。


 なんてことを考えながらミーティングルームへ移動した。


 普段の俺達太陽の希望(ソル・エルピス)は、ここで良く自分達で用意した飲み物を持ち込んで打ち合わせや話し合いをしているが、ギルド内の売店に頼めばいつでも飲み物を買うこともできる。

 今は予定外に来たので、窓口にある売店の売り子に人数分の飲み物を頼んだ。


「いきなり引っ張って来てすまないな。改めて俺は『太陽の希望(ソル・エルピス)』のリーダー、Sランク級守護者のルーファス・ラムザウアーだ。そして俺の隣にいるのが――」

「同じく副リーダーのシルヴァンティス・レックランド、S級だ。ルーファスとは旧知の間柄でもある。」


 俺とシルヴァンの後、ダーマー達は各々名乗ってくれた。


 リーダーはガシェー・ダーマー。続いてジョニー・ロッセル、マシュー・ウィーソン、バーバラ・コーウェン、ルレット・ワース、の男女五人。

 ルレットという女性のみBランク級で、他は全員Aランク級だそうだ。


 早速本題に入る。


「俺が君達カラマーダの情報を閲覧していたのは、今はモナルカの外れに建っている教会の場所に、半年ほど前まであった〝孤児院〟について調べていたからだ。」


 これは半分本当だ。


「とある筋から聞いたんだが、君達は全員孤児院出身だろう。特にリーダーはここの孤児院出身だ。街と国から取り壊しの話が出て建て替えする案もあったはずなのに、なぜ孤児院は再建できなかったのか教えて貰えないか。」


 俺の意外な話に、シルヴァンを含めた全員がかなり驚いていた。


 個人的な情報に関わる話だし、特にダーマーは他国から来た俺がどうして、と思うのは当たり前だろう。随分困惑している様子だ。


「えっと…ルーファスさんは俺らの孤児院をどうして知ってるんですか?」

「いや、孤児院を知っているわけじゃない。カステン物流運送会社が多額の負債を抱えて倒産したこととの関連を調べているんだ。」

「カステン…それって自殺したって聞いたあの…?」


 シルヴァンはあまり多くを知らないために、なにがなんだかわからないという顔をしているが、並行世界と異なりカラマーダは一切関わっていないのに、なぜマイル君の父親は同じ自殺という道を辿ったのかについて調べ、孤児院とカステン物流運送会社の倒産原因になんらかの関係があることを過去で掴んで来たのは、ゲデヒトニスとサイードにシルヴァン達だった。


「俺らもあんまり詳しくは知らないけど、カステンって運送会社の社長さんは俺とジョニーに同じくモナルカ孤児院の出身だって聞いたことはあります。」

「!?」

「だから孤児院を取り壊す話が出た時、建て替えにかかる資材を安価で仕入れて運んでくれる契約をしてたらしくて…でも結局、建て替える話そのものが消えたせいで大変なことになった、って言うのは知ってます。」


 マイル君のお父さんがあの孤児院出身だった?それは初耳だ。それに…


「なぜ建て替え話はなくなったんだ?」


 俺の問いにダーマーは言い淀むように間を置いてから答えた。


「――院長先生が突然過労で倒れて亡くなったんです。」

「!」


 あの人の好さそうな院長が…亡くなっていた?しかも半年以上も前に?


 孤児院のことで心労が重なれば過労で倒れたとしてもおかしくはないが…それにしたって並行世界では生きていたのに、か?


 まさか…


「それでもう建て替えるどころじゃなくなってしまい、子供達は他の児童養護施設なんかへバラバラに引き取られることになって、老朽化した建物もすぐに壊されました。」

「………」

「そうなると俺らになんかもうどうしようもないですよ。助けたい気持ちはあっても子供の面倒を見られるわけじゃないし、院長先生みたいに孤児達の世話をしようなんて奇特な人はそんなに多くない。――だからあっという間でした。」


 そうでなくとも自分達は今でこそ掲示板の文字も読めるようになったが、元々碌に勉強のできない環境にいて難しい文字などは読み書きもできず、街や国を相手にきちんとした契約や資金調達などとてもできなかった、と彼は当時の思いを俺に吐露する。


 彼らの識字能力に関しては俺も知っている。カラマーダはその弱点を突かれて、商業組合の悪事に利用されていたからだ。


 だが問題はそこじゃない。


 俺はダーマーの話を遠くに聞きながら、頭の中では別のことを考えていた。


 ――これは…どういうことだ?この先はダーマーの話を聞かなくても想像は付く。


 つまりカステンさんは運送会社を始めて軌道に乗り始めたばかりなのに、自分の育った孤児院を守ろうとして無理をし、畑違いの資材調達にまで手を出したのに…運悪く院長先生が亡くなって建て替え話そのものが消えた。

