闇命様
何となくこの世界についてわかったから、次はもっと陰陽師について知った方がいいのかな。それと、ここの人たちの人間関係も。
今の俺は、闇命という少年の体に入っているみたいだから、この体についても頭に叩き込まないと……。
そして、この時代は俺がいた時代より昔と考えた方が整理しやすいだろう。
何時代かなんて考えても、授業中に睡魔と戦うので精一杯だった俺にわかるわけがない。
「ちなみに、闇命様は簡単に言えば天才少年。法力や身体能力は人並外れており、その場で何をすればいいのか瞬時にわかる」
「才能やばっ」
驚きつつも、そういう人がいるのは知っている。
才能に恵まれた人は俺の近くにもいた。
運動、勉学、絵や歌。羨ましいと思ったことはある。思うだけで終わるけど。
「力があるなんて羨ましいなぁ」
「っ、違う!!! それだけじゃないです!!」
「うえ!?」
いきなり夏楓さんが体を震わせながら叫んだ?!
目元には薄く涙の膜。俺、何か気に障ること言っちまったのか?
「あっ……。あの、ごめんなさい……」
「い、いや、あの……こちらこそ、すいません……」
体を小さくして俯いてしまった。
「少し、弁解させてもらっていいか?」
「え、あ、うん。大丈夫、です……?」
「先程言った才能の塊という言葉に、もう少し加えさせてもらいたい」
「あ、はい」
琴平さんが夏楓さんの背中をさすりながら話してくれた。
「闇命様は才能を持っている。だが、努力は絶対に怠らない。元々ある力を最大限生かすため、様々な術を試してきた」
「お、おう……」
「だが、周りはその努力を見ず、力があるというだけで利用しているんだ」
あぁ、なるほど。闇命君は自身の力を過信せず、日々努力してきたんだ。
でも周りはそこを見ないふりをしている。
周りの人があんな態度だったのは、努力している部分を見ず、天才という表面だけを見ているからか。
小さな子どもが、大人より力に溢れて強い。単純な妬みだな。
それを知っているから、夏楓さんは感情的になったんだ。
俺が何も知らずに“天才少年”なんて言ってしまったから。
それは本当に、悪いことを言ってしまった。
「ここは、そんな最悪で胸糞悪い状況になっている。だが、ここでは上下関係が一番重要だ。俺たちの立場ではどうすることもできない」
「そうなんですね。確かに上下関係は大切だけど……ん?」
琴平さんが何か言いたげにしている。
「…………敬語はやめてもらえると助かる」
「え、でも、確実に年上…………」
「年齢は関係ない。言っただろう、ここでは上下関係が重要視されている。闇命様が敬語で我々従者に話しかけていたら怪しまれる」
あぁ、確かにそうか。だから敬語はやめてほしいのか。
他の人に俺の存在を知られると、色々と面倒なことになりそうだし、その時までは気づかれないようにしたいな。
「わ、わかった。なら、こんな感じでいいかな」
「あぁ」
「良かった。えっと、さっきの話はつまり、天才に嫉妬した大人が子どもに対して風当たりを強くしているってことだよな」
似たようなことは、俺がいた現実世界にもある。
いじめ――それが一番わかりやすいだろう。
私利私欲のために人を陥れる。
それを平気でやる人間が、ここには少し多いのか。
いや、相手が子どもだからっていうのも理由のひとつかな。
「ねぇ。俺が目を覚ました時、なんで闇命君はあんな大怪我してたの?」
大人があれだけ妬むほど力があるなら、あそこまでの怪我はしないはずだ。
なのに、目を覚ました時は激痛で動けなかった。
それも、ここの上下関係が関わっているのか。
「…………相手が悪かった。それだけだ」
琴平が拳を握り、体をわなわなと震わせる。
顔を逸らし、怒りをこらえるように歯を食いしばっていた。
闇命君が怪我をした場面を思い出しているのか。もしかして、ここの人たち──
「ここの大人たちが闇命君に全部任せて、自分たちは逃げた──とか?」
