共鳴する魂、覚悟の力
「……チッ、ちょこまかと!」
ローガンが苛立ちとともに大剣を振るうが、その刃は空を切る。
モスはオークとは思えぬ身軽さで炎の中を舞い、影から影へと転身しながら、短剣でローガンの急所を的確に刻んでいく。
「……おおおおおっ!」
モスの超人的な連撃。ローガンの強靭な皮膚が裂け、鮮血が舞う。傍目には、モスが一方的に圧倒しているように見えた。彰人は息を呑みながら、その光景を凝視する。
(いける……! モスなら、あいつを倒せる!)
だが、血まみれになったローガンの口角が、不気味に吊り上がった。
「……遊びは終わりだ、三下。【金剛強化】」
ローガンの全身が魔力の脈動とともに鋼の色に染まる。
モスが放った渾身の突きが、金属音を立てて弾かれた。
「なっ……!?」
「遅ぇんだよ」
直後、ローガンの丸太のような足がモスの腹部にめり込んだ。
ドォォォォンッ!
凄まじい衝撃音とともに、モスが数十メートル後方へと吹き飛び、砦の壁に激突して崩れ落ちる。
「ガハッ……あ……、あ……」
一撃。
たった一撃で、モスは立ち上がることさえできなくなった。
ローガンは全身傷だらけで、滴る血が火に炙られて蒸気を上げているが、その足取りは微塵も乱れていない。彼は余裕の笑みを浮かべ、動けない彰人を一瞥すると、ゆっくりとモスの元へ歩み寄った。
「……魔王様……逃げて……ください……」
血を吐きながら、モスが掠れた声で叫ぶ。
ローガンは無慈悲に大剣を振り上げた。モスは静かに目を閉じ、死を覚悟する。
「あばよ、ブタ野郎」
大剣が振り下ろされた――。
だが、肉を断つ音は聞こえなかった。
「……あ、れ……?」
モスが目を開けると、目の前でローガンの大剣の鋒が、まるで目に見えない壁に阻まれたように「カタカタ」と激しく震え、止まっていた。
「……あぁ? なんだこりゃあ!?」
ローガンが力任せに押し込もうとするが、剣は一ミリも動かない。
男が忌々しげに視線を向けた先。
そこには、右手を差し出し、瞳を異様な光で発光させた彰人が立っていた。
【信仰値:480 → 0】
【潜在能力解放:共鳴する器】
(効果:信頼を寄せる者の魔術、身体能力を一時的にコピーする)
(……動け、俺の体! こいつ(モス)を殺させるわけにはいかないんだよ!)
彰人の頭の中に、隣で眠るウルティマの重力魔術の数式が、濁流のように流れ込んでいた。
彰人の独白に呼応するように、周囲の空気が重く、鋭く軋む。
「……ローガン。あんたに、交渉する価値はない。……ここで、叩き出す!」
彰人は自分自身の体に、ウルティマ譲りの「超重力」を逆方向へと叩き込んだ。
「はっ……!?」
ローガンの目に映ったのは、残像すら残さない速度で加速した彰人の姿だった。
物理法則を無視した突進。彰人の拳が、ローガンの腹部に突き刺さる。
ドガァァァァァァァンッ!!!
「ガハッ……あああああぁぁぁぁっ!!!」
金剛強化していたはずのローガンの巨体が、まるで紙屑のように吹き飛び、砦の防壁を三つ突き破って夜の闇へと消えていった。
静まり返る里。
彰人は、あまりの反動に激しく咳き込みながらも、真っ直ぐにモスへと駆け寄った。




