6、キミの守るべきもの 後編
リリアナ。
いくらお前でも言って良いことと悪いことがある。
「そうか。なら、その悪い口を塞いでやらないとな」
「無駄だよ。私は魔素と魔力の動きが見えるようになった。あなたの動きはもう通じない」
余裕ぶって上から目線で断言する。
だけどな。
「それが勘違いだと言うんだ、リリアナ!」
確かにオレの体内保有魔力量は少ない。
だから普段は魔力の消費を抑えるために、最小限使っているんだ。
かといって、それしかできないわけじゃない。
「え?」
驚きの声は、すぐ真上より聞こえた。
なぜなら、リリアナは真上に吹き飛ばされているからだ。
「そろそろ黙れよ、勇者」
簡単なことだ。
オレは基本的に、部位ごとに魔力を通して効果を得ることが多い。リリアナは特性により、それを察知して動きを読んでいるんだろう。
逆に、全身に魔力を通して刻印を発動させれば、局所的な魔力の動きがわからない。
滅多に使うことのない全力の動きだが、これならばその特性で防げはしないだろう。
実際、リリアナは下から殴り上げられたことすら気づかなかった。
すでにレクターの胸部は破壊されている。それくらい重い一撃だった。
「誰が魔王だ、バカが!」
しかし、それでは終わらせない。きついオシオキが必要だ。
落ちてくるリリアナに対して、オレが放つ攻撃は後ろ回し蹴りだ。
それは彼女の左肩を破壊しながら、遠くへと吹き飛ばした。
家屋を破壊し、白銀のレクターが地面へと大きな音とともに倒れ込む。
「……その程度か」
周囲を見れば、音に驚いてか、コンラートとヨナーシュが驚いて手を止めていた。
ミレナの方は変わらず、賢者を一人で抑えている。
状況は悪くない。悪いが勇者は、ここで戦えなくなってもらおう。
「くっ……今の動き、見えな……」
「リリアナ、オシオキの続きだ」
「え?」
全力で加速し、彼女の両足の装甲の先を叩き切る。EAの足は長く、そこに肉は入っていないから、傷つけてはいない。
立ち上がろうとしていた彼女は、頼りになるつま先を失ってバランスを崩した。前のめりに倒れそうになる。
そこに膝蹴りを食らわしながら、両手を組んで上から背中を強く殴った。
軸をずらした上下からの攻撃で、レクターは勢いよく回転して倒れ込んだ。
周囲に土煙が舞う。
「う、うぅ……」
「いい加減にしろ。これ以上、邪魔をするな」
思わず強い調子で言ってしまう。
魔王だなんだとリリアナから言われ、頭に来ていた。
「……ヴィート・シュタク……」
しかしどうするか。
こいつを基地まで連れて帰るわけにもいかない。
なぜなら、称号持ちを捕まえておくような施設が、この世に存在しないからだ。牢屋など軽々と破る力の持ち主たちである。
こういうところが本当に面倒だ。
ヤンのように魔法が使えないなら、どうにかなるんだが。
「いや、良いか」
勇者は動けなくなった。
それで良い。
ミレナが戦っている場所を見た。
どちらかといえばミレナが押している。
以前の戦いで見せた、軌道の曲がる剣筋を防ぎ切れていないようだ。
「ならば」
オレは足を踏み出し、そちらに進もうとした。
その瞬間、背中に衝撃を受ける。
「何だ!?」
「させない!」
振り向けば、リリアナが片膝立ちで魔力砲撃を放っていた。
「……リリアナ」
胸と左肩を露出させ、つま先は大きく削り取られていた。
それでも勇者は立ち上がる。
「絶対にさせない……」
「諦めろ!」
左足で白銀のレクターの前に踏み込み、右足で蹴り飛ばそうとする。
「ぐっ」
左腕で防御したが、まともに食らって横向きに数ユルほど吹き飛んだ。
「抑えてろ!」
指示を出すと、残っていたボウレたちが駆け寄り、白銀の鎧の両腕を掴んだ。
「嫌だ!」
叫び声とともにレクターが、掴んだEAたちを一振りで吹き飛ばす。
しかし、すぐに膝をついて肩で息をし始めた。剣を支えにして立つのがやっとのようだ。つま先は斬り飛ばしたので、すでに踏ん張りも効かないだろう。
それでもフラフラと前に歩いて、オレに近寄ってくる。
「……どこまで……どこまでも邪魔するか、リリアナ!」
これ以上、オレはどうしたら良い。
リリアナを殺すことはできない。勇者としてオレを魔王とまで言い切ったんだ。ここで逃しても、周囲を巻き込んで狙ってくるだろう。
「ヴィート・シュタク……」
どうしたらコイツは止まる? どうしたら幼馴染みを止めることができる?
