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旅商人ニナ ―守護獣と巡る街と品の物語―  作者: 秋野 玲
第一編 ユートルデ王国 第三章 王都グラディア
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18/23

018 かくれんぼ上手

闇市から数日後。

王都の賑わいにも慣れたころ、父に手紙を出すため、私とピピは商業会を訪れていた。

他の都市と比べると、やはり王都は人が多い。

資料を閲覧するために用意されたソファ席は、長旅で疲れた商人たちの憩いの場になっていた。


「.........が............だって」


「やっぱり.....。もとから.........てただろ?」


「呪いのティアラの.........。今も...」


呪いのティアラという言葉がはっきりと聞こえ、思わず振り向く。

私に気づいた男女二人組は、バツが悪そうに体ごと窓の方を向き、さらに小さな声で話を続けている。

失敗した。わかりやすく反応するんじゃなかった。


肩に目線をやると、ピピは軽く頷いてから地面に飛び降りる。

あたりを確認した後、そのまま机の下に身を潜めた。

このままここにいてもピピの邪魔になる。

彼らから興味を失ったふりをして、手紙を持って奥のカウンターへ進んだ。


手紙を出すのは初めてだったが、今回は商業便を使うことにしたので思ったより安く済んだ。

商業会同士を繋ぐ仕組みで、時間はかかるが確実に届く。

次の発送は再来週。

近況報告を書いただけだからのんびり待っていてほしい。。


入り口のあたりへ戻ると、ピピは掲示板を見上げて考え事をしているようだった。

私に気づいてすぐに駆け寄ってきたので、手を差し出すとぴょんと飛び乗る。


「ピピ、どうだった?」


『呪いのティアラを買った人、大変なことになっちゃったんだってさ』


「大変なことって?」


『骨が折れて動けなくなっちゃったんだってー!』


「...そっか」


命が脅かされるような状態だと思っていたので肩透かしを食らう。

本人には悪いが、呪いの品を持っておいて骨折で済んだのならましではないか。

ろくに心配しない私の態度に、ピピは心外だと怒ってみせた。


『なんだよー、歩けないんだぞ。たいへんだろー!』


「まあそうではあるんだけど...」


大変といっても、あの落札者は御付きの人も連れていたし、お金は間違いなく持っている。

多少困り事があってもお金で解決できる側の人間に思える。


(というか、ここから文句が始まると長いんだよなあ...)


「そういえば、ピピは何を見てたの?」


あからさますぎる問いかけで話題を逸らす。


『んとー、あれ!たぶん!』


ピピが指さしたのは今日が掲示日となっている一枚の紙。

買い手募集と大きな字で書かれている。


「なになに...『貴重な品、おゆずりします。世にも珍しい至高の一品です』」


詳細は面談にて、と記載されているのでこれ以上の情報はわからない。

面談場所として指定されているのは高級店が立ち並ぶあたりだ。


(不良在庫をなんとかしたい?にしても変...)


高級店であれば伝手もあるはずだし、わざわざ商業会で買い手を探す理由が浮かばない。


『さっきの二人がこれがナントカって言ってたんだよー』


「...呪いのティアラを買ってくれる人を探してるってこと?」


得られた情報をまっすぐ結びつけるとそうなるが、そう簡単に手放すものだろうか?

5000万アウロも支払ったのにと私なら思ってしまうがその辺りの価値観はまあ人によるか。

手に入れるその瞬間が最高潮という人もいるようだし。


テリーに伝えようかとも考えたが、この街は彼のほうが詳しいだろう。

守護獣への熱量を考えると、すでに情報を掴んでいそうだ。


(会えたら一応、伝えてみようかな)


頭の片隅に記憶はしたが、数日もすれば忘れるだろう。

この時はそう思っていた。









数日後。

調べ物のために商業会を訪れていたときのこと。


『ニナ、あれ見てー!』


ピピに言われるがまま掲示板に近寄ると、先日見かけた張り紙が少し変わっているのに気が付いた。

掲示板の中央にでかでかと貼られているのは変わらないが、中身が少し違う。

買い手募集の部分には赤く横線が引かれ、仲介者募集と書き換えられていた。


『どういうことだー?』


「私も自信はないけど...直接買ってくれる人がみつからなかったんじゃないかな。だから、買ってくれる人を探してください、になった」


『...なるほどー!』


読んだままをそれっぽく言ってみたが、背景まではわからない。

オークションではあれだけの人が入札しようとしていたのだから、欲しい人はいるはずだ。

それでも誰も買わないのは、値段のせいか呪いを恐れてか。


「まあ、私たちにはもう関係ないよ」


オークションでの一幕を思い出す。

激しい入札合戦の最後、テリーへ向けた意地悪な顔...。


呪いのティアラと呼ばれているのを知って買っているのだし、何が起きても自分の責任だ。

いい印象がないせいか、味方するつもりになれない。


今日の目当てである過去の取引記録を探そうと、本棚の前でしゃがむ。


「魚、魚...あった」


これまで海に縁遠い生活をしていたので、魚の価格がいまいちピンとこない。

青空市場に出たときに、近くの店で塩漬けがたくさん売っていたので気になっていたのだ。

少し重いかもしれないが、日持ちする食料として内陸に運んでみるのもありだろう。


読み込むためにソファに移ると、ピピが見計らったようにつぶやいた。


『...あの守護獣もかわいそうだよな。呪いなんて呼ばれてさー』


「あの守護獣って...ティアラの?白い石だっけ?」


ティアラの話は終わったと思ったので、最初、ついていけなかった。


ピピは肩に座り直すと、頬を膨らませてそっぽを向いている。

呪いと呼ばれていい気がしないのはわかるが、現に落札者も憂き目にあっている。

これを呪いの他になんと呼べばいいのか。


『ニナは知らないかもだけどさ、ボクたちは人間を傷つけたりできないんだぞ』


「...でもティアラの持ち主は骨折してるんでしょう?」


ピピもその部分については反論のしようがないからか、でもでもと言いながら両手をこすり合わせている。

一体なにが言いたいのか。


私の方を見てはため息をついて、ティアラの子は大丈夫かなあと何度も何度も言う。

遠慮がちといえば聞こえはいいが、こちらが折れるのを待っているんだろう。


「.........話、聞くだけ聞いてみる?」


『いいの!?』


行きたいか行きたくないかで言えば行きたくない。

自分の手に余る話だとはうすうす感じている。


しかし、守護獣を引き合いに出されると、なにもしないのも寝覚めが悪い。

なによりピピが乗り気なのだ。


「依頼を受けるかは別の話だからね!あのおじさん、ちょっとひねくれてそうだったし」


『いいよいいよー!ありがとうニナ!!』


ピピは飛び跳ねて喜んでいる。

頼むから期待はしないでほしい。


(そういえば...結局テリーさんとは会えてないんだよね)


あそこまで守護獣を欲しがっていたのだ。

金額と気持ちの折り合いがつけば彼に売るのもひとつだろう。

もちろん、あの落札者からは買いたくないと言われれば、その時は潔く諦める。


テリーも私と同じ、旅商人だ。

数日会えていないならば、もしかしたらここにはもういないかもしれない。


(いやいや、広いから会えていないだけ。そうであって!)


私の不安など知らず、のんきに喜び続けるピピが小憎たらしく見えた。



最近涼しくなって秋が来ましたね。

身の回りでも体調を崩す人が増えてきました。

みなさまもお気をつけください。

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