宛
闇命君の言った通り、漆家の陰陽允のもとへ向かう。
やはり陰陽頭が倒れた影響か、周囲は慌ただしく動き回っている。
この混乱も早く収めないと、村にまで広がりかねない。
これから会う相手が、せめて話の通じる人だといいのだが。
今までが濃すぎたせいで、正直少し怖い。
歩いていると、一つの部屋の前に辿り着いた。
「す、すいません! 安倍家の安倍闇命です。陰陽允様はいらっしゃいますか?」
「いるぞ!! どうぞーー!!」
「あ、はい」
倍の音量で返ってきた。
……入るの、ちょっと怖いな。
おそるおそる襖を開ける。
中は意外にも普通の和室だった。散らかってもいない。
良かった。紫苑さんタイプではない。
中へ入ると、部屋の中央に男が座っていた。
座布団の上で正座し、腕を組み、凛々しい笑みでこちらを見ている。
「君が安倍闇命だな!!」
「う、声が大きい……。はい、そうですが……。あなたが陰陽允で間違いありませんか?」
「うむ!! 我が漆家の陰陽允だ!! 名は岱平寿成!! よろしく頼むぞ!!」
――苦手なタイプだ。
赤い短髪に紅の瞳。着物はオレンジ、羽織は黄色。
そして何より、声がでかい。
「えっと……もう少し声を抑えてもらえると助かるのですが」
「そうか!! ではこのくらいでどうだ!!」
「……あ、はい」
変わってない。
もういいや。
「それで!! 何の用だ!!」
「あ、はい。まず、現在の状況は把握されていますか?」
「うむ!! 陰陽頭・魔魅様が倒れ、さらに件が式神にされたことで村も不安定になっている!! 違うか!!」
「その通りです!!」
つられて声が大きくなる。
……この人、普通に有能だな。
「ではまず魔魅様の回復を最優先とする!! その上で、陰陽寮と村の今後を考える!! どうだ!!」
「ぜひ、それでお願いします」
声はでかいが、判断は的確だ。
「ちなみにですが、陰陽頭を継ぐお考えは?」
「無理だ!!」
即答。
「我には今の立場が最適だ!! 上に立つつもりはない!!」
なるほど。
上を望まないタイプか。
「でしたら、安定するまで安倍家が管理し、陰陽頭は貴方が選定する形では?」
「後半は問題ない!! だが管理を任せる件は即決できん!!」
……そこ拒否されると困る。
「現状を把握しているのは我々です。すぐ動けますし、最適だと思いますが」
「確かに迅速ではある!! だが、君たちに頼まなくても宛はある!! 任せるのではなく、見守るだけでいい!! こちらはこちらで動く!!」
……あまり任せる気はないらしい。
これ以上押すと、取り込む気だと疑われるか。
なら――まずは宛を聞くか。
「宛とはなんですか?」
「漆家と繋がりのある陰陽寮がある!! 安倍家より関わりが深く、我々の事もよく知っている!! そこに頼む方が利口だろう!!」
「え、それはどの陰陽寮?」
そんな陰陽寮があるのか。
少し面倒になりそうだ。
「煌家だ!!」
「輝け?」
『もう黙ってて』
「む? 一人ではないと思っていたが、そこにいたのか!!」
『……どうも』
「よろしく頼むぞ少年!! 事情があるようだが詮索はせん! 安心してくれ!!」
『……はぁ……』
闇命君、完全にぐったりしている。
鼠姿でも分かるレベルだ。
確かに、この人は疲れる。
「それでは少年!! 何か言いたい事があるのだろう!! 言ってみよ!!」
『……煌家とは少し関わった事がある。確か、呪いを使わない陰陽寮だったはず。なのに、どうして関わりがあるの?』
「良い質問だ!! 煌家は呪いを忌み嫌う!! だが、我々の関係の良さは先祖にある!!」
また先祖か。
『先祖同士が仲良かったってこと?』
「その通り!! 今も特別親しい訳ではないが、悪くもない!! 困れば助け合う関係だ!!」
『距離感めんどくさくない?』
「そんな事はない!! 恩を受けたなら返す!! それが責務だ!!」
『……あんた、陰陽頭向いてると思うけど』
「評価には感謝する!! だが断る!!」
『~~~声落として!! 耳が痛い!!』
「すまない!!」
『……もういい……』
闇命君が折れた。
強いなこの人。
「えっと……その煌家に、俺達も会えますか?」
「向こうが了承すれば問題ない!! これから手紙を出す!! 君達の事も伝えておこう!!」
「あ、ありがとうございます」
よし。
少し予定は変わったが、新しい接点は得られた。
「返事が来たら知らせる!! では我は仕事に戻る!!」
「ありがとうございました」
「構わん!!」
声以外は本当にいい人なんだよな……。
※
馬車で安倍家へ戻る。
紫苑さんに報告しようと思ったが、もう夜も遅い。
月が綺麗だ。
今日は休もう。
久しぶりの安倍家。
安心……は出来ないが、少し落ち着く。
「これからワシは陰陽頭に報告してくる。勝手な行動はするな」
「善処はします」
「……闇命の影響か?」
「絶対に違います、やめてください」
『どういうこと?』
「なんでもない……」
闇命君からの視線が痛い。
ここで解散するか。
明日からはもっと忙しくなる。
体力は残しておかないと。
「闇命君、大丈夫?」
『そっちは?』
「なんとか」
『僕も同じ』
二人でため息を吐く。
そのまま、それぞれの部屋へ戻った。
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