戸惑うオレに向かい、リリアナが剣を杖代わりによろよろと近づいてきた。
その頼りない様子を見ていたオレは、何故か後ろに足を踏み出してしまった。
――オレが後退した? なぜだ?
自分で自分の体の動きが理解できない。
いくら魔素や魔力の動きを把握できようが、リリアナと白銀のレクターに負けることはない。
なのに、なぜか恐怖のようなものを感じたのか?
いや、おかしい。そんなものはない。あるはずがない。
代わりに、薄い魔素の流れを感じる。
オレのバルヴレヴォは魔素のほとんどを遮断する。だが、どうしても全てを防ぐことはできない。完全に遮断すれば息ができなくなるからだ。
そんな僅かな隙間から、魔素が入り込んでいるのだ。
しかし、まだ耐えきれないほどじゃないが、妙に人為的な動きにも思えた。そんなことがあり得るかはわからないが。
「ヴィート・シュタク……あなたは優しい人だ」
リリアナが、フラフラとしながらも少しずつ歩き出していた。
「……何だ、今更?」
「私にトドメを刺すことなんて、いくらでもできた。殺すことなんて、いつだってできた」
それは事実だ。
もし勇者がリリアナではなく、どこぞの馬の骨なら、剣聖のように会ったときに殺している。
だが、これはリリアナ・アーデルハイトだ。
ドゥシャン、イゴル、アレンカ、ブラニスラフ、リベェナ、オティーリエ。そしてリリアナ。
ヴレヴォの幼馴染みの中で、唯一生きていてくれたのは、このリリアナだけだ。
殺された彼らの復讐をするオレが、彼女を殺せるわけがない。
「魔王だなんて言ってごめんなさい、でも私は、戦わなきゃいけない。大勢の人を殺したあなたを止めなきゃいけない」
「だから、どうした……」
「あなたは優しい。でも、沢山の人を躊躇なく殺す。……きっとそれは、あなたが優しい人だから、そうなった。ヴィート・シュタクが本当に血も涙もない男なら、私は死んでた。あの荒野の炭鉱前で、もしくは地下のユミル神殿で、あるいはブラハシュアの王城で、それかきっと、今さっき」
その通りだ。
オレとバルヴレヴォにとっては、勇者を殺すことなど容易い。
だが殺せない。
傷つけることすら躊躇する。
最大の矛盾。
幼馴染みを殺しヴレヴォの町を破壊した国を、自らの手で滅ぼすという復讐。
唯一生き残った幼馴染みであるリリアナが、その真竜国を守るのだ。
「だからヴィート・シュタク。私を殺す気で来て」
「……なぜ、そこまで言う」
「そうでなきゃ私は、本当は優しい人のはずのあなたを、殺さなきゃいけない」
「勇者の相手は魔王ということか」
「最後の一人になっても、あなたと戦う。恨みを晴らすために」
「諦めろ」
「私のいた真竜国の町が滅びの危機にある。すでに首都はヴレヴォのようになった。なら、私の復讐も正当のはずだから」
八歳まで過ごした国。
それから十年を過ごした国。
その二つが争っている。
――ああ、そうか。わかってしまった。リリアナが、突然、妙なことを言い出した理由が。
「だから、魔王ヴィート・シュタク。あなたを倒して今代の勇者の役目を終わりにし、私も死んであげる。それで手打ちにしよ。勇者と魔王は相打ちになった。それで終わりに」
オレはヴレヴォで幼馴染みを殺され、恨む対象が北西三カ国と決まっていた。
しかし彼女は、ヴレヴォも真竜国も故郷であり、どちらもが故郷の仇だ。
故郷を破壊され、恨みという感情を確かに抱いているのに、『何を恨むべきか』が、わからなかった。
