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Eternity~銀髪の守護者ルーファス~  作者: カルダスレス


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286 賊の隠れ家クルーク

ウルル=カンザスと取引をしたユスティーツは、アゴニー・アラークの捜索のためクリアス台地にある盗賊のアジトへ潜り込んでいました。そこで彼にとって想定外の事態があり…?

        【 第二百八十六話 賊の隠れ家クルーク 】



 シェナハーン王国西部にある『クリアス台地』は遥か昔、西側の海面を反射する日の光によって白岩石の表面が白く透けたように見えることから〝クリアストーン台地〟と呼ばれていた。

 それがいつしか地元住民の間で短く〝クリアス〟と呼ばれるようになり、過去の天変地異により今では名の由来となった海岸線も数キロ先に遠のいている。

 そのクリアス台地は少し歪な円形をしており、パスラ山の上部から遠く眺めるとその形状と広大なクフェア大森林が相俟って、深緑の絨毯に置かれた円卓のように見える。

 それはそこを根城(アジト)とする盗賊達の隠語で『クルーク(円)』と表され、真っ当な職に就けずハンターにも賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)にすらなれずに、最早まともな生き方を(一部好んで)諦めた者達が大勢住み着いていた。

 そんな彼らのシェナハーン王国で唯一の居場所は、まだ海が近くにあったころ近海に棲む海竜が洞穴を掘ったと言われ、そこを天変地異時に人が避難場所として改良していったことからかなり複雑な内部をしている。


 有翼人のユスティーツがライ達の元を離れて翌々日。魔物駆除協会(ハンターズ・ギルド)の知られざるギルドマスター〝ウルル=カンザス〟との取引により、その資格を剥奪された元Sランク級守護者『アゴニー・アラーク』の捜索を頼まれた彼は、ここ『クルーク』への侵入()()難なく成功していた。


 «――はあ、ホント参ったよなぁ…。»


 ウルルから転送されて来た資料に同梱されていた『ステルスハイド』の魔法石を使い、その姿と気配を完全に消し、ユスティーツはとある場所で目の前を行き来する盗賊達を見ていた。

 ここは彼らが頻繁に出入りする『食事処』であり、聞こえてくるのは下品な笑い声や喧嘩をする怒鳴り声に、飛び交う汚い言葉と野次に最低限の作法も他者への気遣いもない、無法者達の喧噪ばかりだ。


 彼の当初の予定では、隠形魔法石を用いての侵入後に隠れて標的を探し出し、見つけ次第姿を見せて〝相手が素直に応じればそのまま転移魔法で脱出〟〝抵抗すれば事情を説明し、一緒に来るよう説得してから同じく脱出〟〝こちらの要望には一切応じず、抵抗もしくは騒ぐなどして賊を呼ぶようなら気絶させて脱出〟…と、三パターンぐらいの状況を考えていた。

 ところがここへ潜り込んですぐ肝心な標的を見つけ出す前に、野盗でも山賊でもない “予想外の存在” がいることに驚き、最悪の場合、もし見つかっても盗賊だから殲滅してしまえば良いと思っていた対策を根本から変える必要が出てしまう。


 そこでユスティーツは一旦外へ出てウルルへ連絡し、ここの状況を先に知らせるべきだと判断したのだが、その時点で最初に転移魔法が発動しないことに気がついた。

 これは中をこっそり探ったことで理由も判明していたが、周囲には凶悪な魔物の多く生息する深い森しかない人里から離れた場所にも拘わらず、この隠れ家にはなぜか高度な魔法障壁が張られているせいだった。


 このことが先ずユスティーツにとって一つ目の〝想定外〟だった。


 次にユスティーツは転移魔法が発動しないその原因を探っている最中(さなか)、盗賊のアジトには似つかわしくない者達の姿を見かけて非常に驚いた。

 それは民間人でもなければハンターでもなく、本来はここを根城にしている犯罪者達を捕らえて取り締まるべき職にある者…『守護騎士(ガルドナ・エクウェス)』だった。

 最初こそ盗賊が騎士服を着てなりすましている可能性を疑ったが、その言葉遣いや罪を犯した人間を軽蔑するような態度に騎士同士の会話を聞いて、それらが間違いなく本職にある人間達だと知り愕然となる。


 これが二つ目の〝想定外〟だった。


 汚れて食べ物のカスや塵の散らばる床に、碌に拭いてもいない不衛生な食卓。破落戸(ごろつき)の酒に酔って吐いた汚物の匂いまで漂って来るこの場所に、ユスティーツは吐き気を催しそうになりながら酷く顔を顰める。

 しかもこれだけ乱痴気騒ぎでギャーギャーガヤガヤ煩ければ、姿の見えない彼が溜息を吐いたところで誰にも気づかれることはないだろう。


 事前にはなにも言われなかったし、まさかとは思うけど…ギルマスはここに守護騎士が出入りしてるって知ってたわけじゃないよね?

 もしかしてついでにそのことも僕に探らせようと画策してたとか…?


