↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅商人ニナ ―守護獣と巡る街と品の物語―  作者: 秋野 玲
第一編 ユートルデ王国  第二章 ジョレッツォ
PR
10/23

010 夕暮れの中で

結果として、市場の方へ移動したのは成功だった。



建物の中は食料品の店がほとんどだが、実は周囲には衣料品や雑貨の屋台が多く出ている。

ヴィヴィエンでは屋外の市場の中にあらゆる店が詰まっていたが、それと比べると雰囲気は結構違う。


大通りでも服が売っているが、あれは値段が高く普段使いのものではない。

商品の価格帯としても、ここなら馴染む。


昼食の時間を過ぎて、市場からぱらぱらと人が出てくる。

その中に、ひときわ異彩を放つ人物がいた。


体にぴったりとまとわりつく服を見事に着こなす男。

生々しいと嫌がられることが多い服だが、彼の場合はむしろ肉体美を感じさせる。

長い髪は艶めいていて、性別も時代も超越した神秘的な生き物という感想がふさわしい。


失礼にならない程度に見惚れていると、正面を見て歩いていたはずの彼が店の前でぴたりと止まった。

一か所を見定めたまま動かずにいるので、今度はどこか置物染みて見えてくる。

すっと顔を上げると、ナタリーが作った方のリボンを指さして「これを」と告げた。


声は思いのほか低い。


「3万アウロになります」


男は胸元からお金を引き出し、リボンの横に置く。

その腕には複雑な形の腕輪がはまっていて、ピピは魅入られたようにそこに近づいていったのだが。


『ひええ!』


叫びながら後ろに大きく跳ねるピピ。

目線の先を追うと腕輪がぐねぐねと姿を変えている。

ぼとりと地面に落ちて、ようやくそれが蛇だったのだと分かった。


蛇は器用にリボンを咥えると、そのまま男の体を這い上がり首にリボンをかけた。


「驚かせたな。少し遊びたかったようだ」


男の言葉に、蛇は嬉しそうに舌を出す。

蛇といえばヤマネの天敵だが、ピピは別に蛇を怖がってはいないように見える。

むしろ腕輪が動いた衝撃が大きすぎて動けないようだ。


『またね、可愛い子』


しっとりとした声が実に蛇らしい。

けれどもピピの耳には入っていないようで、まだ口を大きく開いている。

仕方がないので、指でちょんと口を閉じさせて、ピピの代わりに蛇に手を振った。








あっという間に夕方になって、冷たい風が吹いてきた。

西からオレンジの光が差し込み、宝石もひときわ強く光を放つ。

あの蛇使いといい、今日は美しいものをたくさん見られた。

心が潤ういい日だ。



「それ、綺麗ねえ。ちょっと触ってもいい?」


今度やってきたのは上品な白髪の女性。

鞄の脇からほうれん草やにんじんが顔を出しているので、夕食の材料でも買った帰りだろう。


「もちろんです。髪に巻くのが一番使いやすいと思いますが、自由に使っていただけます」


もしこの方が使うなら、シャツの胸元にきゅっと結んだら似合いそう。

そう思っておすすめしたところ、おばあさんはきょとんとして、そのあと目を細めて笑った。


「孫がね、職人として独り立ちすることになったから。そのお祝いを探してたのよ」


「それは失礼しました。お客様にお似合いになると思ったものですから」


職人として独り立ち、というとナタリーと同じかそれより少し上くらいの年齢だろうか?

彼女が気になっている花のデザインは、小さな花がぎゅっとつまった慎ましやかなものなのだ。

若い女性がつけても嫌味がないだろう。


「あら、ありがとうね。この年齢でも似合うなら、長く使ってもらえるかしら?何か良いものを贈りたいのだけど、高いものは買えないし、仕事の邪魔になるものは嫌がるだろうから」


おばあさんは花のリボンを手に取っては置いて、時折他の商品に目を向けてと深く悩んでいるようだった。

ずいぶん長い時間、そうしていたような気がする。


もうすでに一本は売れているのだ。

売れればよし、売れなくてもよし。

急かす必要はない。


「決めた。ちょうだいするわ」

おばあさんは清々しい表情でこちらを見た。


「ありがとうございます」


…買っていただけた。


迷いに迷って、それでも選んでもらえたことに心からの感謝が溢れた。

もちろん先ほどの蛇使いにも感謝はしている。

けれど、こちらはまた少し違う。

烏滸がましい言い方かもしれないが、人生の大切な瞬間に立ち会わせてもらえた喜びがあった。


花のリボンは4万アウロ。

大人一人なら一週間の食費になることもある。

受け取ったお金は、これまでよりずっと重く感じた。


先ほどは使いそびれたが、実はミネルヴァがかわいらしい包装も用意してくれていた。

傷がないか確認しながら折りたたみ、小さな箱に入れる。

そっと蓋を閉めて、おばあさんに手渡す。


「ありがとうございました」


何度も言ってきた言葉だが、気持ちが自然と乗った。

おばあさんも何度も礼を言ってくれる。


角を曲がって後ろ姿が見えなくなるまでピピと二人で見つめ続けていた。


いろいろと予定変更があり、とても短いですすみません...!

新キャラ、もう少しお待ちください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。