だからせめて、敵であるヴィート・シュタクを恨もうとしたのかもしれない。
でもリリアナは、その仮面の男すら恨めなかった。優しい男だと思ってしまっていたのだ。
だから勇者の戦うべき相手として魔王を選び、自分は勇者としてヴィート・シュタクを恨もうとしたんだ。
つまり、恨みという感情はあるのに、恨む対象を選ぶことすらできないリリアナが、最後に選んだ対象。
それが、魔王という偶像だった。そういうことだろう。
目を閉じて空を仰ぐ。幼馴染みたちの顔を思い出した。
ごめんな、みんな。
リリアナを殺すなんてできない。
「……わかった。リリアナ・アーデルハイト」
腰を落とし、剣を横に構える。
「行くよ、ヴィート・シュタク」
だから、みんな。許してくれ。
オレの覚悟は決まったようだ。
「リリアナ・アーデルハイト。そちらの覚悟はできたか?」
「何の……?」
喉が渇く。
EA内に流れ込んだ魔素が、オレの顔にまとわりついて鬱陶しい。
「ヤン・ヴァルツァーのようになる覚悟だ」
「手足がなくなっても、私には魔法があるよ」
「ならば、リリアナ、その口までも縫い閉じて、お前を封じてやろう。なぁに、その後に回復はしてやるさ!」
余裕ぶって言っているつもりだったが、自分の声が震えているのがわかった。
魔力を全開で流し込み、やっとのことで立っている彼女の元に走り出す。
あと数歩だ。
すまない。
痛い思いをさせる。
だが、譲るわけにはいかない。
オレは、ヴレヴォの子なのだから、この子を意地でも止めなければならないんだ。
今、この剣を振り終われば、リリアナは立っていることもできなくなる。
それが正しいと思って、黒い剣を振るおうとした。
――ヴィル。
「バカが!」
自分を罵った。
全力で剣を振るったはずが、手に震えが走っていた。
あと刹那だけ速ければ、リリアナの両足を切断していたはずだ。
なのに、遅れた。何かが聞こえたせいだ。
その隙を突いて、リリアナが踏み出しながら剣を突き出す。
返す刃で断ち切るには距離が近すぎた。結果として、腕で吹き飛ばすだけで終わる。
「あぅ!」
小さな悲鳴を上げたリリアナに対し、オレは追撃のために飛び上がって剣を振り下ろそうとした。
――ねえ、ヴィル、たすけて。
「何だこの声は!」
剣と着地のタイミングが合わない。
その僅かな瞬間に、リリアナが横に転がって避け、起き上がって剣を突き出す。
迫る切っ先を左手で弾き、今度こそ踏み込んで。
――ヴィル、まってよぉ。
踏み込んで横に薙ごうとした腕を、レクターの左腕が掴む。
「くっ」
さっきから、何なんだ。
幼い頃のリリアナの声が、脳内に響いてくる。
さっきからずっと魔素の流れを感じていた。
バルヴレヴォの僅かな隙間を縫って入った魔素が、何かオレに影響を与えているのか?
密着した状態で膝蹴りを繰り出して、レクターの腹部に直撃させた。
その装甲がへこみ、わずかに浮いた。
「うぐっ」
また小さな声を上げた。
……我慢強くなったな、リリアナ。転んだだけで泣いてた子が……。
違う。
オレはそんなことを考えている場合じゃない。
魔素を感じる特性を得たと言っていた。
ならば、魔素を操る特性まで得たとでも言うのか?
空いていた左腕で浮かんだレクターの襟を掴み上げて、投げ捨てようとした。
距離を取って体勢を整えなければ。
そう考えた瞬間、胃の中から喉を逆流し、何かがせり上がってくる。
「ぐっ、こんなときに」
抑えきれず、装甲の中で血を吐いた。
また魔素過敏症というヤツか! 鬱陶しい!