 その頭にウルル=カンザスの冷ややかな視線と能面が思い浮かぶ。


 ――それはないって言い切れないところが何気に悔しいな…意趣返しって言われたらそれまでだもんねえ。


 誰にもその顔は見えないが、壁際で彼は苦笑いを浮かべた。


 ユスティーツはこの二日かけて出入り可能な場所に限り、内部をできるだけ詳細に調べ回っていた。

 その結果ここの魔法障壁は『複数基型』であることがわかり、各所に設置されている結界石のどこか一箇所でも破壊すれば効果は消えるため、脱出の際は一時的に障壁を消して転移魔法を使えばいいと既にその手段は講じていた。


 残る問題は肝心の標的であるアゴニー・アラークの捜索だが、時間がかかりそうなら適当な盗賊を脅して居場所を聞き出せばいいと思っていたのに、守護騎士がいる所為で慎重に動かなければならなくなり、未だ発見には至っていなかった。

 それと言うのもこの隠れ家はちょっとしたダンジョン並みに広く、標的がどこかに捕らわれているのでもなければ、ただ闇雲に歩き回っても三日という短期間でその居場所を見つけ出すのはかなり困難だったからだ。


 そこでユスティーツはここの盗賊達が頻繁に出入りする場所や良く集まる場所…例えばこの食事処や盗賊を纏めている頭目の部屋に集会場などへ目を付け、標的の方から姿を見せるのをじっと待つことにした。

 だがそれもこれまでのところ、資料の写画で見た顔は見つけられないままだ。


 もう夕食の時間も終わりだね…一昨日からこれで丸二日経った。ここの盗賊達は最低でも日に一度、食事や飲酒をしに必ずここへ顔を出す。

 なのに肝心の標的はまだ一度も顔を見せていない、と言うことは…


 アゴニー・アラークは守護騎士の監視が厳しくてまだ調べられていない場所にいるか、その可能性は低いと思って見るのを後回しにした『監禁部屋』にいるかだ、とユスティーツは考える。


 構造上見張りを殺さないとならないから後回しにしてたけど、後はもう監禁部屋を確かめに行くしかないか。

 守護騎士のいる場所には盗賊も入り込めないみたいだし、あの奥にいる可能性はもっと低いよね。

 でも念のためにもう一度だけ、中に入れないか試してみようかな…


 ユスティーツはこれまでに二度、食事処の閉まっている時間などに守護騎士がこんな所でなにをしているのか、その理由を探ろうと試みていた。

 初めはここへ来た初日にその姿を見かけてすぐに彼らの後を付け、アジトとして利用されていない洞窟の奥から、盗賊達も知らない地下へと潜っているらしいことまでは突き止めていた。

 そこでここの地下には一体なにがあるのか見るために入り込もうとしたのだが、入口を屈強な守護騎士が監視していると言うだけでなく、ユスティーツが見たこともない『フィアフ』と思われる警備機器が設置されており、それの効果で自分にかかっている隠形魔法も無効化されてしまう事に気がついた。

 もちろん、守護騎士と戦うなりすれば無理矢理にでも通ることは可能だろうが、騒ぎを起こせばその分本来の目的を達成できなくなる可能性も高くなってしまう。


 それならせめて彼らの会話からなにか情報を得られないかと耳を欹ててみたものの、ここに派遣されている騎士達は国の中でも位の高い上級騎士なのか、挨拶や簡単な雑談はしても殆ど無駄口を叩くことはなく、任務に関わるような話は一切口にしなかった。


 そうなるとユスティーツにしてみれば、益々気になってしまう。


 «うん、やっぱり監禁部屋へ行く前に、もう一度あそこへ行ってみよう。»


 そうして彼は二日かけて見張っていた食事処には見切りをつけて移動し、三度その守護騎士の立つ入口まで来てみたのだった。


 高さ十メートル、幅六メートルほどの横穴両端に、青光を放つ結晶の嵌め込まれた駆動機器が置かれ、そこから隙間なく通路を完全に塞ぐ形で障壁が張られている。

 その前には鉄と木材で組まれた強固なバリケードも築かれ、剣や槍などの武器を装備した守護騎士が複数人、ピンと背筋を伸ばし直立不動で並んでいた。


 ――うわー…変わらず厳格そうな守護騎士ばかり配備されているなあ。なんか初日より数も増えてない??…あそこを突破するには、やっぱり騎士達をなんとかしないととても無理だよね。

 魔法障壁の結界石は警戒も甘くて単純だったから、十数秒間のジャミング(※妨害魔法)で障壁も消せるけど…あの駆動機器は『神力(エーテル)』を用いているみたいだから僕の力じゃ消せないだろうな。

 …それにしてもシェナハーン王国は、どこであんなフィアフやエーテル結晶を入手したんだろう?すっごく気になる~


 無理に通るか諦めて引き返すかをその場で再度考えると、やがてユスティーツの赤味を帯びた栗瞳はその思考に沿って徐々に昏い輝きを放ち始める。


 段々方法を考えるのも面倒臭くなって来たな…いっそのことあの守護騎士達も全員食べちゃおうかな?

