会談開始<後編>
さして重要でもないので、分からなくても問題ありません。
「今回の議題は、キルクルス初の魔王の誕生について、その是非を問うものとする」
そう厳かに宣言したロイド王。
ついさっきとはまるで違う雰囲気だった。
「では初めに。当事者であるリュート殿に、状況を説明していただこう」
「わかりました」
ロイド王の言葉を受けて、椅子から立ち上がった俺。
会議に参加している全員の視線が、俺のほうに集中した。
「私リュートはこの地キルクルス半島初の魔王となり、自分たちの領土を持つつもりです。理由は二つ。一つは私の配下たちを”魔王”の称号の影響力をもって守護するため。これは偏に私達だけのためです。ですがもう一つは皆様と関係があります。そのもう一つの理由はギルレオンと結んだ友好を、さらに巨大なものとし、私の配下とこの国ギルレオン、さらにはショクチェンドゥ、ゴケンコウと協力し合い、さらなる繁栄をもたらし、キルクルス三国をより豊かな国家とすることです。どうか皆様には私達が皆様と戦争をしようなどと考えていないことだけは、理解してもらいたい」
アリナと一緒に打ち合わせをして、導き出したのがこの答え。
さて、どんな答えが返ってくるのか。
「すいません、一つお聞きしたいことが」
そう言って手を挙げたのはゴケンコウの大使、ギースさん。
この面々の中でもしっかりと自分の職務を全うするその姿勢には、一種の尊敬の念を抱えてしまった。
「それは誰にです?」
「ロイド王に」
「ふむ、私か。いつでもどうぞ」
「はい。これは我が主オルカ王が申されていることなのですが、ロイド王はそのリュート殿を信用しておられるのですか?」
「勿論だとも。付き合いは短いが、その人柄は十二分に信用できるのでな。我が国としては、是非リュート殿には魔王になってもらいたいと考えている」
そうはっきりと宣言したロイド王。
何というか、ちょっとだけ嬉しかった。
「でしたらゴケンコウもそのことを認めるとのことです」
おや、ゴケンコウは認めてくれたみたい。
思ったよりも早かったな。
でもこれは俺のおかげというよりも、積み重なってきた信頼のおかげだろうね。
「あ、でも一つだけ。オルカ王が一度、対面での会談を開催してほしいとのことです」
「それに関しては別途相談しよう」
「分かりました」
そう言ってギースさんがイスに座る。
何というか、好感触で一安心だ。
「ショクチェンドゥ側はどうでしょう?」
ロイド王がそう問いかけたのは、ショクチェンドゥの大使、プリケ。
彼女もギースと同じく、周囲の面々に動じず、自分の職務を全うし始めた。
「ホーク王のお言葉です。ギルレオンは信用できる。ただしどれほど彼を信用しどれほど彼に期待しているのかを、言葉ではなく行動で証明してほしい」
言葉ではなく行動、か。
かなり難しい提案だ。
俺はそう考えていたのだが、ロイド、ウルスラ夫妻は違ったようだ。
「簡単なことだ」
「えぇ、そうよ!!」
そう言って口角を釣り上げるロイド、ウルスラ夫妻。
その視線はアリナのほうを向いていた。
嫌な予感がする。
「手塩にかけて育てたアリナを、お嫁に送ろうと考えているわっ」
「・・・は?」
各国重鎮が聞いている会談で、素っ頓狂な声を上げてしまった。
お嫁だと?
聞いてないんだけど?
思ってもいなかった事態に気が動転していたのだが、アリナは俺のほうを見てニヤついていた。
もしやアリナの言ってた、ちょっとした策ってこれのことなのか?
どこが”ちょっと”なんだよ!?だいぶでかい衝撃だぞ!?
