羽織りの少女
氷鬼家から逃げ出した陰陽師。その人物は何を狙って、弥来さんにあんなことをしたのだろうか。というか、あれは何という術なんだ。
村人が屍人になって水分さんを襲った時と似ている気がする。同じ術?
でも、もしそうなら弥来さんは死んでいることになる。
今は地下牢に閉じ込めているから詳しくは確認できていない。
でも、生きているはずだ。生きていないわけがない。今も暴れているから閉じ込めているんだ。
……絶対に、生きてる。
『自分に言い聞かせるのはいいけど、次の行動も考えなよ』
「あ、う、うん」
弥来さんを閉じ込めたのは昨日のこと。今は琴平と紅音、楓夏、それに俺と魔魅ちゃんで部屋にいた。
「楓夏と魔魅ちゃん、体は大丈夫? 無理しないで休んでて」
「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です」
「私も……大丈夫。怖かった、だけ」
俺の裾を掴む魔魅ちゃんの手が、わずかに震えている。
頭を撫でると、安心するように手を握ってすり寄ってきた。
「これからどうするつもりだ、優夏」
「単独行動は避けよう。何かあれば俺か紅音が同行する形で。俺は頼りないけど、闇命君がいるし……紅音は戦えるから対応できると思う」
紅音が小さく拳を握った。
うれしそうだなぁ。
「わかった。それじゃ優夏、付き合ってほしい場所がある。闇命様も」
「俺は大丈夫だよ」
『わかった』
立ち上がろうとすると、魔魅ちゃんに手を引かれた。
泣きそうな顔。
「大丈夫。紅音もいるし楓夏もいる。すぐ戻るから、少し待っててくれる?」
「……ほんとに、すぐ?」
「うん」
少し迷ってから、手を離してくれた。
……連れてきたのは、間違いだったのかもしれない。
『早く行くよ』
「……うん」
後ろ髪を引かれながら部屋を出る。
※
琴平は無言のまま歩き続け、そのまま陰陽寮の外へ出た。
「……どこに向かってるの?」
「森だ」
「森?」
「来た時、結界が消えていただろう。破った奴の痕跡を探す」
「氷鬼家の陰陽師じゃないの?」
「結界破壊、村人の襲撃、水分さんを追い込む……一人じゃ無理だ。協力者がいるはずだ」
そこまで考えてるのか。
『――――っ、後ろ!!』
「え?」
振り向く。
目の前に、斧――
――――――――ゴスッ!!!
「っ、え!? 琴平!?」
「大丈夫か優夏!!」
振り下ろされた斧を、琴平が叩き落とす。
そのまま足を払って倒し、腕を極めて押さえ込んだ。
女性、だ。
「こ、琴平、大丈夫? 起き上がられたりしない?」
「一般女性に負けたらさすがに悲しいんだが……」
……あ。
「ごめん、基準が紅音になってた」
女性は苦しそうに唸るだけで、動けない。
これなら、少しは話ができるかな。
「離して!!!!!」
「離してほしければ、なぜ襲ったか話してもらおう」
琴平の言う通りだ。
なんで俺を狙った、目的はなんだ。
「うるさい!! あなたを殺さないと、私は――……」
言葉が途切れ、涙がこぼれる。
まさか、誰かに脅されている?
「……何があったんですか?」
近づいても、もうは抵抗しない。
『ねぇ、泣いてないでなんで僕の身体を狙ったのか聞かせてよ。まさか、無意味に襲ったわけ? そうだとしたら本当に幻滅物なんだけど』
「ちょ、闇命君。少し待ってあげてよ、今話せる状況じゃないでしょ?」
『優夏は黙ってて。今僕はこの女に話しかけているの、邪魔をしないで』
こうなると、闇命君止まらないからなぁ。
あー、女性の顔が一気に青ざめる。
『答えられない? それとも、自分の意思じゃない?』
――びくっ
体が震えた。
『結界を解いたのも君? それに村人も――』
村人?
「……わ、私は……」
声が震えている。言えないのか。
『誰に言われたの?』
「闇命君、今は――」
闇命君が一泊置き、溜息を吐いた。
『話さないならいい。でも君、呪いかけられてない?』
「え……呪い!?」
女性が顔を上げ、小さく頷く。
『答えたら解いてあげる』
「ほ、本当ですか……?」
『正しく答えたらね』
闇命君を見上げ、女性は頷く。
『まず、君はなんで僕の体を襲ったの?』
「命令、されたからです」
『誰に?』
「…………ち、小さな、子供に……」
それって、確実に水分さんが話していた羽織の少女なんじゃ……。
『その子供って、羽織を羽織ってた?』
「は、はい」
『名前は? あと、他に情報ない?』
「名前は、わかりません。ほかにも、特に情報は……」
まぁ、それもそうか。
そう簡単に情報を漏らすわけないか。
『そんな薄い情報で、君は命令を聞いたの?』
「私も! 聞きました。質問、しました。そしたら……“主も人形になるか”って……死体を見せられて……逆らえなくて……」
……脅されたのか。
最低だ。
完全に被害者じゃないか。
人を、何だと思ってる。
「……許せない」
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