 当然購入した建築資材は行き場を失って、孤児院から入るはずだった代金も支払われない。

 多額の負債を抱えて、ということだから、運送会社の資金を多少なり融通してまで助けようとした可能性もある。

 自殺したのは三ヶ月前だから、それまでは必死に経営を立て直そうと努力もしたんだろうが、残念ながら力及ばなかった。

 その後のマイル君とお母さんの悲劇は、きちんと商業組合から父親の生命保険金が支払われたことにより目を付けられて起こったものだ。


 いや、それはともかくとして…元になったカステンさんの失敗は、あまりにも人情深い一人の人間の生涯で『起こり得そうな』話だと思わないか?

 並行世界での守護者による契約破棄が元となったあんな自殺原因よりも、こちらの方が余程筋も通っている。


 ――思えば並行世界でのこの件にはア・ドゥラ・ズシュガにカオス第四柱(テトラゾイレ)が関わっていたり、色々と不明に終わったリムドゥーフやそれ以外の存在を感じたりしておかしな面は多かった。

 俺は守護者で商業組合にまで手を出せなかったこともあり、最後はアドラオンを監視に付けたカラマーダ以外の調査を、ウルルさんとメル・ルークの警察機構にお願いしたまま途中で終わっている。


 今となってはあの過去へ戻ることもできないために改めて真実を突き止めることは不可能だが…この現実世界だけでなく、もしもあの時既に介入があったのだとしたなら?

 院長先生の『突然死』とそれに伴うカステンさんの『自殺』…変わらないのはカステンさんの自殺だけだが、院長先生の死を生存に変え、守護者を関わらせることで暗に俺へ向けた自身の存在を匂わせる…その結果、介入者まで辿り着けなかったのは俺の不明だろう。


 要するに並行世界でも介入は()()()()()


 カラマーダの犯罪や五つもの守護者パーティーの不可解な死は、元を辿ればその全てが孤児院救済を望む院長先生の『生存』から端を発している。

 そう考えれば介入者はたった一人の運命を変えるだけで、その後に続く様々な出来事を連鎖的に引き起こせた。


 ならば一体いつのどの辺りから俺の周囲で動いていたんだ?推測通りなら並行世界でのカラマーダも結局は被害者に過ぎなかったんじゃないか…!


 ――こればかりはもう、介入者を捕らえて直接問い質す以外に真実を知る術はない…いや、下手をしたらなにもわからずじまいで終わる可能性もある。


 介入者は俺になにがしたいのか、なんの目的があって引っかき回しているのか…もうさっぱりだ…!


「――ルーファス…大丈夫か?」

「…え?」


 俺は話の途中で愕然となり、カラマーダの見ている前で頭を抱えて考え込んでいたらしく、シルヴァンに声をかけられるまですっかり没頭していた。


「あ、ああ…ごめん、ちょっと考え込んでいた。」


 はあ…落ち着け。並行世界での出来事と、今の現実を混同して考えるな。向こうでの介入者の目的と今の目的は、そもそもが異なっている場合もある。


 だからこんなにも結果は違うのかもしれない…


「あの…?」


 俺は気を取り直してダーマーにお礼を言うことにした。


「ありがとう…おかげでカステンさんの話を聞けて、俺の疑問が一つ消えたよ。最後にもう一つ聞きたいんだが、院長先生から〝フェイト・シックザール〟と言う名前を聞いた覚えはないかな?」

「フェイト…?いえ、すみません…多分ないと思います。」

「…そうか、それならいいんだ。」


 ――この現実世界でダーマー達カラマーダは不審人物と接触していない。これでようやく確信は持てそうだ。


 カラマーダにリムドゥーフと出会った形跡はないことから、異精霊を連れて来た眷属契約主は『介入者』であることが推測でき、その正体は教会の御神像で姿を見た、白銀の蜘蛛を使役する運命神…『フェイト』だ。




 ルーファスがギルドのミーティングルームで介入者の正体に確信を得た頃、『アルソスの森』では、リヴグストとカイゼリンの二人が協力して依頼対象の変異体討伐に当たっていた。


「アルビノスドロセラの蔓と粘液に注意せよ、カイゼリン!!」

「はい!!」


 『アルビノスドロセラ』とは植物系魔物の呼称で、ベタベタする粘液の分泌される鞭状の蔓で獲物を捕らえると、躯体前面にぱっくりと大きく開いた取り込み口から瓢箪のように膨らんでいる体内へ放り込んで食す。

