5、キミの守るべきもの 前編
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「お前のせいで、クハジーク家は終わりだ!」
クハジーク家三男ヨナーシュが、ボウレⅡをまとって剣を振り下ろす。
「何で家が関係あるんだよ!?」
その弟コンラートが、下から打ち返す。
「帝国の法では、裏切った者は一族郎党皆殺しだ! それぐらい知っているだろう!」
「え、いや、そりゃ、そうだけど、オレは」
「考えなかったのか! バカ者が!」
ヨナーシュの剣が次々とコンラートに襲いかかる。
周囲の人間には、その刃の軌跡がよく似ているように見えていた。
「ちょ、待て! 兄貴!」
ボウレⅡの鋭い攻撃を、レクターが何とか弾き返す。それでも防戦一方のままだった。
「お前のせいで! 何もかもが! 昔から言ってただろう! よく考えてから行動しろと!」
兄の叱責を聞いて、コンラートは剣を押し返すと同時に叫んだ。
「だけど! オレだって! 譲れないものがあったんだ!」
「それは、家族の命に代えてもか!?」
そうして何度も剣を交わしながら言葉も交える二人だが、弟の方が明らかに押されている。
「そんなつもりはねえ! これはオレの問題だ!」
「そんな戯言が通用するか!」
次々と繰り出される切っ先に、コンラートは防戦一方になっていった。
それを仕切り直そうと、一度大きく打ち合って、後ろに逃げようとする。
「お見通しだ」
ヨナーシュが剣を引き、コンラートの大ぶりを避けた。
前につんのめるコンラートの足元を、ヨナーシュが蹴り上げる。
青いレクターはそのまま一回転し、前方に倒れ込んだ。
「ってえ!」
「コンラート、残念だ。お前がそこまでバカだったとは」
ヨナーシュが背中から、コンラートの首へと剣を振り下ろす。
「くそっ」
青いEAは咄嗟に横に転び、素早く立ち上がった。そして再び剣を構える。
「逃げっぷりだけは上がったな、コンラート」
「……へっ、第二皇子の腰巾着になった兄貴が、まだそこまで強えとは予想外だったぜ」
「お前に剣を教えたのは誰だと思っている」
ボウレⅡとレクターは、称号持ち以外が使えば同等性能ということになっている。
そしてコンラートは戦場で強者相手に剣を振るうことにより、腕前を上げてきた。
「悪ぃが兄貴、ヴィート・シュタクだけは仕留めるぜ。その後なら煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
しかしヨナーシュは、コンラートにとっての師匠でもある。弟の剣筋などよく理解していた。
「愚弟め。ことはお前の首一つでも大して変わらん。だが、ないよりマシだな!」
弟と兄がEAで戦闘を開始する。
コンラートの剣にはどこか迷いと動揺が見られ、ヨナーシュは殺意剥き出しの刃を振るい続けるのだった。
「……また貴方なのね、赤いレクターの子」
賢者セラフィーナは杖を握りしめ、いつでも魔力障壁を展開できるように構える。
その顔付は厳しく、向き合うEAが苦手な相手であることは理解していた。
「ふん、私だって貴方と何度も顔を突き合わせたくないから、終わりにする」
対して細身の双剣を携えたレクターは、どこか余裕のようなものが見られた。
「今日は勝たせてもらうわ。真竜国の未来のために」
まずは一句詠唱の魔法から唱えようと、セラが魔力を集中させた瞬間、
「言葉で語るな、愚者が」
と耳元で聞こえた。
背筋に寒いものを覚え、賢者は全力魔力障壁を張った。
「くっ、相変わらず速い上に剣の出所がわからない!」
「私は頭に来てるんだ、賢者」
「二の精霊、大地の壁よ!」
双剣により障壁を破壊された瞬間、セラフィーナは足元から土の壁を発生させる。レクターを囲む分厚い壁には、いかにEAといえど一瞬の時間を要するだろう。
そこへ壁ごと破壊する魔法を使おうと、賢者が詠唱を始めたときだった。
「何が魔王だ」
三ユル近くの高さの土壁に、赤いEAが立っていた。
「なっ!?」
