容態
鼠姿に戻った闇命君を肩に乗せ、井戸へと向かう。
もう一般的な起床時間になったのか、村の人達が徐々に増えてきた。
堂々と井戸へ向かうと、琴平と紅音の後ろ姿を確認できた。
「来たか」
「遅いぞ、優夏」
「ごめんね」
二人と合流成功。なんとなく安心だ。めっちゃ安心。
もう何が来ても怖くない。琴平と紅音がいれば俺はなんでも出来る。
「怪我は大丈夫?」
「問題ない」
紅音はこういう時、堂々と言うからなぁ。
確認するため琴平を見る。
「先程から共に歩いているが、いつもと変わらん。固定はしているが、今のところ問題ないように見える」
「琴平が言うなら大丈夫……か」
それでも琴平は心配そうだ。
紅音に声をかけ、腕を掴んで支えている。
……いちゃつきやがって、この野郎。
『中は確認したの?』
「はい。確認したところ、今はまだ件の姿はありませんでした。おそらく、転生には数日かかるかと」
へぇ、そうなんだ。
『まぁ、死んだ次の日に転生はないだろうね。他に変わったことは?』
「中は以前、闇命様と入った時と変わりませんでした。件の死体はなくなっていましたが……」
『そっか。ここにいても意味はない。今のうちに漆家の方を見よう。それで、件が生き返ったら悪行罰示神を行う』
え、悪行罰示神?
それって確か、倒した妖怪を式神にするやつだよな。
ま、まさか……。
「闇命君、もしかして……」
『そのもしかしてだよ。僕は件を式神にする』
い、いやいやいやいやいや!!!!
それやばくない?!
件の式神とか聞いたことないんだけど?!
『出来るかどうかは分からない。そもそも、件を式神にしようなんて考えた人はいないはずだ。危険性と見返りが釣り合ってない。正直、僕もやりたくない』
「やりたくないのにやるの?」
『保管も面倒だし、今の僕達なら使い道がある。それだけ』
使い道?
件は予言。
それが使えるってことは──
「……件の予言で、靖哉達の行動を先読みするとか?」
『たまには勘が鋭いね。普段からそれなら助かるんだけど』
ぐっ……。
「確かに有効かもしれない。でも、式神にする前に死の予言されたらどうするの?」
『そのために考えるんだよ。無策でやるわけないでしょ』
「そうだな……」
ほんと回りくどい。
まぁ、いいけど。慣れたし。
……ん?
後ろから走ってくる音が聞こえる。
「村長。一体、何を慌てている」
琴平が俺の後ろを見て呟いた。
村長?
振り向くと──
なんか怖い!!?!
銀髪を乱し、険しい顔で全力で走ってくる!!!
無理無理無理無理!!!
「ま、待って欲しい!!」
「ひぇっ?!」
逃げようとした腕を掴まれた。
痛い痛い痛い!!
「貴様!! その手で闇命様に触れるな!!」
「今はそれどころではありません!! 魔魅様の容態が急変したのです!! 何か知りませんか?!」
…………え。
※
村長の言葉を聞き、急いで陰陽寮へと向かう。
見た目は安倍家と大差ない、大きな屋敷だ。
でも今は、そんなこと気にしている余裕はない。
「そこの右の襖です!」
指された襖の前で立ち止まる。
「はぁ、はぁ……失礼します」
息が整わない。
でもそんなこと言ってる場合じゃない。
襖を開ける。
中には雨燕さんと、布団に横たわる魔魅ちゃん。
壁際には百目が立っていた。
「魔魅ちゃん!! なんでこんなに顔赤いの?! 熱?」
額に触れる。
……熱い。
『呪いから解放された反動だろうね』
「な、なんで? 普通は良くなるんじゃ……」
闇命君が険しい顔で呟く。
ここまで表情を変えるなんて、相当まずいのか?
……とにかく熱をどうにかしないと。
「琴平! 氷で冷やせないの?」
「出来なくはないが、調整が難しい。下手をすれば悪化する」
「他に何か……」
俺が聞くと、琴平は険しい顔を浮かべながら雨燕さんを見た。
「……陰陽助様。小刀をお借りしてもよろしいですか」
え、なんで小刀?
「……構わん」
「ありがとうございます」
受け取った小刀を撫で、琴平が魔魅ちゃんに近づく。
「琴平?」
「傷つけるわけじゃない」
周囲の空気が冷えた。
息が白くなり、右手が淡い水色に変わる。
「これが一技之長。俺の属性は氷」
「なるほど……」
冷えた小刀を、そっと額に当てた。
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