「おぉ、アリナ。リュート殿ならきっと幸せにしてくれるはずよ」
「そうだとも。リュート殿は素晴らしいお方だからな」
ウルスラさんだけでなくロイド王までもこの策に加担している。
アリナを呼び出した理由ってこれかよ。
そしてそれを見たアリナ。
これでもかってくらい白々しい演技を始めた。
「しくしく、リュート殿は本当に私を幸せにしてくださるのでしょうか(チラッ)」
皆が見てるのによく三文芝居ができるな。
そう考えていたけれど、もしかしたらそれは間違いなのかも。
多分これは、アリナが俺に用意してくれたチャンスなのだ。
俺という人物をゴケンコウ、ショクチェンドゥに知らしめるための。
それが分かったならやることは一つ、迷う必要など一切ない。
「必ずや、幸せにします!!」
会議室に響き渡った俺の声。
少しだけ恥ずかしい。
「おぉ、そうかそうか。是非、お願いします」
「私からも、娘をよろしくお願いします」
ロイド王とウルスラさんが、嬉しそうに笑う。
だけどアリナだけは、ちょっと頬を膨らめて、そっぽを向いていた。
どうも三倍には満たなかったらしい。
でもそりゃそうだ。
あの”ドキドキ”は俺が一番理解しているのだから。
いつか必ずあの願いをかなえて見せる。
一人そう決意しているとホーク王の代理人、プリケさんが口を開いた。
「ホーク王はリューク殿、いえ、リューク王を信用するとのことです」
なんと、こんなに早くショクチェンドゥが認めてくれるとは。
だけど気が早いな、まだ魔王になれるって決まったわけではないのだが。
「はい、こちらも。えっ?そんなアリナちゃーん・・・。はい?これは言わなくていい?」
ゴケンコウ側の回線はごちゃごちゃと込み合っているらしい。
しばらく解けるのを待った後、ゴケンコウ側の意見を聞くことが出来た。
「こほん、こちらも信用するとのことです」
どうにか全員の信用を得ることが出来た。
もう少し時間がかかると思っていたのだが、これは予想外である。
ーおそらく、アリナの存在が大きかったのでしょう。
ん?どういうことだ。
ーアリナは非常に聡明で高位な地位にある女性です。それこそ諸外国の王子の嫁に迎えられるくらいには。仮に主がこの国にいなかった場合、国交回復の先駆けとしてチョウアンに嫁いでいた可能性もあるでしょう。そしてギルレオンはそんな彼女を既にある隣国では無くこれから国を興す新参者に送った。要は既に存在している国よりも、新たに国を興すマスターの方を優先したわけです。つまりギルレオンはこれから興る新しい国への期待と、その発展した国がもたらすであろう多大なる利益。そしてギルレオンとその国との結びつきは強固なものであるということを、隣国たちに知らしめたというわけです。
なるほど。
要はここで変に争って俺達との関係が悪化しないように立ち回ったわけだ。
ロイド王もウルスラさんも、ふざけていると思っていたのだが、実際は事がうまく運ぶよう策を張り巡らせていたわけか。
やはり王族というのは賢いんだな。
しかしその分伸し掛かった期待に押しつぶされそうになる。
だけど今の俺には仲間がいるのだ、彼らを信じて頑張るとしよう。
俺がそう決意しているとロイド王も、最後の確認を二人の大使に発していた。
「では、リュート殿が領土を持つことを許可すると?」
「「はい」」
二人の声が二重に重なった。
これをもって今回の最重要議題は解決したのである。
「うむ、それでは会議の日程を・・・」
『ちょっといいかい?』
「うおっ!?」
急に話しかけられてびっくりしてしまった。
勢い任せて飛びあがってしまったので、ちょっと恥ずかしい。
『今会議中なんですが・・・』
『えっ、それって僕よりも優先するべきこと?』
このうざい喋り方の人物。
その正体は”魔を統べる者”フェルシアである。
『えっと・・・』
「リュート殿、もしや魔王が?」
「むっ!!その通りです」
いやはや察しが良すぎてびっくりしてしまった。
さすがは一国を預かる王というわけか。
「でしたら行ってきてください。会議の日程はこちらで決めておきましょうか?」
「すいません。お願いします」
いやはや素晴らしい人である。
フェルシアさんとは大・・・。
『ん?何か言った?』
『いいえ、なにも?』
あっぶねぇ~。
聞かれてたのか。
今度からは迂闊に行動するのはやめよう。
そう気を引き締めた。
『よしっ、それじゃあこっちに呼ぶね』
『え?』
呼ぶ?
どういう意味?
そう問い返す前に、俺の足元に魔法陣が現れる。
『転送ッ!!』
凄まじいまでの急展開。
そしてその掛け声の後、俺の視界は白い光に包まれていくーーー。
次の投稿は十月十八日です。
再来週ですね。