「お前たちの脆弱な志なんてわかってる。あのお方を魔王と呼び仲間を募る。例え真竜国が滅びようとも帝国に復讐する」
賢者は身体能力を強化し、咄嗟に横へ飛びすさった。
彼女が立っていた場所に、鋭い斬撃が二発放たれた。
「だからどうしたというのよ、帝国。あの星降りで、すでに真竜国は敗れたも同然。なのに帝国は降伏すら許さない!」
「さっさとその首を差し出せばいいじゃない」
「この首を差し出して、民が守られるという保証がどこにあるの!」
半ば金切り声になった賢者の叫びに対し、赤いEAからは、
「ああ、そういう言い訳するの」
と冷めた調子で、突き放すような言葉が放たれる。
「え?」
「死にたくないと言えばいいじゃない。でも賢者セラフィーナ・ラウティオラ」
「な、何?」
「さっさと死んで。シュタク少佐のために」
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オレはリリアナと、何度も剣を交える。
白銀の刃が煌めき、オレの首へと襲いかかった。咄嗟に剣で弾き返し、少し距離を取った。
そこへリリアナが前へと踏み込んでくる。
「くっ」
妙だ。
「ちっ」
思わず舌打ちが出る。
剣と剣は互角だ。力も速さも同じぐらいに思える。その時点ですでにおかしい。
唯一、経験だけがオレが勝っている。
「なぜだ」
「何を怒ってるの……」
冷めた言葉でどこか呆れたように問い掛けてきた。
乾いた金属の音が何度も鳴り響く。
何が起きている?
剣を交えるたびに、相手の速さが上がっていった。
左上から振り下ろされた刃をギリギリで受け流し、体を密着させてから左手で魔力砲撃を放つ。
以前はこの手でリリアナに勝っている。
「わかってた」
だが、砲撃を放つ前に、バルヴレヴォの左手首をレクターの左手が掴み上げていた。
「ちっ」
逆に相手の左手を掴む。そのまま腕甲内に魔力を走らせ、腕一本でリリアナを空へと引っ張り上げて投げ捨てた。
「……見えてる」
リリアナの独り言が聞こえてくる。
彼女は空中で体を回転させ、地面へと両足で綺麗に着地した。
再び剣を構えた白銀のEAは、先ほどと何も変わらない余裕を持っている。
……何が起きてるんだ。
オレがここまでリリアナに押されるわけがない。
EAのバルヴレヴォもいつも通りだし、体調も悪くない。行軍の疲れが多少はあるが、問題になるほどでもない。
しかし勇者の動きに押されている。第三者から見てもわかるぐらいだろう。
「あなたはずっと、魔素を感じてたから、強かったんだね」
「それがどうした」
「けど、私にもそういう特性が芽生えたのか、感じるようになった。あの星降りの前ぐらいから」
「ああ、そうかよ!」
称号持ちが持つ特性というヤツか。
オレは右の脚甲内に魔力を入れ、加速しようとした。
「右足」
オレが滑り込むようにレクターの足元へ入り込んだ瞬間、相手は後ろへと飛ぶ。
「なにっ?」
相手の左手に魔力が流れるのを感じた。
魔力砲撃だとわかり、障壁を張って弾く。
「気づいたけど、あなたは魔力がかなり少ない。それでも、必要最低限を最大限に生かしてる。すごい技術だよね、私には特性があってもできる気がしない」
感情を感じない声だった。
そこに違和感を覚える。
「……勇者殿?」
「悪いけど、あなたは、魔王だ。そうでなければならない」
「だから、先ほどから何を言っている? オレが魔王であるわけがないだろ?」
「そうでなければ、戦えない」
「リリアナ?」
本気でリリアナが何を言っているかがわからない。
「勇者リリアナが尋ねる。ヴィート・シュタク殿。あの星降りは、あなたの仕業か?」
「そうだ」
「あんな技、称号持ちですら命を賭して初めて可能となる類の技」
まあ、実際に命を賭けたからな、ヤンが。
しかし、それを言うわけにもいかない。エディッタの存在がバレるのは良くないからだ。
称号持ちたちには、アイツが最後にヤンを引き取ったことになっている。ゆえに、ヤンを使ったことがわかれば、エディッタが裏切ったと類推することも可能だ。
