後悔と前進
「ひゃ、百目!!!」
しまった。俺を守るために刀を放ったせいで、百目は武器を失い、触手を躱せなくなったんだ。
――あ、百目の札が燃える。
百目が、消える。
『間に合った、みたいです。よかった』
ま、間に合った? 何が……。
百目は小さく呟き、優しく笑うと、そのまま燃えるように消えた。
手に握られていた札も、一緒に燃えて消える。
最後の言葉。何が、間に合ったんだ。
再び触手が生まれ、俺を狙ってくる。
操っているであろう弥来さんは、無表情のまま、何も映さない瞳でこちらを見ていた。
……駄目だ、動揺するな。
何のために百目は俺を守ったんだ。
「闇命君! さっきの続き!」
『いや、その必要はないみたい』
え、何を言って―――
「『水妖 悪なるものをすべて包みこめ、急急如律令』」
襖の向こうから声。
水妖って──まさか!!
振り向くと、水分さんと紅音が立っていた。
……間に合ったって、そういうことか。
「水分さん!! 紅音!!」
まだ万全じゃないのか、紅音が水分さんを支えている。
――――――――バシャン!!!!
水が弾ける音。
触手が――止まった?
「動きが止まった……触手に水が付いてる、あれって……」
『ただの水じゃないね。おそらく、体を痺れさせるものだ』
「痺れさせる……倒すんじゃなくて、封じたのか?」
『おそらくね』
水分さんが紅音の支えから離れ、弥来さんへ歩いていく。
危ない。この距離は――
『ぐっ、が、っ……くまりさま。ころ、し……』
「あぁ、安心しろ。お前は十分頑張った。今までご苦労だった」
――待て。
その言い方は、まるで。
ここで終わらせるみたいな。
まさか、殺す気か……?
「…………」
水分さんが懐から小刀を取り出す。
振り上げる。
そのまま――
「ま、待って!!!!!!!」
手を伸ばす。
――届かない。
※
何が起きたのか、まだ整理できていない。
なぜ弥来さんがあんな姿になったのか。なぜ、俺たちを襲ったのか。
今は大広場で、みんな円になって座っている。負傷者の手当ても終わっていた。
俺は守られていたおかげで、大きな怪我はない。
「弥来さんは大丈夫なんですか?」
「今は拘束して地下牢に入れている。何かあっても対処できるだろう。それより琴平、咄嗟とはいえ腕を刺してしまってすまない」
「いえ。判断が早すぎると思っただけだ」
「そうか」
あの時、琴平は俺の声に反応して、小刀を止めようとしてくれた。
だが止めきれず、刃が腕に刺さってしまった。
「琴平、結界ありがとう。助かった」
「闇命様を守るのが役割。当然のことをしたまでだ。……とはいえ、今回は何もできなかった。それが反省点だ」
……何もできなかった?
それは、俺のほうだろ。
動いたつもりでも、結果はこれだ。式神を三体も負かせてしまった。
結局俺は――何もできていない。
『……今回の件、原因はわかっているの?』
「騒動の理由までは不明だが、やった奴は見当がつく。前に話した、氷鬼家から消えた陰陽師だろう」
『こんな力、聞いたことないけど。隠されてたの?』
「俺も知らなかった。ここまでとはな……」
水分さんも苦い顔をしている。
情報が足りない。
今回のことも含めて調べないと、何も見えてこない。
なぜこんなことをしたのか。何が関わっているのか。
それが分からない限り、こっちは後手のままだ。
……落ち込んでる場合じゃない。
動かないと。
また被害が出る前に。
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