 襲撃に失敗して死んだら死んだで構わないし、そうなったら〝僕の役割〟はここまでってことだよね。

 ああでも、嫌だなあ…虚勢を張ってギルマスにはああ言ったものの、人間って魔物と違って()()()()()()んだよね。

 善人はわからないけど、もしかして食べたことがあるのは悪人ばっかりだから不味いのかなぁ?


 ――どうやらユスティーツは、巨大な闇獣(あんじゅう)の口である『オムニスオブルーク』で食べた物の〝味〟がわかるらしい。


 一頻りどこか捨て鉢な思考に染まって婚約者の殺された場面や憎悪対象であるフォルモールの顔を思い浮かべるも、まだ結成したばかりの『ダヴァンティ』と自分の帰りを待っているライやフォションのことを考えてそれを振り払う。


 …なんちゃってね、自殺行為はダメダメ。僕は来世でもレイリーシャに巡り会いたいんだ。

 そのためにはきちんと定められた役割を終えて天寿を全うしないと。…でないときっと僕は殺された彼女にも、この手で殺めてしまった家族にも許して貰えない。


 ――うーん、長引くとライ様達に心配かけちゃうだろうし、ここを調べるのはやっぱり諦めるしかないのかなあ。

 …あ、でも待てよ?…そうだ、あの守護騎士達には無理でも、休憩中で控え室にいる連中になら〝あれ〟が使えるかもしれないよね。


 なにか良い案を思いついたらしいユスティーツは、口元へニヤリと悪い笑みを浮かべ、入口より手前にある守護騎士の休憩所へ向かうことにした。


 そこではちょうど二名の守護騎士がテーブルに着いて軽食を取りながら、一息入れているところだった。

 まだ三十代前半くらいの彼らは任務でかなり疲れているらしく、言葉少なながらに愚痴を零している。


「ここへ来てどのくらいになった?」

「…今日で二週間かな。貴殿は?」

「俺は三週間めだ。――いい加減シニスフォーラへ帰りたいよな…」

「ああ。俺達はいつまでこんなところにいれば良いんだろう。」


 肩を落として溜息を吐く騎士らに、ユスティーツは気も抜けていておあつらえ向きだ、とほくそ笑むと、ポケットから取り出したなにかの薬を静かに室内へ散蒔いた。

 それは極微量の粉末状で無臭らしく、空気に乗せて流されても彼らが気づくことはなかった。

 その後僅か数十秒でそれの効果は現れ、守護騎士達の瞼は急速に重くなると、催眠状態へ入ったかのように目がとろんとして来る。


 そうしてユスティーツは休憩所の外から薬の効きを確認し、徐に彼らへ向けて囁いた。


『――ねえ…君ら守護騎士は一体ここでなにをしているの?』


 慎重には慎重を期し、魔法で声を変えた上に音響石<サウンドストーン>を通して騎士に問う。

 こうすると一定範囲に音が反響して声の出所がはっきりしなくなり、薬で朦朧としている相乗効果もあって騎士達にはどこから聞こえて来るのかわからなくなり、夢か幻聴だと思い込んでしまう。


 騎士の一人は、まるでユスティーツに操られているかのようにポソリと答えた。


「なにって…訓練を兼ねた〝作戦準備〟だ。――シグルド陛下のご命令で…」


 «作戦準備…?»


 予想外の答えにユスティーツは怪訝な顔になる。


『なんの作戦準備だい?それとこの下にはなにがあるのかな?』


 これにもう片方の騎士が答える。


「それは言えない…厳しい箝口令が敷かれている。もし漏らせば処罰を受けるだけでは済まない…」


 ――調合された幻惑薬を使っているのに口が固いなぁ…君ら守護騎士(ガルドナ・エクウェス)の鏡だね、って褒めたいところだけど、それじゃ困るんだよ。


『大丈夫だよ、わかるだろう?これは気のせい、幻聴だ。誰も聞いていないし、誰にも聞こえない。だから漏らしていないのと同じだよ。』

「………」


 騎士は躊躇うように秒の間を置いて口を開いた。


「ここの地下には…」


 その直後、騎士の身に異変が起きる。


「ぐ…がっ、ガハッ!!!」

『…!?』


 ユスティーツの質問に答えようとしていた守護騎士が、突然なにかに苦しみ出したのだ。

 続いてもう一人の騎士も両手で喉元を押さえながら、ガタンッと椅子から立ち上がる。


「がっ…あ、あが…っ!!」


 えっ…な、なに!?様子がおかしい…!!


 異変に気づき慌てたユスティーツは、すぐに質問を中断して急いでその場から離れると、休憩所の入口が見える場所に隠れて様子を窺った。

 直後監視をしていた守護騎士の一人が駆け付けてくると、腰の剣を引き抜きながら険しい顔で室内に入って行く。

 秒後休憩所からギャッ、と言う二人の悲鳴となにかが倒れるような、ガタガタガタンッ、ドサドサッ、という大きな物音が響いてくる。


 瞬間ユスティーツは自分の今の行いにより、あの守護騎士達が同僚の手で直ちに処刑されたことを悟った。


 ――嘘だろ、たったあれくらいのことで殺すなんて…!!