 その変異体の体高は三メートルほどで、捕獲蔓は最長五メートルもの長さがあった。

 但し躯体そのものは重く、移動速度はナメクジやカタツムリ並みに遅いため、切断してもすぐに再生する捕獲蔓と頭頂部から噴水のように吐き出される酸性液にさえ注意すれば、左程狩るのは難しい相手ではなかった。

 もちろん、変異体討伐に取りかかる前に、お供の通常体は倒し切ってある。


 普段ルーファスの傍で臨機応変に前・中衛を務めるリヴグストの援護と、自らも火、風の下位魔法を使い熟す前衛向きのカイゼリンが組めば、この程度の魔物に苦戦することもない。


 カイゼリンは風切り音を立てて襲い来る捕獲蔓を舞うように避けつつ、剣でそれを切断しながら魔物との間合いを詰めて行く。

 すると近付くカイゼリンへ向け、アルビノスドロセラの変異体はその全身を赤茶けた色に変化させて頭部に空気を吸い込んだ。


 ズアア…


「酸液ぞ!!氷壁で援護する!!左右から撓る蔓を氷魔法で捕らえたら、その隙にトドメを刺すのだ!!額の中央部を狙え、急所ぞ!!!」


 リヴグストは状況を具に見ながら氷魔法を待機状態にすると、カイゼリンの動きに合わせてそのタイミングを見計らう。


「お任せを!!!」


 カイゼリンの返事を聞いた直後、変異体はブシュウウウウ、と頭頂部から黄色い液体を噴き上げた。

 それを視認するとほぼ同時にリヴグストの氷魔法は炸裂する。


「覆え!!マキシ・アイスウォール!!!」


 ゴゴオオオッ…カカカカカカッ、ビキビキビキビキーッ


 足元に輝く青色の魔法陣から変異体へ向かって大量の水が流れると、地を這う片っ端から凍り付いて変化し、瞬く間にカイゼリンの周囲を覆う天蓋付きの氷壁を作り上げた。

 そのままリヴグストの氷魔法はその先端を棘状にして魔物の躯体へ突き刺さる。


 ズドドドドドッ


「今ぞ!!!」


 タンッ


「ハアアアアーッ!!!」


 地面を蹴って高く跳躍したカイゼリンは、両手持ちにした剣を正確に急所へと沈み込ませる。


 ズンッ


 ゴシャアアアーーーッ


「きゃあっ!!!」


 アルビノスドロセラの変異体は、最後に断末魔の悲鳴による衝撃波を放ってカイゼリンを吹き飛ばすと、水分の抜けた果実のようにしわしわと縮んで息絶えた。


「カイゼリン!!」


 リヴグストは空中に放り出されるようにして吹き飛ばされて来るカイゼリンを落下地点で待ち伏せ、地面に叩き付けられないよう両手でしっかと受け止めた。


 ドサンッ


 瞬間二人の目線は交わり、ほんの一瞬、周囲の時間がその流れを緩めたように感じさせた。


 今ここにウェンリーがいたのなら、確実に冷やかすような言葉を浴びせ、共にピューピュー指笛を拭いていることだろう。


 カイゼリンはリヴグストのがっしりとした腕に抱えられて、至近距離でその男らしく端整な作りをした顔を見ると、瞬時にポポッと頬を赤らめた。

 リヴグストの方はその女性らしい恥じらいのある表情に、胸をドシュンッとなにかに射貫かれ、心の中で声にならない声を上げながら身悶えた。


 «ぐうっ!!!なななななんと、これはクる…ッッ!!!»


「…け、怪我はなかろうか?」


 それでも取り澄まして顔を崩さないのはさすがである。


「はい…ありがとうございます、リヴグスト様。おかげで怪我をせずに済みました。」


 そっと地面に下ろされたカイゼリンは、恥ずかしそうにパッと背中を向けるも、リヴグストからは見えない死角で小さく握り拳を掲げる。


「うぉほん、これで討伐対象は問題なく倒せたようでするな。」


 照れ隠しに軽く咳払いをし、自分の戦利品自動回収で変異体の死骸が消えたことを確認すると、リヴグストは徐に飲み物を差し出す。

 カイゼリンはさりげないリヴグストの気遣いに、嬉しそうに微笑んでお礼を言いながらそれを受け取った。


 そして二人はそのまま、すぐ傍の倒れた大木の上に並んで腰を下ろす。戦闘後の一休み、と言ったところだろう。


「――そなたの戦いぶりを見ていて思ったのだが、片手剣や中剣よりもシルのような槍の方が得物として向いているのではないか?」

「…さすがです、おわかりになりますか?実は私、国の騎士団では剣よりも槍で戦う方が得意でした。」

「ほほう、やはりな。剣の腕も悪くないが、予はそなたの槍で戦う姿も見てみたいものぞ。――しなやかな牝鹿のように軽々と跳躍しアルビノスドロセラの捕獲蔓を華麗に避ける様は、背後に見える森の深緑と相俟ってまるで大輪の紅花のようであった。…やはりそなたは美しい。」

