☆状況整理させてくれ
────んっ、なんだ、この感覚。体が軽いような、重いような……。
今いるのって、ベッドの上か?
柔らかいものの上に横になっている気がする。
「………様。……めい……ま」
誰かの声が聞こえる。瞼が重い。
なんだ、この状況。
「あん……様。………様」
なんだよ。途切れ途切れで何を言っているのかわからないし、なぜか体中がめちゃくちゃ痛い。指一本動かせない。
重たい瞼を無理やり開けると、ぼやけた視界に見覚えのない複数の人が映る。
「目を覚ましましたか、闇命様」
…………え、誰ですそれ。聞いたことない名前、見たこともない場所。
マジで、どこ?
「闇命様、良かったです」
み、巫女さん? 涙を流しながら手を握ってきている。な、なに?? 何が起きたの?
「ちっ、起きやがったか……」
「そんな言い方はあんまりかと」
横から少し怖い男性の声が聞こえた。
低い、おじいさんのような声に重なるように、若そうな男性の声が返る。
周りを見回しても、知らない人に囲まれ、知らない場所で横になっていることしかわからない。
誰か状況を教えてくれ。俺は軽トラに轢かれて死んだはず。なんでこんな所で横になってんだよ。
…………そういえば、この人たちの服ってアニメで時々見る、狩衣って呼ばれているものだよな? そして女性は巫女装束。タイムスリップ?
「あの、闇命様の前でそのような喧嘩はおやめ下さい。傷口に障ります」
俺の手を握っていた巫女さんが立ち上がり、凛とした声で男性たちに注意した。
喧嘩していたであろう人たちが静かになる。女性は強しってやつか。
「目が覚めたのであれば、我々はこれで失礼する」
一人の貫禄ある男性が言うと、俺を囲っていた人たちがそれぞれ部屋を出ていく。
残ったのは、俺を心配してくれていた巫女さんと、口喧嘩をしていた若い男性。
ぱっちり二重で、長い茶色の髪を後ろでひとつにまとめている巫女さん。肌は色白で綺麗な人だ。
隣には、俺を心配そうに見下ろしてくる男性。
こっちの人は狩衣を着て、目は藍色。水色の髪を右耳の下あたりで緩く結び、右目には黒い眼帯をつけている。
わぁ、美男美女が残ってくれてる。嬉しいけど、なんか二人とも怒っているような気がする。
この人たちなら話を聞いてくれそうなんだけど、少しでも動くと体が痛むから無理だ。
この傷って、軽トラに轢かれた傷?
でも、それにしては俺の名前は呼ばれていない。
「まだ、体痛みますよね。お待ちください。少しでも傷を治します」
巫女さんが涙をこらえながら言い、手をかざしてくる。
差し出された手が淡く光り出す。
え、なにこれ。こんなのアニメか漫画でしか見たことないんだが。
────あれ?
俺の体に光を当て始めてから数秒後、今まで痛くて仕方がなかった体が動くようになってきた。
「ふぅ。どうですか闇命様、痛みはありますか?」
巫女さんの質問に答えるため、試しに体を起こし、自分の手や体を確認してみたのだが──え。
「な、なななな、なんじゃこれぇぇぇぇぇぇえ!!!!」
なぜか俺の手は子どものように小さく、体にも筋肉がない。
いや、元々そんなゴリマッチョってわけじゃなかったけど……。
いやいや、そうだとしてもふにゃふにゃすぎやしませんか。お腹とか柔らかい。
髪は天パみたいだな。柔らかい。
着ている服には血がついていて汚い。
いや、そこも気にするところなんだけど、なんで狩衣。しかも子どもサイズだし。
「なんで俺が子どもになってんの。いや、そもそもここはどこ。タイムスリップ? いやいや、そんなアニメじゃないんだからさ。ありえないって……」
何これ、本当に意味がわからない。これって、なに?