「任せたという思考はなかっただろう。ただ、逃げたかったから逃げた。それだけだ。本当に最低なやつらだ」
そうか。理解した。
闇命君は周りから天才と呼ばれ、同時に疎まれている存在。
力は本物だから、周りはそこだけを利用して住まわせている。
今回大怪我したのは、一人では倒しきれない悪霊が現れ、それを周囲の大人が押しつけた結果か。
情けないな。大人が子どもに押しつけて、こんな大怪我をさせて。挙げ句、あんな態度かよ。
「こんなことして、闇命君の親は何も言わないの?」
「闇命様の親は、既に他界している」
「え、そ、そうなの? 事故、とか?」
琴平は小さく首を振った。
「闇命様の血筋──つまり安倍家は、力が強い代わりに短命なんだ」
た、短命……。
「いくつの時に?」
「どちらも二十四には他界している」
二十四か。短いな。
「短命は、どうすることもできないの?」
「今のところ術はない。これは、ある種の呪いと言われているからな」
「呪い?」
「あぁ」
まじかよ、呪いって……。
「なら、この子も二十四には死んでしまうかもしれないと」
「そうだ」
きっぱり言い切ったな。
まぁ、力の代償ってやつか。
……ん? 短命?
闇命君の体は今、俺が借りている状態……。
それって、このまま年齢を重ねたら──
俺も二十四で死ぬかもしれないってことぉぉぉぉぉおおおお?!?!
それはまずい。すごくまずい。また理不尽に死ぬなんて嫌だ。もっと長生きしたい!!
────よし、分かった。これから俺のやることはひとつだけ。
「琴平、夏楓。この子を助けるため、呪いを浄化したいと思う。というか絶対に浄化する。闇命君のために。……まぁ、何も分からない俺が何しても意味ないかもしれないけど……」
二人が驚いて目を見開く。でもすぐに微笑んで、「よろしく」「よろしくお願いいたします」と返してくれた。
いや、そんな笑みを向けないでください。心苦しいです。
俺は、俺が生きるために言ってるんですよ。だからお願い、そんな目で見ないで!!
…………まぁ、それだけじゃないんだけど。こんな小さな子が短命なんて可哀想だし、こんな環境に居続けるのも辛いだろ。
俺にできることは少ないし、むしろ迷惑をかけるかもしれないけど。
「えっと……こちらこそ。でも、よく俺の話を信じてくれたね。普通、見知らぬ人が知り合いの体に憑依なんて信じられないでしょ」
ここまで話してくれたことには感謝してるけど、なぜ信じてくれたのかは謎だった。
「そっか。貴方は知らないのでしたね。見た目が闇命様なので、つい忘れてしまいます」
「え、なんのこと……?」
「私、読心術を使えるんですよ?」
────あ、マジ?
読心術って、相手の心を読むやつだよな。え、嘘。
「なら、俺が今、何を考えているのかもわかると?」
「試してみますか?」
意外にも強気な女性だ。もっと気が弱いと思っていたよ。
「ここで気が弱かったら生きていけませんからね」
「あ、もう信じます。貴方を信じます」
たった今心を読まれたので、信じるしかなかった。
※
それから琴平と夏楓は、やることがあると言って俺を一人残し、部屋を出て行ってしまった。
その際、琴平には「部屋から外に出るな」と念を押された。
言われたのだけれど、ここに一人でいるのは落ち着かない……。
「…………少しだけなら、駄目かな」
好奇心が、耳元で囁く。
悪魔の囁きってやつだ。
気になる。外がものすごく気になる。
それに、ここについて自分の目でも確認したい。
琴平と夏楓には申し訳ないけど、すぐ戻ってくれば──いいよね?
床に足をつけ、襖を開ける。
周りに人は……いないかな。よしっ。
「すぐに戻ってこよう」
迷子にならないように気をつければ問題ない、はず。
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