「オレの力じゃない。帝国の技術だ。それだけ恨まれているんだ、この国は。いい加減に理解しろ」
「国を恨むのと民を殺すのは違うよ、ヴィート・シュタク」
「ほう? 面白いことを言うな。民あっての国とは、よく王族が言うではないか」
「そうだね」
「ならば民を崩すことが、国を破壊することではないか。ゆえにあのメテオストライクは正義の鉄槌だ」
「物も言えぬ赤子も、ヴレヴォが焼かれたときには生まれていなかった子供も、全て殺すことが?」
「民あっての国だからな。ならば、民を殺すことこそが、国を滅ぼすことだ。違うのか?」
嘲笑うように言うオレに対し、リリアナは空を仰ぎ、
「あんなの、人の死に方じゃない」
と零した。
「死に様を選べるのか人間は。新しい理論だ。哲学者が喜ぶな」
「あなたと帝国なら、もっと穏便に済ませることもできた。民を皆殺しにせずとも、真竜諸島共和国の主導者だけに責任を取らせ、国を占領することもできた」
なるほど正論だ。
確かに帝国はそれを目指すこともできた。だが、その手段は使えないという結論に達したのだ。
「ならば問うがな、レナーテの首を差し出せるのか、お前たちは」
「……それは」
できるはずがない。
聖龍レナーテは、称号持ちよりもさらに強い。膨大な魔力と攻撃力の高い魔法、巨大な体躯に裏付けられた体力。どれを取っても、人間ごときが叶う相手じゃない。
そんな生物に命令をして、民のために死ねなど、言えるはずがないだろう。
「恨むしかないんだ、勇者リリアナ。オレは目の前で死んでいく人間たちを見た。和平交渉中に無防備なヴレヴォへと攻め入って、民を殺して回った」
「それなら、暴走した人間たちだけを」
「殺して回る? バカが。事実、ヤン・ヴァルツァーは何事もなく生き残っていたではないか」
ヴレヴォに攻め入った男の一人を野放しにしていた。その事実さえ知らずにだ。
そしてリリアナとセラフィーナは責任すら取らせず、山小屋に放置して聖女に治させようとした。
そこに言い訳はできない。
「……じゃあ、どうすれば良いの」
幼馴染みの声が震えていた。それは彼女が泣く前振りだと、今でも覚えている。
「差し出すべき首を差し出せない、ならば、自分たちの力で恨みを晴らすしかない」
「だったら」
「だったら何だ?」
リリアナが降ろしていた剣を上げ、切っ先をこちらに向ける。
「私も恨むしかないじゃない! 自分の育った町を破壊され、親しい人たちは死んでいった。色んな人が死にすぎて苦しいんだよ! だから恨むしかないじゃない! あなたを! ヴィート・シュタクを!」
白銀の鎧の中から、勇者の叫びが聞こえ周囲に響く。
「そうかい」
だが、オレに返せる言葉はそれだけだ。
リリアナはすでに故郷を二度失っている。
一度目は帝国にあるヴレヴォの町を、真竜国を含む北西三カ国によって。
二度目は真竜国の首都と神殿を、オレが放った大規模魔法で破壊された。
ならば、リリアナがヴィート・シュタクを恨むのは、筋違いじゃない。
「しかし、それならヴレヴォの町にいた勇者殿は、どちらも恨むべきではないか?」
「……勇者が戦うのは、魔王であるべきだ」
再び平淡な声に戻って、妙なことを言い出した。
「つまり、何が言いたい?」
「ヴィート・シュタク。あなたは強大な力を操る魔王である。ゆえに今代の勇者リリアナ・アーデルハイトが、ここに認定した」
「だから、それがどうした? 魔王とは称号だろう? お前も見たじゃないか」
「ううん。強い貴方が魔王であれば、勇者が憎んでもおかしくないから。それに、私に協力する人間も、これから出てくるかもしれない」
オレが魔王ではなく、勇者として魔王に仕立て上げる。そう言ってるのか。
魔王魔王と連呼されれば、いくらリリアナでも腹が立つのは事実だ。
「さて、我らが帝国に挑む国があるかな?」
「わからない。でも、あなたは『魔王』。ゆえにリリアナ・アーデルハイトが、命を賭してでも倒すべき相手である」
長すぎたので分割。