 魔法石の効果は続いており、隠形魔法で姿と気配は完全に消えていると頭で理解していても、彼はあまりの事態に青ざめて即その場から逃げ出した。


 姿の見えない状態で途中誰かにぶつかりながら(盗賊は酒に酔っていて、なにに突き飛ばされたのかわからずに首を傾げている)かなり離れた場所へ来て息を整えると、罪悪感を抱いて悲痛な面持ちで休憩所にいた騎士達を思い浮かべる。


『それは言えない…厳しい箝口令が敷かれている。もし漏らせば処罰を受けるだけでは済まない…』


 あの騎士達が処刑されたのは僕のせいだ。薬を使ってまで無理に吐かせようとしたから――


 道理で任務について話題にする守護騎士が一人もいないわけだよ。傍で見張っている人間なんていなかったのに、ちょっと話そうとしただけでいきなり苦しみ出した。

 あれは多分なにか守秘義務に関わる誓約魔法を施されているんだ。おまけに誓約を破ることによって命を奪うんじゃなく、わざわざ同僚の手で処刑させるなんて…明らかに騎士達への見せしめじゃないか。


 どうやらシェナハーンの国王がおかしくなった、という民間の噂は真実みたいだな…


 ユスティーツは額から流れ落ちてくる嫌な汗を顎の下で拭った。


 ――もし監禁部屋にも標的がいなかったら、あそこを捜すのは後日にして出直そう。事前にもっと入念な準備と下調べをしてからでないと、相当ヤバそうだ。


 本当に意趣返しのつもりなら、これはとても割りに合わないよ…ウルル=カンザス。


 心を落ち着かせるために深呼吸をして気を取り直すと、ユスティーツは監禁部屋の方角へ静かに歩き出すのだった。


 それから一時間ほど後の夜も更けだした頃、周囲の通路を歩く人影がなくなったことを確かめて改めて行動に移る。


 この隠れ家には盗賊とその家族を含め、総勢二百人ほどが住んでいる。但し普通の村や町とは異なり、各家庭は〝家(部屋)〟を持たず、何カ所かに分散されている洞窟の大部屋で、大人も子供も男も女も好きなように好きな場所で一緒くたに雑魚寝して休むような仕組みだ。

 一応浴室と便所は男女別に設けられているが、風呂を沸かす担当者が良く怠けるせいで浴槽にお湯の張られていないことが多いらしい。

 ここの住人があれほど汚くて不衛生なのは、そう言ったことも原因の一つだろう。


 そんな浴室と洗濯場などの水回りのある区画から奥まったところに、ユスティーツの言う『監禁部屋』はあった。


 ユスティーツは鼻を抓みながら汚れに汚れ悪臭漂う山と成す洗濯物の前を通り、大人一人が屈んで通れる程度の幅と高さしかない通路を素早く潜り抜けた。

 もしこの奥にある監禁部屋に標的がいるのなら、余程タイミングを見計らわないと普通に抜け出すのは困難だろう。そのことは当然、最初の時点で把握済みだ。


 ――監禁部屋は全部で六つある。各部屋は窓のない頑丈な鉄扉で施錠されているから、中にアゴニーがいたとしてもどこにいるかまではわからない。

 おまけに必ずしも一人ずつ入れられているとは限らないし…あの不味(まず)そうな見張りは騒がれる前に速攻で食べちゃうとして、後は標的がここにいるかどうかだけなんだけど…


 木箱を椅子代わりにし、通路中央に座っている見張りの様子を窺いながら、ユスティーツは考える。


 もしここにもいなかったら、ただ殺すのも可哀想だしなぁ…うん?


 鉄の扉は通路を挟んで両脇に三つずつ並んでいる。見張り役を担うのは痩せた中年男だがギョロギョロ血走る落ち着きのない目をしており、葉で巻いた薬草に火をつけてその煙を吸っていた。それは所謂嗜好品の〝煙草〟なのだが…


 あれ、この匂い…『パイディア草』だ。長期間吸い続けると頭がいかれるって有名な、各国で共通に禁止されている麻薬煙草だよね。

 …あー、なるほどね…さすがは盗賊のアジトだよ。あの男、もう中毒になっているんだ。どうでもいいけど、あんなんで良く見張りが務まるよなあ。


 麻薬煙草を吸っている上にこれほど痩せていると言うことは、もうこの中年男の寿命は残り僅かだろう。

 オムニスオブルークで喰らうのにも遠慮は必要なさそうだね、とユスティーツは苦笑した。


 ――決めた。結界石の方にはもう仕掛けをしてあるし、脱出準備は万全だ。

 あのもうすぐあの世へ逝きそうな見張りはとっとと食べちゃって、予定通り〝あれ〟を使おう。


 そうと決めた次の瞬間にユスティーツは右腕を〝巨大な闇獣の口〟に変化させると、攻撃することで隠形魔法の効果が切れて見張りの目に姿を曝け出す前に、男を頭からがぶりと一口で丸飲みにしてしまった。

