絶望の黄金、沈まぬ剣鬼
「……っ、ハァ、ハァ……!」
拳を振り抜いた彰人は、その反動で右腕の感覚を失っていた。だが、目の前の防壁に空いた巨大な穴を見れば、手応えは十分だったはずだ。
隣でモスが気絶したように崩れ落ちている。背負ったままの彼女――眠り続ける彼女からは、今もなお微かな魔力の脈動が伝わってくる。
(いける……はずだ。この力があれば……!)
しかし、彰人の淡い期待は、瓦礫の山が内側から爆散した瞬間に霧散した。
「……ハッ。いいぜ、今の。最高だ」
立ち込める煙の中から現れたのは、右腕をだらりと下げ、あちこちの骨が折れているはずのローガンだった。彼は、まるで散歩でもしているかのような足取りで歩み寄ってくる。
「……な、んで……。今のを受けて、生きてるのかよ……」
彰人の顔から血の気が引く。
「直前でガードが間に合ってな。ま、右腕は持っていかれたが……。おかげで目が覚めたぜ」
ローガンは、ひしゃげた右腕を反対の手で無理やり「ボキボキ」と鳴らし、位置を戻していく。その痛覚が欠如したような所作に、彰人は戦慄した。
「おい、魔王さん。いいもん見せてやるよ。俺がここまで成り上がった、とっておきだ」
ローガンの魔力が、先ほどとは比較にならない密度で膨れ上がる。
「【超・金剛強化】」
その瞬間、ローガンの全身が、眩いばかりの「金色」に染まった。
単なる身体強化ではない。皮膚、筋肉、骨、すべてが未知の硬度を持つ金属へと変質したかのような、圧倒的な威圧感。
「……クソっ! 【重力操作:最大出力】!!」
彰人は背中の彼女から伝わる魔力を、スキルの回路を通して無理やり引き出し、ローガンに向かって叩きつけた。
周囲の石畳が、見えない巨大な力に押し潰されて粉々に砕ける。並の人間なら肉片も残らず潰れるはずの重圧。
しかし。
「……重てぇな。だが、それだけか?」
ローガンは、何事もないかのように、一歩、また一歩と歩みを進めてきた。
数百倍の重力さえも、彼の「金剛」の肉体は、ただの風のように受け流している。
「嘘だろ……」
彰人の声が震える。
物理法則すら超えた暴力。話し合いも、奇策も、眠る彼女から借りた力さえも通じない。
モスは意識を失い、自分の腕はもう動かない。
「……終わりだ。まずは、そのオークの首からだなぁ」
黄金の輝きを放つローガンが、死神のような足取りで、動けない二人へと近づいてくる。
夜空を焦がす炎よりも、目の前の「金色」が、彰人には恐ろしい絶望として映っていた。