「お誉めに与り光栄です。リヴグスト様も青く輝く魔法陣に照らされ、その紺碧の御髪が靡き舞い上がるお姿は、思わず目を奪われて見蕩れてしまうところでした。」

「そなたの赤と予の青。対照的であるものの、予は相性も悪うないと思うのだが…どうか?」

「気が合いますね、私も心からそう思います。」


 桃色に頬を染めつつ、カイゼリンはリヴグストの肩へそっと頭を凭れかけた。リヴグストはそれだけで舞い上がるような気持ちを抑えるのに必死になる。


「う、うむ、そうか…」


 リヴグスト>«シルには『普段から頭の中は春めいていたが、どうやらリヴにも今度こそ本物の春が訪れたようだな。』…などと言われたが、予にもようやく正真正銘の春が…!!»


 カイゼリン>«やったぞ、シラー!!デウテロン殿の助言通り、リヴグスト様には積極的に迫るより、一歩引いて恥じらいと奥ゆかしさを演出した方が好まれるようだ!!

 私から強引な愛を告げるのでなく、ひたすら耐えて今日こそ!!!リヴグスト様の方から結婚を前提としたおつきあいを申し込んでくださると嬉しいのだが…っ!!!»


 二人は今お互いにそんなことを考えている。


 リヴグスト>«どちらかと言えばリーマ殿のようなか弱い女子(おなご)の方が好みではあったが、こうして肩を並べて共に戦うのも悪うない。

 結婚を前提に交際を申し込むのなら、予が海竜であることを告げねばならぬが…果たしてカイゼリンは受け入れてくれるであろうか?


 ええい、ままよ!!!»


「う、うほん。――あー…その、カイゼリン。先日そなたに、今思いを寄せる者や人族の貴族には良くある許嫁もおらぬというのは聞いたのだが…」


 カイゼリン>«…来た!!!»


「は、はい、リヴグスト様…」


 カイゼリンはそのサファイアブルーの瞳を期待一杯にキラキラ輝かせてリヴグストを見つめると、息を呑んで続く次の言葉を待った。


「予は初めてそなたを見た時、なにかこう…運命のようなものを感じ、そなたこそ予が探し続けていた〝唯一〟なのではないかと思うたのだ。そしてまだ出会うて間もないが、そなたも少なからず予のことを好いてくれておるのではないかと…」

「はい…、はい、仰るとおりです。」


 二人の鼓動は高鳴り、心臓はドキドキとお互い相手に聞こえんばかりに早鐘を打っている。


「そ、そうか…ならばそなたには是非、予との結婚を前提とした交際を申し込みたいのだが…その前に伴侶となるを前提とするなら、予の真の姿を見知って貰わねばならぬ。」

「え…は、はい、なんでしょう…?」


 真の姿?とカイゼリンは戸惑う。そのカイゼリンに覚悟を決め、リヴグストは微笑んだ。


「――どうかあまり驚かずに…そして願わくば、そなたが本当の予を受け入れてくれると嬉しい。」


 リヴグストはスッと立ち上がり、自分達の前の一定範囲に縦横十五メートル以上にもなる特殊な隔離空間を作り出すと、そこに魔法で大量の海水を呼び出して満たしてから姿を消した。


「リ、リヴグスト様!?どちらにいかれたのですか…!?」


 驚いて立ち上がるカイゼリンの前へ、秒後その水中に紺碧の鱗を持つ巨大な海竜が現れる。


「なっ…」


 驚いたカイゼリンは身構えるも、穏やかで優しげな水色に輝く瞳を見てハッとなり、そっと手を伸ばした。


 «まさか…»


「…リ…、リヴグスト様、なのですか…?」

『――そうぞ…カイゼリン、予は人族ではない。これが予の真の姿なのだ。』



 その日リヴグストはカイゼリンに、自分の真実を明かして見せたのだった。




 

次回、仕上がり次第アップします。

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