 麻薬煙草で快楽に耽っていた見張りは、自分になにが起きたのかもわからないまま命を落としたことだろう。


「うえっ、マズ…」


 左手で自身の喉元を押さえて舌を出しつつ、ユスティーツは顔を顰めて嘔吐(えず)く真似をする。


「さようなら、ご愁傷様でした。――さて、それじゃあ…」


 直後小声で一人呟き始めると、無限収納からゴソゴソとなにやら掌に収まるぐらいの小さな魔道具を取り出して、それを得意げに頭上へ掲げる。


「じゃじゃ~ん!僕の秘密兵器、おなじみウルル=カンザス特製の()()()()魔道具~!!」


 そしてドヤ顔をしながら、誰も聞いていないのにのほほんモードに切り替えて説明を始めた。


「この魔道具はぁ~入力した詳細な情報に基づいて~、一定範囲内にそれに合致する~人や物が存在するかを教えてくれると言う~所謂『探知機』なんだけどぉ~、なぜこんな便利な魔道具がぁ〝ガラクタ〟なのかと言うとぉ~、探知範囲が僅か三メートルと~物凄く狭くて使い処が至極限定的だからでぇ~す!」


 心の中では大きな声で、現実は辺りに響かないようボソボソと小さく告げたユスティーツは、当たり前だがなんの反応も返って来ない静けさに虚しくなってガクリと項垂れた。


 …ギルマスの作るガラクタは優秀なのに、時々残念なんだよね。――まあおかげでノクス=アステールの工房に放置してある物を、こうして僕がこっそり拝借して勝手に使えるんだけど。


 もしこの探知機が広範囲を探せたなら、ユスティーツはもっと早く簡単にアゴニー・アラークを探し出せたことだろう。


 それでもユスティーツは自分にはない、ウルル=カンザスやルーファスの『物を生み出す発想力』を心から尊敬している。

 それが魔法であれ魔道具であれ、ウルルが〝失敗作〟や〝試作品〟として放棄した物であっても、いつかなにかの役に立つかもしれないじゃないか、と思い、とりあえず勝手に持って来てしまうのだ。

 その行いはフォションの言うように “手癖が悪いのか?” とも思われがちだが、本人曰く盗んだのではなく借りただけ、や代わりに試してみてあげるだけ、なのだそうだ。


「ふふん、探知範囲が三メートルしかなくても、こう言う場所では重宝するよって後で教えてあげないとね。」


 ――そうしてユスティーツは上機嫌で魔道具の作動釦を押した。


 この魔道具にはアゴニー・アラークの情報を既に入力してあり、その仕組みとしては解析魔法『アナライズ』と空間認識魔法『トランシーレ』(ラウム・パーセプションよりも効果の狭い下位魔法)を組み合わせた魔法紋を用いて、三メートル以内にある物が対象物かどうか調べた結果を知らせる、と言う単純なものだが、外からでは見えない室内に標的がいるかどうかを知るには最適な道具だった。


 それを翳してできるだけ壁に沿って歩くと、箱型の魔道具が対象者(物)の存在を知らせる赤い光を発するかじっと注視する。


 すると最奥の扉前に差し掛かったところで、魔道具はほんのり赤く輝いた。


「!」


 ――見つけた!!


 思わずユスティーツは喜んで、やった!と声を上げたくなる気持ちを抑え、誰か人が来る前に魔道具をしまってすぐ次の行動ヘ移った。

 中にいるのがアゴニー一人ではないことを想定し、念のためいつでもオムニスオブルークを発動できるよう待機状態にしておくと、解錠魔法の魔法石を使って扉の鍵をガチャリと開ける。

 そして素早く中に入るとそこは意外な状態だった。


「え…」


 広さ六から七平方メートルほどしかない室内には予想通り三人ほどが押し込まれていたのだが、捕らわれていた人達は全員意識のない状態で無造作に横たわっていた。

 その中には魔道具が教えてくれたように、アゴニー・アラークの姿もある。


 ユスティーツは直ぐさま標的に駆け寄ると、首の脈に触れて真っ先に生死を確かめた。


 大丈夫だ、生きてる…やけに静かだと思えば、みんな眠らされているみたいだ。


 どうやらここの監禁部屋に入れられる者達は、騒いだり逃げ出したりしないようにこうして眠らされるらしい。

 そんな扱いは普通なら非人道的だが、ここは盗賊のアジトであり、これなら見張りがサボって居眠りをしようと、麻薬煙草に夢中でラリっていようともさして問題の起きる心配はないだろう。

