白石宏一という男
校庭の端にある水道の近くで、美奈は二宮と向き合っていた。
「告白します」と言われたと思ったら、尊敬しているのは自分ではなく父親だった。
美奈は二宮を見た。
「つまり、私の父のファンってこと?」
「はい。その通りです」
二宮は即答した。
「僕は、物心がついた頃から、バスケットボールの試合を観戦してきました。生で観戦できない試合は、あとから映像で見る。白石宏一さんが出場された試合は、映像で確認できる限り、すべて拝見しております」
美奈は軽く頷いた。
父のファンなら、これまで何人も会ってきた。
今回も、そんな話なのだろうと思った。
「二千十八年三月五日です」
二宮が突然、日付を口にした。
「何が?」
「白石宏一さんの試合です。忘れられません」
美奈は少し驚いた。
「日付まで覚えてるの?」
「もちろんです」
二宮は当然のように答えた。
二宮は、三人の守備を相手にした父の動きについて、細かく語り始めた。
特に、踏み出した右足を戻した瞬間が素晴らしかったらしい。
美奈が頷くと、二宮はさらに勢いづいた。
二宮の話は、そこから止まらなくなった。
美奈は、最初こそ軽く聞き流すつもりだった。
だが二宮の話は、これまで会った父のファンとは少し違っていた。
二宮が熱心に語っているのは、派手なシュートではなかった。
試合の中の、ほんの一瞬の動きだった。
気づけば、美奈は真剣な顔になっていた。