「ヴィート・シュタク!」
フラついたせいで、白銀のレクターから手を離してしまう。
相手は密着した状態から、左手をオレの右の腹に添えた。
「クソがぁ!」
膨大な魔力の流れを感じた。
咄嗟に右肘を振り下ろす。魔力砲撃を放とうとしたレクターの左腕を叩き壊そうとした。
だが、間に合わない。
強い圧力を感じた。
地面から足が離れる。
「隊長!」
ミレナの悲痛な叫びが耳に届いた。
重装甲のはずのEAなのに、後方へ大きく飛ばされた。
そして背中に衝撃を感じる。
一度大きく跳ねてから、地面へと落ちたようだ。
かなりの距離を吹き飛ばされたらしい。
「チッ!」
オレが、バルヴレヴォが吹き飛ばされただと?
すぐに膝をついて起き上がる。
「貰ったよ! ヴィート・シュタク!」
眼前には、白銀のレクターが迫っていた。
「バカが!」
しかし相手はつま先の装甲を破壊され、踏み出しが鈍い。
だったら、オレの方が動きが一瞬速い。
ゆえに無茶な体勢から剣で薙ぎ払ってでも、その足を止めようとした。
――ヴィル、いたいよ、たすけて。
――たすけてやるから、ほら、ちょっとまってろ、リリアナ。
「クソがああああぁ!!」
最後には、完全に手が止まった。
次の瞬間、頭部に大きな衝撃を受ける。
殴り飛ばされた、と気づいたときには、オレは意識を失っていた。
殴られた痛みのせいではない。
おそらくEAの装甲の隙間から、こじ開けるようにして侵入してきた、大量の魔素によって。
■■■
「隊長!」
ミレナ・ビーノヴァーが賢者に背中を向け、黒いEAの元に駆け出そうとした。
「背中を見せるなんて! 火線!」
賢者が一句詠唱の魔法で、無防備な赤いEAの背中を狙い撃った。
「うるさい!」
超高熱を帯びた赤い光の一線を、ミレナは大きく飛んでかわした。
そのまま前方に回転しながら、逆さの状態で右手の剣を振るう。
空中に降り出された魔力が、三日月状の形へと変わり、高速で飛ぶ斬撃として撃ち出される。
「え!?」
セラフィーナは慌てて魔力障壁を張るが、間に合わない。
魔力の斬撃が彼女の腹部を切り裂いて、血が噴き出した。
「ぐっ、今、のは!」
その技に驚くが、痛みで次の言葉が出ずに膝をつく。
ミレナはそれ以上賢者に構わず、倒れた黒の男と白銀のレクターの間に滑り込んだ。
「どいて!」
リリアナが鋭い剣捌きで、ミレナをあしらおうとする。
「勇者ぁ!」
しかしミレナは怒りの声を上げながら、それを右の剣で弾き返し、すぐに左の刃を振った。
「くっ、そんな!?」
今までなら余裕を持って押さえ込めた赤いレクターに、簡単に受け流されたことを驚く。
何とか踵側に力を込め、リリアナが後ろに飛んで避ける。
「隊長はやらせない!」
素早い踏み込みで赤のレクターが、白銀のレクターの直前に踏み込む。
ミレナの放った左上からの斬撃を、リリアナが右から剣を振るって弾き返す。
「えっ?」
しかし次の瞬間、左の突きが彼女の首へと迫っていた。
「くっ!?」
咄嗟に首を曲げて、その鋭い突きを避けようとするが、切っ先が兜の右側面を削る。
相手の動きの速さに、リリアナが焦りを覚えていた。
赤い線の入った剣聖用のレクターは、彼女もよく覚えている。
かなり強い人間だと思っていたが、勇者はブラハシュアで、三対一でも余裕を持って受けることができた相手だった。
同じ人間とは思えない。
ミレナの弾き返された右手が、その途中で急角度に曲がり、再びリリアナの頭に襲いかかる。
白銀のレクターが腰を落として何とか避けた。
すぐ上を走る風切り音を聞きながら、リリアナは左上に振り上げた右の剣を、振り戻そうとする。
そこで寒気を覚えた。
この一撃は何としてでも避けるべきだ。
そう思って前に倒れ込み、横に転がる。
彼女が立っていた場所に、二つの剣が連続で通り過ぎた。
転がったリリアナが立ち上がり、距離を取った。