 それに眠っていれば動かないので与える食事も最低限で済み、やがて弱って死ぬか、その前に許しを請うて奴隷同然に頭目へ従うようになるか…ともかく効率的ではある。


 それを知り頭が良いと感心するか、今のユスティーツのように嫌悪を抱くかはまた別にして。


「これは幸い、と言うべきなのかな…本人の意思を問うまでもなく、抵抗される怖れすらないのは良いけど、なんだか胸糞悪いなぁ。」


 チラッと見かけた頭目は正に〝超極悪人〟って顔してたもんね。


 ――まあいいや、殲滅しろとまでは言わないって言ってたし、ルーファス様のご依頼だからなにかある前にこの男の捜索を急いでいたんだ。


 さすがギルマスは抜け目がないよ…


「それにしてもなんで監禁部屋に入れられているんだろ…?指定場所へ運ぶ前に事情を聞きたかったけど寝てるんじゃしょうがない、後でギルマスに聞けばいっか。――さ、これにて脱出脱出~!」


 ユスティーツは予め仕掛けておいた一時的に結界石の力を奪う魔道具をこの場で作動させると、転移魔法の魔法陣がきちんと描かれることを確かめてから、眠っている標的と共に転移して消えて行ったのだった。


 その後アゴニーを黒鳥族(カーグ)に引き渡して無事に取引を終えた彼は、日付けの変わる直前にトウランテイの森にあるあの洞窟へ戻って来た。


「…あれ?」


 ところが入口付近にあれほどいた魔物の姿は一体もなく、代わりに微かな血の匂いだけが地面の染みから漂って来る。

 即その異変に気づいたユスティーツは眉を顰めて険しい顔になると、魔法で灯りを点してすぐさま洞窟内へ駆け込んだ。


「――リグ、フォー君!!」


 直後、内部に潜んでいた蝙蝠型魔物のケイブバットと小型蜥蜴のケイブリザードに襲われて戦闘になる。


 «魔物が…襲って来た!?»


 そのどちらもBランク級のユスティーツより下位等級に当たる魔物であり、ライ達の無事を確かめたいのに行く手を阻まれたことに腹を立てた彼は、瞬時にオムニスオブルークで全ての魔物を喰らった。


「邪魔だよ、どいて!!」


 そうして息を切らし、一昨日はライ達のいたノイン達の棲み処へ辿り着くも、そこには野営用の焚き火あとも元々ノイン達の住んでいた痕跡も一切綺麗になくなっていた。


「………」


 ユスティーツは無言のまま落ち着いてしゃがむと、石の地面に触れながら辺りには血痕がないことを確かめる。


 ――違う…ライ様達は多分無事だ。なにか不測の事態が起きて、ここの痕跡を完全に消してから已むなくどこかへ移動したんだ。

 ノイン君とニータちゃんを連れているのなら、ピエールヴィにいる可能性は低い…それならまだこの森のどこかにいて、僕から連絡が来るのを待っているかもしれない。


 そう思い無限収納に入れていた強化共鳴石(トークボックス)を取り出すと、即座にその場で連絡を試みた。

 するとすぐにライの声が返って来る。


『ユスか?』


 返事を聞いてホッと安堵するユスティーツには、自然と笑顔が浮かんでいた。


「リグ…!良かった、たった今戻って来たんだけど君達の姿はないし、入口付近に血の匂いが残っていたから心配したよ…!」

『ああ、心配をかけたか…こちらから連絡はできないと言っていたからな、書き置きを残すわけにも行かず仕方なかった。フォーはもちろんのこと、ノインとニータも無事にいる。』


 やっぱりあの子達と一緒か…まあ、そうだよね。


「そうなんだね、今どこ?」

『どこ…どこだろうな、そこの自然洞窟から北北西に四半日以上かけて歩いて来た辺りにいる。近くに小川は流れているが、これと言った目印も特徴もない場所だ。』

「北北西?…じゃあラニスターにかなり近付いているね。」

『一定範囲の地形図はあるから、大まかな座標ぐらいならどうにかわかるかもしれないが…調べるか?』

「ううん、それならこの強化共鳴石(トークボックス)を利用してそこまで飛ぶから平気だよ。すぐに行くからこのまま魔道具の通信は切らないでね。」

『…なに?これをどうやって利用すると言…』


 ユスティーツは転移魔法を魔道具に同調させて唱えると、ライが全て言い終わらないうちに一瞬でそこまで転移した。


 シュンッ


「「うわっ!!!」」


 今し方話している最中だったのに、いきなり目の前へ現れたことに驚いて目を丸くするライ達を前にして、ユスティーツは満面の笑みを浮かべる。


「ただいま~!!!」


 焚き火を前に手の塞がっているライではなく、その隣に座っているフォションに向かって両手を伸ばし、そのままの勢いで上からハグしようとするユスティーツの顔面を片手で掴むと、フォションは嫌そうな顔をして仰け反りながら思いっきりそれを拒否した。


「だーッ!!抱きつこうとするんじゃねえ、気色悪い!!」

「え~、フォー君冷たいぃ…」


 フォションは唇を尖らせながらそんな不満を言う彼を押し退けた。


「うるせえ、やんならリグにしろ、リグに!!」

「いや、俺もちょっと遠慮する。」


 ユスティーツは苦笑するライの膝を枕にして、ぐっすりと眠っているノインとニータを見ると声のトーンを落とした。


「あれれ…全く起きないなんてノイン君と妹ちゃん、相当疲れ切っているみたいだね。」

「ああ、今日は随分歩いたからな。――それにしても驚いたぞ、共鳴石で転移魔法の行き先を定めることなんてできるのか?」

「ううん、この魔道具が特別製なんだよ。例えば緊急時には居場所を告げることもできなかったりするでしょ?それとか今みたいに自分がどこにいるのか正確にわからなかったりした場合、通信を切らずに転移魔法の使用者が精神を同調させることで、ここの仕込まれた魔法紋が誘導してくれるんだ。」

