☆自由
よしっ。体力チャージ完了。今日は紫苑さんに話をするところから始めるとしようか。
闇命君は俺の肩で寛いでいる。
もう日常茶飯事だ。問題なし。
琴平達と合流し、紫苑さんの元へ向かおうとした時、前方から慌てた様子で夏楓が走ってきた。手には大量の資料。
…………嫌な予感。
「闇命様!! 紫苑さんから任されていた資料を整理していたのですが、気になるものが!」
「えっと、なに?」
肩で息をしながら、資料を渡してくる。
久しぶりの再会がこれかよ……。
「これって、七人ミサキ?」
一枚目には七人の男。僧のような格好で笠をかぶり、錫杖を持って森を進んでいる。
「これがどうしたの?」
「最近、活発に動いているようで……入れ替わりが短期間で何度も起きています」
七人ミサキ。災害や事故で死んだ人間の死霊。
一人が成仏すれば、一人が加わる。
入れ替わりって……?
『出会うと高熱を出して死ぬ。その時に入れ替わるんだよ』
「あ、おはよう闇命君。ありがとう」
つまり、活動が活発=人が多く死ぬ。
ほっとけない。
けど、今は手が足りない。
……まずは漆家だ。
『全部に手を出す気?』
「やるよ。七人ミサキは件より危険だ」
『他に任せればいいでしょ』
「依頼はここに来てる。少しは情報を集めないと。それに――いろんな案件に触れた方が、成長できる」
無茶なのは分かってる。
だから、ひとつずつ潰す。
「革命、ですか?」
『一度は諦めた。でももう一度やる。こいつもいるしね。夏楓は? 無茶も多いよ。こいつ、馬鹿だから』
「誰が馬鹿だこら」
……まぁいい。
夏楓はどうする。これからは確実にきつくなる。
「もちろん協力します。必ずお役に立ってみせます」
即答。迷いなし。
『じゃあ、今度は途中で投げないようにね』
「はい!!」
嬉しそうだな。
闇命君と一緒に入れるし、実力的にも安心できるんだろう。
別に、うらやましいと思ってはいないけど……なんかなぁ。
『僕だけじゃないよ』
「え?」
何が?
「優夏さんも、これからもよろしくお願いします。貴方がいると心が楽になります」
「いや、俺は……助けたいから言っているだけで、別に特別なことは……」
……ほんと、それだけだ。
でも。
俺、何もできてないな。
口だけで、全部押し付けてる。
何のために転生したんだよ。
「その“助けたい”が、私達を救っているんです」
夏楓が笑う。
「思うのは簡単。でも実行は難しい。でも、優夏さんは行動をしようとしている、心が温かい人。だから、ついて行きたいと思うんです」
――まっすぐだ。
心が暖かい人についていきたい。
……分かる。
「ありがとう、夏楓」
「はい!」
よし。
七人ミサキは後だ。
まずは漆家。そして紫苑さん。
※
「相変わらずですね……」
「やぁ、待っていたよ。さぁ座って」
座る場所がないんだけど。
紙と筆を避けて、なんとか座る。巫女さん泣くぞ、これ。
「漆家の件は聞いているよ。お疲れ様」
「ありがとうございます」
「こちらも話は通してある。すぐ準備に入ろう」
……は?
「陰陽頭には話をつけた。君達はもう安倍家を出られる」
え。
「自由だ。ただし逆に言えば、戻るのは難しい。安倍家からの支援も期待しないでほしい」
――マジか。
「ありがとうございます!!!」
自由。
それだけで十分すぎる。
……どうやったんだよ。
聞いてもはぐらかされるだろうけど。
闇命君も驚いている。
でもすぐに切り替えて――
俺達は、これからの話を始めた。
※
「これから君達は安倍家の人間ではなく、旅人として動くことになる。だから、狩衣など目立つ服装は避けた方がいい。こちらで手配した物を着るといいよ」
「何から何まで、ありがとうございます」
「大変な依頼を頼んでいるからね。このくらいはしないと対等じゃないだろう?」
『確かにそうだね』
「こらっ!」
紫苑さんは終始、笑みを崩さずに話していた。
服はすでに琴平達に渡してあり、もうすぐここに来るらしい。
……この部屋に? 汚れないか?
『陰陽助、琴平です』
「入っていいよ」
襖が開き、琴平と紅音が入ってくる。手には袋――いや、風呂敷か。
夏楓も無事に合流したようで、同じく風呂敷を持っている。
「優夏、話は聞いたか?」
「さっきね」
「ならいい。俺達も陰陽頭から直接話を受けて、これを渡された」
陰陽頭から直接!?
「ものすごく眉間に皺を寄せていたけどな」
「納得」
容易に想像できる。
納得していないだろうし。それでも服を用意してくれるとは……どう説得したんだ。
「早速見せてくれないか。隣が空いているはずだ」
紫苑さんに言われるまま、隣の部屋へ。男女で分かれて着替える。
風呂敷を開くと、子供用の服一式。
……どれから着るんだ?
ワイシャツっぽい服に、七分丈のズボン。袖は狩衣みたいに広い。
着物じゃないのか。というか、この時代にワイシャツ?
「何を固まっている?」
「いや、予想外すぎて……」
「いいから着替えろ。時間がもったいない」
「あ、うん」
とりあえず中からだな。
※
着替え完了。鏡で確認する。
「へぇ、この時代にこんな服あるんだ」
袖の広い青い上着に、白いシャツ。七分丈のズボン。
動きやすいし軽い。肩には可動しやすいように切れ目、腰にはベルト。
……ちょっとオシャレじゃない?
「動きやすいな。これ何で出来てるんだろう」
「考えなくていいだろう」
「いや、ちょっと気になっ──こんの、イケメンがぁぁあああ!!!」
「っ、いきなりどうした?」
琴平。
服変えただけでモデルかよ。
青のロングコートに袴。和と洋が混ざった感じ。
似合いすぎだろ。ずるい。
……大人の余裕出てるし。
「とりあえず戻るぞ。あっちも終わっているかもしれない」
「うん……」
「優夏」
「なに?」
「似合ってる。さすが闇命様だ」
「あー……ありがとう?」
最後の一言で全部持っていかれる。
苦笑いを浮かべていると、琴平が笑い出した。
「あはは。仕方ないだろ。お前の元の姿知らないんだから」
「まぁ、そうなんだけど……」
……仮に俺が着ても、絶対似合わない気がする。
服に着られるタイプだ。
そんな話をしながら部屋を出て、紫苑さんのところへ戻る。
まだ紅音達は戻っていない。
二人とも似合うんだろうな。絶対。
「おや、終わったみたいだね。うん、よく似合っている。取り寄せたかいがあった」
「ありがとうございます」
「私が着てほしかっただけだからね。女性陣ももうすぐだろうし、楽しみに待とう」
「分かりました」
……とりあえず、筆の近くには行かないでおこう。新品が台無しになる。
「闇命様、今後の行動について話したいのですが、姿を見せていただけますか?」
『いいけど、姿は変わらないよ』
「……大丈夫です」
いや、ちょっと落ち込んでるだろ琴平。
見たかったんだな、半透明でも。
今の俺と変わらないと思うんだけど。
……まあいいか。
紅音達が来るまで、今後の話を進めよう。
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