020 テリー再び
ドラクロワ氏との面談を終えた翌日、早速売却先を探し始めた。
秘書からは、他に仲介のために動いている商人はいないと言われている。
なんでも、何人か話を聞きに来た者はいたが、やはり金額の部分で折り合いがつかず破談。
ティアラを見たらもう満足だと去っていった商人もいて、ドラクロワ氏は大激怒したらしい。
「誰に声を掛けたらいいかぜーんぜん思いつかない!」
『えー』
宿にいてもやることがないのでとりあえず街中までふらふら出てきた。
昼時にもかかわらずいつもより人通りが少ないのを見て今日が週末だったと気づく。
「やっぱり呪いを探している人に売るのがいいのかな?それか、なんでもいいから守護獣がほしい人?あとは......誰かを呪いたい人?」
ティアラか守護獣を欲していてお金があり、かつ曰く付きでも受け入れてくれる人。
そんな都合のいい人がいるのだろうか。
ドラクロワ氏は、売れれば相手の身元は問わないと言っていたが、悪用しそうな人に売る気はさらさらない。
テリーに会うことがあれば彼に打診してみたいが、まだ王都に留まっているだろうか。
『じゃあ占い師がいいじゃん!!』
「普通の占い師が何千万も払えるわけないでしょー!」
ユートルデ王国の中で最も栄えているのはやはり王都。
ここで買い手が見つからなければ他国へ行くのが賢明か。
ドラクロワ氏からは条件付きで前金50万アウロを渡されている。
(お金はありがたいけど、ますます失敗できなくなる)
当初は氏の話を聞くだけだったつもりが、気づいたら囲い込まれている。
悔しいがドラクロワ氏はたしかにやり手だ。
5,500万アウロも支払って商会は大丈夫なのかと興味本位で聞いてみると、ティアラの代金はドラクロワ氏の個人資産から払っているので、商会の資金繰りにも問題はないらしい。
村を出る時にははちきれそうだった鞄も、青空市場での出店が順調で軽くなってきた。
ここは旅商人らしく新しい国に行くのもありかもしれない。
(けど、他の国のこと、全然知らないや)
村に立ち寄る行商人は、もっぱら国内が専門で、他国を訪れた経験のある人は稀だった。
王都の南には海が広がっているので、行くなら東か西。
それか、エルセイよりもっと北?
頭の中にぼんやりとした地図を描きながら歩いていたので、ピピが反応していたのに気づくのが遅くなった。
「やあ、ピピ殿、ニナくん」
「...テリーさん!!」
数日前に別れたときは痛々しいくらいにへこんでいたが、元気に振る舞う姿を見て安心する。
『全然会えなかったなー!何してたんだー?』
「ちょっといろいろあってな」
含みを持っているが、そういうテリーの顔はいたずらっぽい。
『いろいろってなんだよー!おしえてくれよー!』
「...いやあ、ピピ殿といえどこれは秘密なのだよ」
話したくてたまらないらしいことはわかるが、私はどうしても遠慮してしまう。
その点、ピピは積極的で懐に入り込むのがうまいのだ。
そうして何度か押し問答を繰り返すと、テリーは参ったと言って、身をかがめて囁いた。
「ここだけの話だぞ。守護石を譲ってもらえることになったんだ!」
『えー!!!!!』
「ピピ!しーっ!!!」
今でさえこんなにもにやついているのだ。
一人でいるときにも笑って変質者にならないといいのだが。
ピピの反応に気を良くしたのか、聞いてもいないことまで教えてくれる。
「しかもたったの1,000万アウロでだ」
私の口からは1,000万をたった、とは言えない。
けれどもオークションで買うよりかは格段に安いのは事実だ。
「ちなみに、どういった守護石なんですか?」
「能力についてはまだ聞いておらん。どこぞの船乗りが、金の工面のために手放すと聞いとる」
思わずピピと離れ離れになることを想像する。
ピピの能力はきっと有用だ。
売ろうと思えば高く売れそうな気はする。
けれど...たとえ資金が尽きたとしても手放す気はない。
そんな気持ちが通じたのだろう。
ピピに頭をすり寄せると、ピピも同じように答えてくれる。
「だからニナくんには悪いがティアラは必要なくなったのだよ」
「なんで知ってるんですか!?」
「情報は商人の命さ」
いつぞやのようにウインクが飛んできたので、つい顔をしかめる。
ドラクロワ氏と話をしたのはつい昨日なのに、もう話が回っているのか。
「当てが外れて残念だったな、ふっふっふっ」
笑いごとではない。
テリーが売却先の第一候補だったのだ。
だめとあっては本格的に国外へ行かねばならなくなる。
「お詫びといってはなんだが、いいことを教えてあげよう。学術都市は知っているかね?」
『学術都市?』
聞いたことのない名前だ。
ピピと二人して首をかしげる。
「ほう、さては知らないな?」
「もったいぶらないで教えてください!」
こちらは必死なのだ。
余裕たっぷりの態度でひげを撫でている。
「学術都市というが学校があるわけではない。街が国であり、国が研究所なのだ。各国から優秀な研究者が集まって様々な研究が行われている」
テリーの説明は半分くらいしか理解できなかったが、言いたいことはわかった。
「守護獣の研究をしている人がいるかも、ということですね」
「うむ。もちろん、どんな守護獣でもいいというわけではないだろうがな」
「いえ、助かります。本当にだめだったら行ってみることにします」
「学術都市に行くかあ」
テリーと別れたあと、学術都市について調べるために図書館へと向かうことにした。
おおよその方向だけ聞いてここまできたが、どうにもこの辺りは入り組んでいて、同じ道をずっと歩いているような気分になる。
「このお店、さっきも見たよね?」
『そうだっけ?』
「ほら、カーテン。見覚えある」
少し曇ったショーウィンドウにかけられたカーテン。
ネイビーに金のストライプが入っている生地が特徴的だと思ったのだ。
『そうかー?あんなヘンテコリンな絵があったら覚えてそうだけど』
肩から飛び降りて窓に張り付くピピ。
窓が汚れるからやめてほしい。
ピピが言っているのは右奥に置いてある横長の絵のことだろう。
赤や青の鮮やかな線が縦横無尽に走るさまは子供のらくが...いや、前衛的という表現がぴったりだ。
店の名前を見ておけば、本当に同じ道を通っているかわかるだろう。
道の中央に立って店を見上げると、かすれているがヘミン美術商とかろうじて読める。
…美術商?
「これ、ありじゃない?」
ピピはピンときていないようで、白っぽくなった顔でぽかんとしていた。




