集う魔王たち
お久しぶりです。
目が覚めた時、俺は幽冥城の会議室にいた。
この前見た巨大な円卓もあるし、間違いない。
ただ椅子の数は六つから七つに増えていたが。
「やぁ、ユウキ、よく来てくれたね。僕はとっても嬉しいよ」
「はぁ、どうも」
本気なのか冗談なのか、それは本人にしかわからないだろう。
やけに眩しい笑顔のフェルシアさんから目をそらし、会議室を見渡してみる。
埋まっている椅子の数は三つ。
フェルシアさんに、ルキフゲさん、もう一人は誰だろう?
金髪をした、嫋やかな印象を放つ美しい女性である。
多分だけど、この人が”黄金の賢哲”コールさんだ。
まとっている衣服は着物なものの、彼女の放つ雰囲気が、俺の抱く”傾国の妖狐”のイメージとはまるで違うのだ。
何というか、ボン、キュッ、ボン、って感じの印象がある。
だけどこの人は全体的に引き締まっていた。
いわゆるキュッ、キュッ、キュッ、って感じ。
だけどそれ以上の理由もあった、妖艶な雰囲気をまるで感じなかったのだ。
男を知らないというかなんというか・・・。
子どもはキスして生まれてくる。って考えてそう。
要は清楚な乙女といった感じ。
狐要素もないしね。
だからこの金髪の女性を、コールさんだと思い込んでいた。
「あなたがユウキさんね?初めまして。私の名はイズナ、よろしくお願いいたします」
だからそうやって挨拶されたときには、とってもびっくりしてしまったよね。
まさかこの女性が!?ってなっちゃった。
まぁ真面目そうな人も裏では・・・、っていう話もよく見かけるから、ありえない話ではないのかも。
「こちらこそよろしくお願いします」
「・・・あら?あなたは彼らみたいなことはしないのね」
「彼ら?」
ちょっと不思議に思ったので、そう問い返してみた。
するとイズナさん、不愉快なものを思い出したのか、ちょっと顔を顰めてこう言った。
「馬鹿な男たちのことよ」
「なるほど」
馬鹿な男たち、か。
清楚な感じを受ける人だけど、裏では”傾国の妖狐”やってんのかな。
「やっぱ”傾国の妖狐”っていうと・・・」
「私、そうやって呼ばれるの好かないわ。だって尻軽みたいじゃない」
俺が全部言い終わる前に、イズナさんが途中で割り込んできた。
その顔には少し、怒りの色がにじんでいる。
なんでだろう?
よくある同人お姉さんではないのか?
「イズナさんが何かしてるわけではないんですか?」
「してるかしてないかで言ったら、しちゃったんだけど・・・。まぁ見てたらわかるわ」
そう言って、廊下側の扉に目を向けるイズナさん。
何事かと思って耳を澄ませてみたら、コツコツという足音が聞こえてきた。
そのまましばらく待つと、”原初の妖精”クゥエンディさんが扉を開けて入ってくる。
相変わらず美しい銀髪だ。
「あ、こんばん・・・」
「お久しぶりです、麗しきイズナ嬢」
「・・・えっ?」
挨拶しようと口を開いた俺。
だが次の瞬間に飛び込んだ光景を見て、思わず絶句してしまった。
部屋に入ってきたクゥエンディさん。
まるでイズナさん以外は視界に入っていないかのように、一直線に彼女の前へ跪いたのだ。
あのクールな感じの人が、こんなことをするなんて。
ちょっと予想外の事態に気が動転していたら、またもや廊下の方から足音が聞こえてくる。
「おぉ、イズナ。お前の美貌は、燦然と煌めく三日月よりも美しく、野原に咲く・・・」
扉を開けて入ってきたのは、ガタイのいいライオンみたいな茶髪の男。
クゥエンディさんと同じく、一直線でイズナさんの前に跪いている。
ただ彼とは違って、口説き文句は恐ろしいほどに長い。
多分この人がルーさんだ。
コールさんは女性らしいので間違いない。
「ね?これが”傾国の妖狐”の理由。何もしなくても、男のほうから私に寄って来るのよ。昔、あまりにも鬱陶しい王が二人、私に求婚してきたの。何度断ってもねちっこく執着してきたから、無理難題を引っかけたんだけど・・・」
「実際にやりに行ったと?」
「正解よ」
そう言ってちょっと苦い笑いを浮かべるイズナさん。
何というか、苦労人なんだな。
ただしつこく求婚していた二人の王の気持ちも分からんでもない。
アリナがいなかったら、俺もそうなってたかもしれないし。
「いろいろ苦労してるんですね」
「ほんとっ、大変よ」
『あぁ、リュート様!!麗しきご尊顔を、この脳裏に焼き付けとうございます!!』
ッ!!急に悪寒が。
元ゴブリンの給仕長の顔が見えたような・・・。
いや、多分気のせいだね、きっと。
そんな風に無理やり気を逸らしていたら、慌てた様子で最後の魔王が会議室に入ってきた。
「待たせてごめんなさいっ!!」
小麦色の髪に黄金の瞳。
今この場にいないのはコールさんだけなので、この人が多分コールさんだ。
学者風の服にモノクル・・・、じゃない、あれは半分に割れたメガネか。
よっぽど大切なものなのか、はたまた道具は大切にする人なのか。
「初めまして、私の名はコール。ユウキ殿、どうぞよろしくお願いします」
そう言って丁寧に腰を折ったコールさん。
あまりの丁寧っぷりにびっくりしてしまった。
王族関係者だと言われても驚かないだろう。
「ユウキです。よろしくお願いします」
「あら、久しぶりの常識人ね」
若干乾いた笑みを浮かべながら、椅子に座ったコールさん。
楽天家と苦労人の差が激しすぎるぞ。
「君も座りなよ。そのために椅子を増やしたんだから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
フェルシアさんの言葉に従って、俺も椅子に腰かけた。
ふかふかの革製だ。
ちなみにその間、ルーさんとクゥエンディさんは、イズナさんを口説き続けていた。
「私はそこの阿呆とは違って、貴方様を必ず幸せにして見せます!!」
「ひねくれ者の言うことなど信じないでください。貴方様を幸せにできるのは、この私だけです!!」
こいつらを見ていたら、魔王というもののハードルがガクンと下がった気がする。
だんだんなんとかなる気がしてきた。
「・・・はぁ」
イズナさんが困った眼で俺のほうを見つめてきた。
流石に無視もできない、そう考えて口を開こうとしたのだが。
「お前ら、僕に恥をかかせるつもり?客人を待たせてるんだけど」
「「ッ!!すいません」」
フェルシアさんのその一言で、混沌としていたこの場が収まった。
ルーさんもクゥエンディさんも、お人形のように椅子に座り始める。
魔王達は皆平等である。
だけどそこには確かに、力による格差が存在していた。
ふざけた人に見えるフェルシアさんだが、その実力は本物なのだ。
「さぁ、それじゃあ会議を始めよう。みんな、よろしく!!」
次の投稿は十月二十一日です。




