落ち着かない
紅音と四季さんが待つ陰陽寮へ戻った。
けれど、外で待っていたはずの二人の姿がない。
あれからだいぶ時間が経ったもんなぁ。
待ちきれず、どこかへ移動したのかもしれない。
正面玄関の前で辺りを見回していると、後ろから紫苑さんが肩に手を置き、優しい笑みを向けてきた。
……え、なんですか。
なんか企んでるように見えて怖いんですが。
「女性二人を外で待たせておくのはどうかと思うよ。もう少し、女性の扱い方を勉強した方がいい」
「あ、はい。スイマセンデシタ」
待て。
もしかしてこの人、タラシか?!
「いや、確かに見た目は普通にかっこいいというか優男だし、立場は上から二番目。俺のいた世界で言えば副店長クラス。お金もあるだろうし、声も柔らかい。目はちょっと怖いけど、それを差し引いても美形男性。ふむふむ」
そんな男性を――
「女性が放っておく訳が無い!!!!!!」
「何を言っているんだ貴様。変な勘違いをするな」
ドスの効いた声が正面玄関から飛んできた。
この声は確実に紅音。
しかも怒りMAXだ。
ゆっくり振り向く。
そこには腕を組み、氷のような目でこちらを見下ろす紅音。
その後ろで苦笑いしている四季さん。
……うん。
見なければよかったかもしれない。
今の紅音の目は、温かい心を持つ人でも一瞬で凍る。
「琴平、今のは違うぞ。闇命様ではない者が勝手なことを言っているだけだ。断じてワタシは猫ジジィなど何とも思っていない」
「あ、あぁ。分かっている。何故、それを俺に?」
「…………違うと言いたかっただけだ。気にするな」
琴平は困惑。
紅音は、少しだけ頬を染め、顔を逸らした。
────ハハ〜ン。
なるほど、紅音が琴平をねぇ。
可愛いところあるじゃないか。
二人をニヤニヤ見ていると、紫苑さんがまったく空気を読まずに口を開いた。
おい、もう少し楽しませてくれよ。
優男は見た目だけか。
というか紅音、普通に猫ジジィって言ってたな。
「ここまでお出迎えありがとう。私の部屋は居心地悪かったかい?」
どうやら二人はさっきまで紫苑さんの部屋にいたらしい。
聞かれた二人は顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らした。
……あぁ。
そういえば、あの部屋は汚部屋だった。
もしかして、あそこに女性二人を……。
「…………紫苑さんには言われたくないです」
「何の話だい?」
「なんでもありません」
これ以上考えるのはやめよう。
意味がない気がする。
それより早く村へ向かわないと。
紫苑さんの言葉も引っかかるし、時間も迫っている。
「とりあえず、紫苑様の部屋は片付けさせて頂きました」
「えっ」
あ、紫苑さんの顔が一気に青くなった。
嫌だったのか……。
「あそこには私の大切な宝物が……」
「あの、紫苑さん。部屋の確認は後にして、まず村へ向かいませんか? 時間もないですし」
「……わかったよ」
今にも泣きそうな顔で肩を落とす紫苑さん。
ちょっと申し訳ない。
そのまま後ろについて行き、用意されていた馬車へ乗り込む。
目的地へ向けて、馬車はゆっくり動き出した。
馬車に乗るの初めてだなぁ。
しかも白馬。
かっこいい。
白馬の王子様って言葉があるくらいだし、女性の憧れでもあるんだろうか。
……あれ。
紫苑さんが座ってる場所って、車で言う運転席だよな。
名前なんて言うんだろう。
『御者席』
「心読むのやめてくれない? でも、ありがとう闇命君」
そんなやり取りをしながら村へ急ぐ。
四季さんは落ち着かないらしく、何度も外を見ては腕を組み直していた。
「大丈夫?」
「へっ。い、いや……ちょっと落ち着かなくて」
「そうだよね。でも出来る限り頑張るから。それに今回は、陰陽寮でも上位の紫苑さんがいる。少しは安心してほしい」
落ち着かないのは当然だ。
家族が危険かもしれない。
自分も何かに巻き込まれるかもしれない。
何の力も持たない彼女が、それを全部抱えている。
もし森で出会わなければ。
何も知らないまま村ごと焼け野原になっていた可能性もある。
そんな彼女に、何を言えばいいのか分からない。
どんな言葉も気休めにしかならない。
きっと、今の言葉だってそうだ。
四季さんは無理に笑って、
「ありがとうございます」
とだけ返した。
その表情が胸に刺さる。
早く。
早く村へ着いてくれ。
早く彼女を、この不安から解放してあげてくれ。
焦っても意味はない。
それでも、彼女の不安が移ったように胸がざわつく。
馬車の窓から外を見つめながら、村が見えるのを待つしかなかった。
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