深まる謎
「っ、優夏!!」
地面に倒れ込む闇命を、琴平が瞬時に受け止める。
闇命は半透明の姿を保てず、鼠の姿へと戻ってしまった。
「闇命様、大丈夫でしょうか?」
『僕は大丈夫。こいつが限界なだけ。疲労と睡魔、法力の枯渇……まぁ、無理もないよね』
「確かに。少々無理をさせてしまいました」
『体は僕のものだから、気にしなくていいよ』
「だからこそ心配するのです。貴方はもう一人ではありません。それに――もう貴方だけの身体ではないでしょう?」
琴平は腕の中の優夏を見下ろし、静かに頭をなでる。
闇命はそれを見て、わずかに眉をひそめた。
「今回は、二つ同時に解決して良かったですね」
『ああ。残りは元氷鬼家の陰陽師と水仙家くらいか。水分の進捗を聞かないと二度手間になる。無駄は省こう』
「了解です」
そこへ紅音と夏楓が戻ってきた。
乱れた服を整えながらも、どこかすっきりした顔をしている。
「お疲れ様、怪我は?」
「問題ない」
「私も大丈夫です。七人ミサキ、思ったより簡単でした」
夏楓は頬を染め、楽しげに言う。
紅音は横目で夏楓を見て、引きつった笑みで冷や汗を流した。
「私たちより。もうここには用はありませんね。闇命様を休ませましょう」
「ああ、すぐ戻ろう」
琴平は優夏を抱き上げ、屋敷へ戻った。
廊下を進むと、水分が前から現れる。
険しい顔だ。紅音と夏楓は気まずそうに目を逸らしたが、琴平だけは一礼した。
「こんな所で何をしている、安部家御一行」
「少し用事があっただけだ。それより、水分さんはどうですか?」
「調べが一区切りついた。体が固まりそうでな、少し動こうと思って出てきた」
体を上に伸ばし、伸びをする。
「ずっと調べ物を?」
「ああ。今回の件は大きい。早く手を打たねば被害が広がる」
「無理はなさらず」
「無理してこその頭だ。他に負担はかけられん」
その言葉に、琴平は普段の水分の行動や言動を振り返る。
「………………迷惑」
「何か言いたそうだな、言ってみよ」
「何でもありません」
水分は琴平の苦笑いを気にせず歩き出し、すれ違いざまに囁いた。
「今回の件、大きなものが動いている」
※
「――と、こんな感じだ」
「なるほど。詳しくは聞いてなくても、察してはいるってことか」
「ああ」
水分も相当動いているらしい。
安倍家とは大違いだな……普通に丸投げだったし。
『今回、羽織の少女だけじゃない気がする。だが、繋がりが見えない。それに、向こうから仕掛けてきていない』
「あ、それなんだけど。今回、靖弥が主に動いてるみたい。蘆屋道満は表に出てないって。気配がないらしい」
『…………は?』
「え?」
なんでそんなに驚くんだ?
「優夏、それ誰から聞いた」
「……あ」
夢だ。安倍晴明から聞いた話。
「夢でさ。安倍晴明が教えてくれた」
「安倍晴明?」
「うん。闇命君の中にずっといたらしくて、直感もその影響みたい」
『……そういえば、乗っ取られたことがあったな』
「え?」
『こっちの話だ』
「えぇ……」
こっちの話って。
闇命君の話は、俺の話でもあるんだけど……。
「つまり、安倍晴明が“セイヤ”が関わっていると言ったのか」
「うん」
「だが、蘆屋道満は動いていない」
「完全にじゃないと思う。指示だけ出して別に動いてるとか」
「なぜ別行動だ?」
「それは、晴明は何も言ってくれなかった。なんとなくわかっていそうな感じではあったんだけど」
まぁ、わからないところを追及しても、わからないものはわからない。
今は、元氷鬼家の陰陽師をどうにかしたいな。
「……あれ」
「っ、あれは……」
森から小鳥が一匹、こちらへ飛んでくる。
月光を受けて、きらめく身体。透き通る氷の体。
ただの鳥じゃない。式神か?
「これ……」
「触るな。俺が預かる」
「え?」
手を伸ばした瞬間、琴平に止められる。
小鳥はそのまま琴平の肩へ。
……妙に慌ててたな。
その後すぐ部屋へ戻され、布団に入れられた。
眠れないと思ったのに、体は正直だった。すぐに睡魔が来る。
遠くで琴平の声がする。誰かと話しているみたいだ。
でも――もう無理だ。
意識が沈んでいく。
やがて、完全に途切れた。
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