「ほう…」


 ――まあこの強化共鳴石(トークボックス)は、ウルル=カンザスがどこにいらっしゃるのかを見失いがちになる、ルーファス様の所在を把握するために開発したものだからなんだけどね…


 その説明を聞き、ライとフォションは〝やっぱりこの魔道具、相当高価(たか)そうだな〟と同時に思ったのだった。


「それはともかくとして…あそこでなにがあったんだい?結構時間も経っているみたいなのに、あれほど血の匂いが残っているなんて尋常じゃないよ。」

「――そうか、まだそんなに…」


 ライの表情が一瞬で曇った。


「まあ大人五人分の血液があの辺り一面に染み込んだんだ、そうすぐには消えねえだろうよ。」

「…大人五人分?」


 二人の表情から余程のことがあったらしいと察したユスティーツは、寝息を立てて眠っているニータのあどけない寝顔を一瞥した。


「もしかしてあの血痕の死者は、ピエールヴィでノイン君を守護騎士に突き出していた、あの時のハンター達かい?」

「「!」」


 その察しの良さにライとフォションは驚いた。


「わかるのか…」

「うーん、わかるって言うか…ある程度予想はしていたんだ。襲って来ない魔物なんて狩り放題だからね。同業者なんだからそのことに気づけば戻って来るんじゃないかって気はしてた。でも妹ちゃんがいれば魔物は狩られても、ハンターは大丈夫だろうと思ってたのに…」

「さすがはユスだな…フォーと似たようなことを言っている。」


 すぐそのことに思い至らなかった俺の方が間抜けなんだ、とライは自分に自嘲しながら続けた。


「――索敵をしてみればわかるだろうが、俺達の周囲をぐるっと囲むようにして、今もかなりの数の魔物が集まっているだろう。」

「うん、そうだね…あの洞窟の入口と同じような状態だ。」


 ユスティーツは頷く。


「ここまで来る途中に変異体と遭遇してわかったんだが、ニータの力に引き寄せられるのは同じ魔物でも通常体に限っていて、どうやら変異体や特殊変異体(ユニーク)には関係ないらしい。」

「!…そうなんだね。」


 «へえ…ちょっと意外だな。それってつまり普通の魔物と変異体なんかには、能力値以外にもまだ知られていないなにかの違いがあるってことなのかな…?»


 続いてその先を話し出したのはフォションだ。


「そんでな、ユス。洞窟に集まってた魔物もそうだが、今ここに屯してる魔物の通常体は、誰に命令されたわけでもなく自らの意思でニータを守っていやがるんだ。」

「え…」

「たとえは悪いが、言うなれば嬢ちゃんが種類に関係なく〝通常体のボス〟であるように、だ。そんでニータの方もある程度の自覚はあるらしく、変異体相手には通常体を仕向けて戦わせることまでできるんだよ。」

「…変異体は同種の通常体を従えるよね?」


 今度はライが答える。


「ああ。だがそれに関してはニータの力の方が上だ。――実際、変異体に付いて来た通常体は俺達に遭遇した途端、こちら側について変異体に襲いかかったからな。」

「おかげで俺らも楽に倒せたんだが…まあ、驚いたわ。」

「…なるほど、それは凄いね。…でもそれとハンター達が殺されたことになんの関係があるんだい?」


 ユスティーツの問いに間を置いてライとフォションは交互に答える。


「今フォーがニータにある程度の自覚はあるらしい、と言っただろう。ニータは魔物が自分とノインを守っていると理解していて、まるで家族のようにすら思っていたようだ。」

「その嬢ちゃんにとっての〝家族〟が、無抵抗でハンターに狩られた。その光景を目の当たりにすれば、ああなったのはある意味当然だったんだろうよ。」

「ああ…そういうことだったんだね。」


 «ルーファス様に封印をお願いする前に、懸念が現実になった、ってことか…»


「――ニータの能力だが、予想通りこの子は魔物を引き寄せるだけでなく操れる力をも持っていた。そこまでは想像もできていたんだが…実はあの時、それだけでは説明のつかない状況になった。」

「嬢ちゃんの力だがな…操れるのは魔物だけじゃねえ、人間もだ。恐らくメンタル面の未熟な子供や耐久値の低い大人も対象に含まれる。そのせいで魔法や呪文を知らないと言ってたノインが攻撃魔法を使うところを見たんだ。」