二機のレクターが向かい合う形になる。
「な、何が!?」
鋭すぎる双剣の輝きに、リリアナは驚くだけだった。
「勇者! 賢者がヤバイ! 引くぞ!」
兄弟の相手をしていたコンラートが叫ぶ。
リリアナが振り向けば、賢者の横っ腹が大きく切り裂かれ、大量の血を流していた。息も荒く膝をついている。
しかし駆け寄ろうとする勇者を手で止め、賢者は杖を頼りに立ち上がる。
「だめよ、今、ここでヴィート・シュタクを仕留めるわ!」
「でもセラさん!」
「行くわよ!」
「わ、わかったよ! あんまり得意じゃないけど治癒をかける」
勇者は大きく飛んでセラフィーナに近寄り、治癒魔法をかける。
「ありがと……だいぶ楽になったわ。じゃあ、やるわよ!」
勇者と賢者が並び、それぞれの武器を構える。
対峙するミレナも右手の剣を横に伸ばし、倒れたヴィート・シュタクを守るように構えた。
「動ける人間は、シュタク少佐を!」
そう叫び、再び三日月の魔力斬撃を放つ。
ボウレたちは命令に従い、倒れたまま動かない黒いEAを左右から担ぎ上げる。
ミレナの放った飛ぶ斬撃を、勇者のレクターと賢者が魔力障壁で防いだ。
「ヨルマさんの技を使えることには驚いたけど、それだけなら!」
「……ヴィート・シュタクは逃がさない」
リリアナが体勢を低く構え、賢者が痛みを耐えながら詠唱を始めようとした。
「やらせない、絶対に」
赤いレクターが呟く。
次の瞬間、リリアナは目を見開いて驚いた。
そこに相手の姿がない。
「速……すぎ!」
咄嗟に右側に剣を振るって、白銀と赤が交差する形になった。
「お前たちは、いつもいつも、シュタク少佐を苦しませる!」
「何……を……! ってえ!?」
勇者のレクターが剣を押し出し、力任せにミレナを押し返そうとした。
それを刹那の狂いもないタイミングで読まれた。
相手が背中を見せるように回転しながら受け流し、向き直りながら双剣を振る。
咄嗟にリリアナは上体を反らして回避した。
「セラさん、避けて!」
ミレナは、まるで勇者が避けるのを予測していたかのように、魔力斬撃を放っていた。それは真っ直ぐ賢者に飛んでいく。
「くっ、障壁を!」
詠唱を中断し、障壁で防いだ。
リリアナは仕切り直そうと思い、横に飛んで距離を取る。
「それは見えなくてもわかる!」
叫びながら左手の剣を振るい、白銀のレクターの着地点に魔力斬撃を放った。
「くぅ! この!」
咄嗟に剣で弾き返すが、つま先のないレクターでは踏ん張りが効かず、尻餅をついた。
「な、なんなの、この子、急に!」
驚きの声を上げる称号持ち二人に対し、ミレナが剣を振るって構え直す。
「お前たち称号持ちはいつもいつも……少佐の悲しみがわからないのか!」
「何を……」
「あのお優しい方が、なぜここまでになったか……」
「そんなの、知ってる! でも、それでも!」
「リリアナ・アーデルハイト!」
ミレナが初めて勇者の本名を呼ぶ。
「な、何!?」
「少佐は苦しんでおられる」
「……え?」
「何が魔王だ。自分たちの正当化のために、そんなものを持ち出すお前達は卑怯者だ。お前達こそが悪そのものだ!」
強い口調の非難に、リリアナのEAが一歩後ずさった。
「わ、私たちは!」
「あのお方をお前たちが苦しませるなら、私が絶対に守る! それが私の役目と決めたんだ! 称号を得た私の義務だと決めたんだ!」
何かを喋ろうとした真竜国の称号持ちを遮り、ミレナが断言した。
「称号を得た……? まさか……マァヤ・マークによる神授称号の夢を見たの?」
賢者が戸惑い呻くように呟いた。その異常な強さは、称号持ちであってもおかしくない。
白地に赤線の入ったレクターが、右の切っ先を勇者に向ける。
彼女はEAの中で、一つ深呼吸をした後、
「『剣聖』ミレナ・ビーノヴァー、参る」
と静かに名乗り、敵に向かって駆け出すのだった。
剣聖は剣から何か飛ばす。これ常識




