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憑依転生した先はクソ生意気な安倍晴明の子孫  作者: 文月朔夜
第三章 水仙家

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呪吸の儀

 法力を送り続けると、光が徐々に大きくなる。だが、札から何かが出てくる気配はない。まだ時間がかかるのか。


 バチ、バチ。


 札から火花が弾けた。


 もしかして――


『やっとか。優夏、行くよ』

「うん!!」


 準備が整った。


「『呪吸の儀、遂行』」


 札の光が一気に強まる。目が眩むほどの光が膨れ上がり、札から放たれた。


 光は苦しむ女性の前で止まり、そのまま人の形をとる。鏡写しのような輪郭。細い腕が伸び、女性の体を抱き留めた。


 女性は激しく暴れるが、光はびくともしない。


 やがて、肌に張り付いていた黒い痣のようなものが浮かび上がる。


「あれは……」


 黒い液状のものが、皮膚から剥がれるように宙へと引き剥がされる。

 暴れようとするが、見えない力に押さえつけられている。


 すべての痣が消えた瞬間、女性は力なく倒れ込んだ。


 光は顔のような部分を上げ、宙に浮くそれを見据える。


 伸ばした手で掴むと、黒いものはそのまま吸い込まれるように光の中へ消えた。


 すべてを取り込んだ光は、俺に一礼し――消えた。


「……終わった、のか?」

『みたいだね』


 女性に近づく。眠っているだけだ。痣も完全に消えている。


 ……助かった。


 よかった――けど。


「闇命君……」

『気づいた? 外から感じる《《七人分の気配》》』


 ……やばい。


 気配はわかる。でも、体が重い。強い睡魔が襲ってくる。


 呪吸の儀は大量の法力を使う。体が休もうとしているんだ。


「優夏」

「琴平、気づいたんだね」

「あぁ」


 琴平と紅音が入ってくる。二人とも険しい顔だ。


「優夏、大丈夫か?」

「少し眠いだけ。大丈夫。外に行こう。魔魅ちゃん、少しの間だけ頼んでいい?」

「……うん」

「ありがとう」


 納得しきれていない様子の魔魅ちゃんの頭を撫で、外へ出る。


 夜の陰陽寮は静かだった。人影もない。

 強い気配の方へ向かう。


 周囲は森。月明かりだけが差し込む。


 ……まだいる。

 だが、少しずつ遠ざかっている。


 逃げているのか――なら、追う。


『目を閉じて。気配の強い場所を探れるはず』

「わかった」


 目を閉じ、集中する。

 静寂。水面のような空間。


 その中で、わずかな波紋を探す。

 ……あった。


「――見つけた」


 小さいが確かに感じる。森の奥、ゆっくり移動している。


 ――追いつける。


 地面を蹴り、走り出す。琴平たちも続く。


 足音が森に響く。風が木々を揺らす。

 暗い。足元を取られれば終わりだ。


 それでも――見失うな。


「うわっ!」

「闇命様!!」


 足がもつれた。だが紅音が腕を掴み、支えてくれる。


「ありがとう、あか――」


 紅音の視線が、俺の後ろに向いている。

 他のみんなも同じだ。


 ……気配も、後ろから感じる。


 ゆっくり振り向く。


 そこにいた。


 錫杖を手にした妖。笠で顔は見えない。だが、確かにこちらを見ている。


 視線だけが刺さる。

 ……気味が悪い。


『ここで封じるよ』

「うん。これ以上被害は出させない」


 七人の悪霊。見た者を殺し、列に加える妖。


「ここで終わらせる――七人ミサキ!!」


 ※


 森の中に佇む七人の僧侶。片手に錫杖、頭には笠。首からは一から七の数字が刻まれた木製の首飾りを下げている。


 俺たちに気づいたのか、先頭の一人が錫杖の石突きを地面に打ちつけ始めた。

 シャン、シャン、と規則的な音が響く。


 ……嫌な感じだ。


 この間に動くべきか。だが、下手に動けば裏を取られる。


 今の俺たちは疲弊している。

 俺は儀式の反動で強い眠気。琴平や紅音たちも万全とは言えない。


 使える式神は――百目。

 だが、あの件がある。正直、今の俺に使いこなせる自信はない。


 どうする……。


「っ、動いた!」

『紅音!! 夏楓!!』


 七人ミサキが錫杖を掲げ、歩き出す。


 ――え?


 なんで二人の名前を?


「「了解、主の仰せのままに」」


 紅音と夏楓が即座に前へ出る。そのまま七人ミサキへ突っ込んだ。


「琴平!!」

「任せろ。『氷柱女房。赤き灯に、氷刃を与えよ。急急如律令』」


 札が放たれ、氷柱女房が現れる。

 吐き出された冷気が紅音の右手に集まり、形を成す。


「あれは……薙刀?」


 氷の薙刀。


「一瞬で終わらせる」

「紅音、私もいるわ」


 二人が同時に駆ける。


 ……速い。


 紅音が先頭に踏み込み、振り下ろされる錫杖を膝を落として回避。

 そのまま薙刀の柄で足を払う。体勢が崩れた一瞬で、斬る。


 一撃で、左肩から右脇腹まで。


 黒い靄が噴き出し、一体が倒れる。


 間髪入れず、夏楓が二体目へ。


 振り上げる直前の手首を掴み、ひねる。ひるんだ隙に懐へ入り、そのまま投げる。


 残り五体が一斉に襲いかかる。


 だが――


 二人はすでに動いていた。


 視線を合わせ、左右に分かれる。

 次の瞬間、次々と倒れていく。


 ……強い。


 倒れた七人ミサキが震えながら起き上がろうとする。

 それを、二人は冷ややかに見下ろしていた。


 ……怖い。


『何やってんの!! 今だよ!!』

「あ、うん!!」


 今しかない。

 一瞬で倒すなら雷火――……


『七人ミサキを式神にするよ!』


 ……正気かよ。

 だが、闇命君が言うならやるしかない。


 空の札を構え、法力を流し込む。


「『現世を彷徨う者、七人ミサキ。我を主とし、我に従え――急急如律令』」


 札が光る。

 光が広がり、七人ミサキを包み込む。


 ……いける。


 だが――重い。


 件の時より、明らかに抵抗が強い。


 くそ……。


 このままじゃ、持たない。


 焦るな。集中しろ。


 できる。


 必ず。


 抵抗していた七人ミサキが、徐々に引き寄せられる。


 光が収束し、札へ吸い込まれていく。


 重く、濁った声。


 最後の抵抗。

 ――だが、届かない。


 すべてを飲み込み、光が消えた。


「はぁ、はぁ……」


 ……できた。


 これで――


「っ、優夏!!!!」


 琴平の声。

 そのまま、意識が落ちた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

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