「ちょっと待って、それって君らは大丈夫だったのかい!?」


 顔色を変えたユスティーツにライは頷き、その後の詳細を説明した。


 ――あの後ニータが我に返ったことで、程なくしてノインも自我を取り戻し、洞窟の奥からライ達の元へすぐに走って来た。

 そこでライとフォションはこれ以上悲惨な光景を見せないように一度洞窟内へと戻ったのだが、ノインが魔法を使ったことに言及するも当人は自分のしたことを一切なにも覚えていなかったのだった。


「ノインもまだ子供で精神的には未熟だ。あれほどの魔力を持っていることには驚いたが、これまでもニータの力によって自分達の身を守るために、知らずに魔法を使って来たんだろう。」

「…だから僕の目には高い魔力と魔法の才があるように見えていたんだね。」

「じゃねえか。」


 «これは…ギルマスからお願いして貰うだけじゃ足りないかもしれない。»


「ノインを守護騎士に突き出していたハンター達は魔物に殺されてしまったが、一緒に来た同業者の中にはあの時いなかった人間も含まれていた。そのことから他のハンターに吹聴している可能性を考え、俺達は急いで痕跡を消してあの場所を離れることにしたと言うわけだ。」

「連中が街へ戻らなければ、どうせ誰かが捜しに来るだろうからな。」


 フォションは付け加える。


「…ギルマスへの報告は僕が戻ってきてからどうするか決めるつもりだったの?」

「ああ、そうだ。」


 ライ自身、ハンターに複数の死者が出ている以上、ギルドに隠しておけないことはわかっていた。

 それでも事前にギルマスへユスティーツから相談して貰っていたこともあり、彼を通せばニータの事情を少しでも汲んで貰えるのではないかと思ってのことだった。


 それが甘いことは重々承知の上でもある。


「リグにも言ったんだがな、ニータをギルマスに預かって貰うってのはどうだろう?」


 フォションがライに提案したのと同じ意見をユスティーツに尋ねた。


 しかしこれにユスティーツは首を振る。


「ハンターが命を落とす前ならまだしも、懸念が現実となった今では多分無理だ。ああ見えてウルル=カンザスは、ギルドマスターとしての自分に最も重きを置いている。それが彼の恩人に対する生涯かけての恩返しであり、黒鳥族(カーグ)として一族全員の存在意義でもあるからだ。それだけに魔物駆除協会(ハンターズ・ギルド)に所属する有資格者の保護を最優先に考えるだろうし、どんな事情があってもニータは危険だと判断するだろう。」

「…そうか。」

「「………」」


 ライとユスティーツは暫くの間黙り込むも、ユスティーツはノインとニータを見るライの眼差しに短く溜息を吐いた。


「――ねえ…リグには二人を手放す気が全くないように見えるんだけど、どうするつもりなんだい?」

「………」


 ライは俯いたまま、まだ黙り込んでいる。


「…わかったよ。それじゃあ僕らダヴァンティは、このまま子供達を連れてメル・ルークへ行こう。」

「「!」」


 ユスティーツの言葉にライとフォションは驚いた。


「いいのか?」

「おい、ユス…!」

「一応僕の〝お使い〟は無事に終わって、ギルマスからルーファス様にニータのことを相談して貰えるようにはなったけど、その子の力は予想以上だから直接会いに行った方が良いと思う。」

「…ルーファスに、か?」

「うん。幸いなことにルーファス様は今、メル・ルークにいらっしゃるらしいんだ。暫くは国内に留まられるみたいだから、僕から連絡をして会って貰えるように頼んでみるよ。」

「はあ…マジかよ。――それで解決する保証はあんのか?」


 渋面をするフォションは仕方なく尋ねる。


「ないけど、僕らのリーダーはリグだと決めたよね。だから僕はリーダーの判断に従う。リグだってこの先本来ならしなくても良い苦労をすることになるとわかった上で連れて来たんだろうから。…だろう?」

「……ああ、すまない。」

「謝るのはナシだ。フォー君だって嫌ならパーティーから抜ければいいんだしね。」

「おいおい、酷えこと言うな。俺はそこまで鬼畜じゃねえ。」

「知ってるよ、だから言えるんじゃない。」


 にっこり笑ってそう告げるユスティーツに、二人は苦笑いをして返した。


「そうと決めたら、明日からは真っ直ぐにメル・ルークを目指すよ。ノインはともかく妹ちゃんを連れて街には入れないから、買い出しやギルドへは交替で行くことにしよう。それと僕らは守護者でその本分は魔物討伐だ。リグは妹ちゃんにできるだけそのことを理解して貰って、僕らが生きて行くためにはどうしても魔物を狩る必要があることをきちんと言い聞かせてよね。」

「ああ、わかった。それは俺が責任を持って教えよう。」

「そうして。」

「…へえへえ、全く…そんならせめて坊主に資格を取らせるこった。あれだけ魔法が使えるならユスが教えればすぐ使えるようになんだろ。」

「そうだね、そうしようか。」

「それはノインの意見を聞いてからな。」


 どうしても子供達を手放すことができなかったライは、フォションとユスティーツも受け入れてくれることになり、その安堵から穏やかな笑顔で微笑むのだった。





 

次回、仕上がり次第アップします。

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