心からの安らぎⅡ
俺が十二、紅音が十の時、不思議な事件が立て続けに起きた。
『また、死んでる』
『死んでいるんだよな?』
『分からないわ。だって──』
村の中に、変死体が出るようになった。
なぜ変死体と呼ばれているのか。
体には傷がない。
病死でもない。
ただ、人がそこに倒れているだけなんだ。
見た目だけでは死体と判断しにくい。
本当に死んでいるのかすら分からない。
なぜなら、脈も心音も、しっかりとあるからだ。
それでも、その人は死んでいる。
そうとしか言えない状態の人間が、村で倒れている日が続いていた。
『行くわよ、琴平、紅音』
『…………うん』
気味が悪く、俺達は母に言われるままその場を離れ、関わらないようにしていた。
だが、それが間違いだった。
変死体が見つかるようになってから、村人達は近くの陰陽寮へ何度も足を運び、助けを求めた。
母や父も行ったが、全員門前払いだった。
理由は単純だ。
『変死体が増えている』というだけでは、病死や他の可能性も考えられる。
陰陽寮は動けない──そう判断された。
不安の中、俺達は日々を過ごしていた。
だが、そんな日常が続くはずもない。
精神的にも限界で、家族全員が怯えながら暮らしていた。
そして、子供の我慢も長くは続かない。
限界を迎えた俺は、一人で陰陽寮へ向かった。
場所は知っていた。
追い返されることも分かっていた。
それでも、動かなければ意味がない。
そう自分に言い聞かせ、歩き続けた。
森を抜け、陰陽寮に着き、他の大人達と同じように事情を話す。
──結果は、予想通りだった。
取り合ってもらえない。
大人が何度も頼んで駄目だったんだ。
子供の俺が行ったところで、意味なんてない。
それでも諦められなかった俺は、大声で叫び、中にいる陰陽師達に訴えようとした。
だが、無理やり口を塞がれた。
暴れても、助けを求めても無駄だった。
最後は気絶させられ、森の外へ放り出された。
次に目を覚ました時、そこには紅音と両親がいた。
紅音は心配そうに俺を覗き込み、両親は不安に揺れる目で俺を見下ろしていた。
両親には激怒され、紅音は泣きながら抱きしめてきた。
その時、俺は後悔した。
その日の夜。
いつものように眠っていると、外の騒がしさで目が覚めた。
『なんだ?』
『…………どうした』
俺が起きたからか、紅音も目を擦りながら起き上がる。
『外が騒がしいんだ』
『外?』
寝ぼけた紅音が首を傾げた、その時。
勢いよく母が部屋に入ってきた。
『琴平! 紅音! すぐに逃げるわよ!!』
『え、母さん?』
『どうしたの?』
『いいから早く!!』
腕を引かれ、そのまま外へ出る。
そこには、村人達が慌てて村の外へ走っていく光景が広がっていた。
俺達も流されるように走り出す。
何が起きているのか分からないまま──
それでも、俺は後ろを振り向いてしまった。
好奇心という、愚かな感情のせいで。
そこにいたのは、見たこともない化け物だった。
巨大なガマガエルのような姿。
あり得ないほどの大きさ。
長い舌を伸ばし、村人を捕らえようとしている。
捕まった者は必死に足掻く。
だが、舌に絡め取られた瞬間、動きが鈍くなり──やがて動かなくなる。
そして化け物は、そのまま地面に叩きつけ、踏み潰した。
踏み潰されなかった者は、あの変死体と同じ状態になっていた。
その時、理解した。
──こいつが原因だ。
『あいつが、今まで……』
『琴平!! 後ろを見るな! 前だけを見なさい!!』
『う、うん!』
転ばないように必死に走る。
だが、化け物の方が速い。
距離は、少しずつ詰まっていく。
それでも走り続けた。
その時、気づいた。
父さんがいない。
『か、母さん! 父さんは?!』
『避難誘導をしているわ! 大丈夫、あとで合流する!! 今は自分のことを考えなさい!』
父さんは足が速い。
運動神経も、この中で一番だ。
だから、大丈夫だと信じた。
そうして走り続ける中、化け物が動きを止める。
ぎょろぎょろと目を動かし──獲物を選ぶように。
そして、狙いを定めた。
次に化け物が狙ったのは──
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