頭を抱えていると、困惑の声が聞えた。
涙目で見上げると、二人と目が合った。
「……あの、ここはどこですか?」
「「はぁ??」」
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幸い、よくわからない魔法か何かで大きな傷はなくなり、少年が座るには大きいベッドに正座することができた。
切り傷から血はまだ滲んでいるけど、女性が丁寧に包帯を巻いてくれたおかげで痛みはない。
「えっと。つまり貴方は、私たちの知る闇命様ではないということでしょうか」
「はい。俺自身、なぜこのようになっているのかわからないのですが……。あ、俺の名前は牧野優夏と言います」
お互い今の状況を整理しながら恐る恐る会話しているが、初対面なこともあって距離感がわからない。
けど、二人は普段から冷静なのか、俺の話をしっかり聞いてくれた。
普通なら話すら聞いてくれないような展開だから、そこはすごく嬉しい。
「……それを信じろというのですか? イタズラですか?」
「イタズラではなく本気です。本当に俺は何もわからず、今この世界に放り投げられたんです」
渋い顔を浮かべ、二人はお互い顔を見合わせる。信じられないのは無理もない。俺も信じたくないよ、こんな状況。
「本当に俺は牧野優夏って名前です。お兄さんとお姉さんは誰なんですか?」
聞くと、二人は少し戸惑いながらも名前を教えてくれた。
女性の方は月希夏楓。男性の方は月花琴平という名前らしい。
二人は闇命様の従者で、普段から世話をしていたみたいだ。
従者はもう一人いるらしいが、今は巫女の仕事で不在。残念……。
「なるほど。それで、ここは一体どこなんですか? 狩衣なんか着て……」
琴平という人が怪訝そうな顔を浮かべながらも、俺にもわかるように噛み砕いて説明してくれた。
※
今聞いた説明を俺なりにまとめると――。
俺が今いるここは、陰陽寮。
ここでは男性が陰陽師、女性が巫女として、それぞれ役割を担って働いているらしい。
主な仕事は、占いや鑑定、お祓いなど。
ただ、それについては闇命君がほとんど関わっていなかったらしく、詳しい説明は省かれた。
そんな闇命君が主にしていたのは、悪霊退治らしい。
悪霊にはさまざまな強さがあり、一人で倒せるものから、大人数でようやく対処できるものまでいるという。
ひと口に悪霊と言っても種類は多く、中には倒せず封印するしかないものもあるらしい。
そのため悪霊退治では、必ず複数人で行動する決まりになっているそうだ。
方法も人それぞれで、呪符や霊符を使ったり、形代を作ったり、式神を使ったりするらしい。
ただし悪霊退治は陰陽師の仕事で、巫女は基本的に行わない。
その代わり巫女は、陰陽寮の掃除や食事の準備など、身の回りのことを担当しているという。
いわば、お母さん的役割。
俺がいるこの陰陽寮は、数ある陰陽寮の中でも一番大きく、信頼のおける陰陽師が集まる場所らしい。
入るには、それなりに優秀でなければならないとも言っていた。
そして最後に、この世界には陰陽術とは別に、もうひとつ力が存在するらしい。
それが、精神力を使って発動する力――一技之長だ。
陰陽術ほど強力ではないが、これは特別な才能がなくても誰でも扱えるらしい。
この世界では一般的な力で、世界共通語として呼ばれているらしい。
属性はいくつもあり、炎、水、風、氷、雷など。
ただし、一人につき扱える属性はひとつだけ。
しかも、その力は単体では使えず、必ず何か物を介さなければ発動できない。
たとえば刀を持ち、そこに炎を纏わせて斬り込むことはできる。
けれど炎属性だからといって、手から直接炎を出して相手を燃やすことはできないらしい。
一技之長の利点は、精神力さえ尽きなければ誰でも使えること。
逆に欠点は、武器や道具が必要で、使い勝手に制限があることだ。
だから琴平さんたち陰陽師は、基本的に陰陽術で対処する。
それでも一技之長も補助として使えるらしく、そちらも鍛えているそうだ。
ほう、頭がパンクしそうだ!!
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