021 呪いの正体、見破ったり!?
「次は、北の時計塔の隣あたりに店があるって。行こう」
『えー。ボクもう疲れちゃったあ。うごきたくなーい』
渋々広場を見つけて、芝生の上に腰を下ろす。
あれから私たちは、王都中の美術商や宝石商、古物商をあたった。
手元のメモには、訪れた店の名前がずらりと並んでいるが、その横には断られた理由が書き添えている。
「もう10箇所は回ったかー」
美術商を見つけた時は、天才的なひらめきだと膝を打ったのに。
宝石商はやはりイメージが大切だからと断られることが多かった。
婚約の品や贈答品を扱う店が多いからこれは仕方ない。
個人的に一番きつかったのは、ドラクロワ氏の関係ならば取引しないと断られたときだ。
美術品界隈では氏のなりふり構わないやり方は有名らしい。
名前を出した途端に店員が態度を変え、追い出されたりもした。
『やっぱり他の国いこーよ』
「それがいいかもなあ」
芝生の上でピピは伸びをしているから、真似して私も横になる。
地面はほんのり冷たくて寝転がるのにちょうどいい。
地図で確認した学術都市は、いくつかの山に挟まれた谷間に存在していた。
行くならば寒くなる前がいい。
何度か往復することを考えると、行くならば早めに決めないと。
『そういやニナは石の説明ちゃんとできるのー?』
「能力が呪いっぽくて、守護獣はヤギ、守護石はオパールでティアラについている。これまであった呪いは、えーと...」
ちらりと聞いた話では、学術都市の学者たちは細かいことまできちんと確認したがるという。
学者は値下げを要求しないのはいいが、その分手間はかかると古物商のおばさんが言っていた。
年代や産地などでは飽き足らず、わかっている範囲の材質や経過なども聞かれたらしい。
前の前の持ち主が誰かなど普通は知らない。
「もう少し、ティアラがどんなものか...能力もそうだけど、知ってからのほうがいいのかな」
そうと決めたら行動は早かった。
ドラクロワ氏の元へ戻る。
通されたのは前回と同じ部屋。
応接間のはずだが、窓辺に飾られたグラジオラスはしおれている。
世話をできないくらい秘書は忙しいのか、この辺りは奥方の役割で気が回っていないのかもしれない。
「改めて、守護獣と契約している最中の様子をお聞きしたいのです」
知っていることは全部話した!
ご家族とご本人以外の話はどうですか?それこそ秘書など...」
秘書はどこか困惑した顔をしている。
気まずさを隠すため、グラスを口に運ぶ。
(なんか物足りない…?)
ふと気になったのは花瓶の左側。
この部屋は美術品が整然と並んでいるのに、そこだけぽっかりと空間があるように見える。
「あの棚の上、花瓶以外にも何か飾っていたんですか?」
肩眉を上げて秘の方を振り返る。
「陶器の像がございました。巨匠マクガルドフ作の一点ものです」
(マクガルドフ...?)
疑問が顔に出ていたのか、隣国の有名な陶芸家だと秘書がさりげなく教えてくれる。
「ああ、そうだったそうだった。もうそんなものはいいんだ。ミーアちゃんが壊すなら仕方ないさ」
ミーアちゃんが誰かわからずにいると、「猫でございます」と秘書が助け舟を出してくれる。
「ミーア様は普段は孤高の猫でいらっしゃるのですが、あの日は見たことがないほど旦那さまにじゃれついてらっしゃいました」
「ミーア様は旦那様から片時も離れようとせず、旦那様も大層ご機嫌でした。
契約してからの出来事のうち、よかったのはそれくらいかもしれません。」
何を思い出したのか、だらしなく眉を下げている。
「それこそ山羊がいたときの話だ。猫なりに嫉妬したのかもしれないな」
「ああ、行ってしまうのかい。この前みたいに来てくれていいんだぞ」
おじさんがデレデレした顔で猫の後を追う姿は、見てはいけないもののような気がする。
そっと花瓶の横に目を逸らした。
高価な像が壊れたのもある種の呪いか?
それにしては本人はまったく気にしていない。
(だいいち、像を壊したいなら猫を使わず勝手に壊れるようにしたらいい。呪いは物には干渉できないということ?)
ありえる。
「もし周囲の人間の感情まで変えるようなものなら――」
「契約してから何かご自身の周りで変わったことはありましたか?」
「正直に申し上げると、私もあの時のことはよく覚えていないのです。ですが、旦那様が守護獣を手にされたことが非常に誇らしく思えました」
(…!)
驚いた、予想と違う。
てっきり秘書も、氏への悪意にとらわれるものだと思っていたが、そうではないらしい。
ひとしきり猫にかまって満足したのか、氏が戻ってくる。
猫は棚の上に逃げてしまったようだ。
「私は覚えているぞ!!『旦那様の成功が私の人生そのものです』とか言って足に縋りついていただろうが!」
想像するだけでぎょっとする光景だ。
秘書は気まずそうに目を逸らしている。
どうやら事実らしい。
「その......とても嬉しかったということですかね」
なんとか当たり障りない表現を絞りだすが、秘書はさらに小さくなってしまう。
見ているこっちがいたたまれない。
『なんか...激しいなー』
「ほんとね」
「誤解のないように申し上げたいのですが、決して旦那様に過分な感情を抱いているということはありません。ただ、あのときはひどく興奮してしまっていただけなのです」
オークションの熱にでもあてられたか?
いや、この場合は守護獣の力によるものだろう。
(そういえば、最初にティアラを手にした王妃はなんだったか)
王妃との違いについて考える。
王妃はティアラを手にした後、嫉妬した側妃によって殺された。
氏も不幸な目にはあっているが、それでも商売が失敗しかける程度で命が狙われている様子はない。
どうして人によって不幸の度合が違うのか。
他に、王妃と氏の違いは...
(もしかして)
頭の中に一つの仮説が浮かぶ。
骨折だけは説明がしにくいが、それ以外は筋が通りそうだ。
「秘書さんは、ドラクロワ氏のことをどう思っていますか?」
「どうって...」
目に見えて困惑している。
「呪いの正体、説明できるかもしれません」
絞りだした声は、思ったよりも乾いていた。




