唯一無二
その日の三限目は体育の授業だった。
授業が終わると、生徒たちは一斉に散った。
汗を拭く者、水を飲みに行く者、急いで更衣室へ戻る者。
体育のあとの校庭には、授業中とは違う緩んだ空気が残っていた。
美奈は数名の女子たちと、校庭の端にある水道へ向かった。
水道の近くは校舎の陰になっていて、少しだけ風が通る。
中野真由が、ペットボトルの蓋を開けながら言った。
「クラスのテーマ、世界を驚かす。面白すぎない?」
楽しそうな声だった。
美奈は頬を緩ませた。
「真由と同意見。二宮君、面白いよね」
別の女子の顔が、少し曇った。
「二宮君の話、聞いてたけど。正直、あのタイプ、かなり苦手」
美奈は首を傾げた。
「あのタイプって……唯一無二の存在だと思うけど。今まで二宮君みたいな人に会ったことないし」
「二宮君、かなり貴重だよね」
真由もすぐに同意した。
二宮を苦手だと言った女子は、納得できない顔をした。
「『世界を驚かす』がクラスのテーマだよ。意味分からないけど」
美奈は、ふと校庭の向こうへ目を向けた。
二宮が、まっすぐこちらへ歩いてきていた。
迷う様子はなかった。
「私、教室戻ろうかな」
一人の女子が目を泳がせて言った。
ほかの女子たちも、その視線の先を見た。
「そうだね、戻らないと」
他の女子たちもすぐに頷いた。
誰も二宮のことを悪く言わない。
だが、そこにいたくない気配だけは、はっきりしていた。
「美奈、戻ろ」
真由は軽く声をかけ、ほかの女子たちのあとを追った。
美奈は動かなかった。
近づいてくる二宮を、ただ見ていた。




