表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人転生  作者: ほさ
5/37

牙を剥く正義、泥を啜る王

ゴーズから渡された古びた地図を頼りに、彰人とウルティマは洞窟を後にした。

「まずはオーク族の里を目指すのです。彼らは多産で力も強い。彼らを味方に付け、王としての認知度を上げることが再興への第一歩です」

老宰相の言葉を思い出しながら、彰人は慣れない足取りで森を進んでいた。

「……なあ、ウルティマ。俺って、そんなに見た目変わったかな?」

「……ん。青い肌、銀の瞳。魔王の種族ルシフェルの特徴。……綺麗」

「綺麗、ね。そりゃどうも」

彰人は自嘲気味に笑った。自分では元の姿のままだと思い込んでいたが、この世界の理は、彼の外見さえも「魔族」へと作り変えていた。

不意に、森の奥から金属の擦れる音と、絶叫が響いた。

隣接する人間の領土から入り込んだ、グラウディア王国の傭兵団による襲撃。ダークエルフの隠れ里が、炎に包まれていた。

「……人間。……殺す」

ウルティマの瞳が鋭く光り、周囲の空気が重く沈み込む。しかし、彰人は咄嗟にその細い腕を掴んだ。

「待て、ウルティマ! ……話せばわかるはずだ。俺だって元は人間だったんだ。誤解を解けば、無駄な血を流さずに済む」

「……無駄?」

ウルティマは不思議そうに首を傾げたが、彰人の必死な形相に、渋々と魔力を収めた。

彰人は、返り血を浴びて笑い声を上げる男たちの前へと躍り出た。彼らの鎧には、髑髏を貫く剣の紋章――王国最強にして最恐の傭兵団【剣鬼組】の証が刻まれていた。

「おい、そこまでだ! 武器を下ろせ! 話を聞いてくれ!」

先頭にいた大男が、止まった。周囲の傭兵たちも、愉快な見世物を見つけたように彰人を囲む。

「……あぁ? なんだあ、この魔族のガキ。人間らしい言葉を喋りやがる」

「ああ、初めて聞いたぜ。化け物の口から、そんなご立派なセリフが出るなんてよ」

嘲笑が渦巻く。彰人は困惑した。自分の必死な訴えが、言葉としてではなく「珍獣の鳴き声」のように扱われている。

「俺は戦いに来たんじゃない! 平和的な解決を――」

「ハッ! 提案は一蹴だ。おい、このバケモノどもを女子供もろとも片付けろ。それが『剣鬼』ローガン頭領のやり方だ!」

傭兵の一人が、彰人の喉元へ剣を突き出した。

対話は最初から存在しなかった。彼らにとって、目の前にいるのは「命」ではなく「金に換わる獲物」でしかなかった。

「……ウルティマ!」

彰人が叫ぶより先に、ウルティマの重力魔法が発動した。

「……潰れろ」

一瞬にして、数人の傭兵が地面にめり込み、肉の塊へと変わる。しかし、その血の霧を切り裂いて、一人の男が躍り出た。

「副団長カルロスだ。……その程度の小細工、俺の筋肉フィジカルには通じねえよ」

鋼のような肉体を持つカルロスは、ウルティマの重力操作を力尽くで踏み越えた。彼の持つ大剣が、逃げ遅れたダークエルフの親子を捉える。

「あ――」

彰人の目の前で、救いを求めていた母親と子供が、一太刀で両断された。

舞い上がる鮮血が、彰人の頬を濡らす。

「あ……あぁ……」

膝から崩れ落ちた。警察官の息子として「命を守る」ことを教わってきた彰人にとって、目の前の光景は、脳を焼き切るほどの絶望だった。

「ひひっ、次は貴様だ、魔王気取り」

カルロスが冷酷な笑みを浮かべ、剣を振り上げる。

その時。

背後で、ウルティマの魔力が爆発した。

「……殺す。……絶対に、許さない」

彼女の淡い青の瞳が、深紅に染まる。

「――重圧:三〇〇倍」

ドォォォォォンッ!!!

大気が、地面が、森の木々が。一瞬にして限界を超えた重力に押し潰された。

カルロスを含めた傭兵たちは、悲鳴を上げる暇もなかった。鎧がひしゃげ、骨が砕ける。カルロスは血反吐を吐きながら、潰れた顔で不敵に笑った。

「……カハッ……やれやれ……。こんな真似して、無事で済むと思うなよ……。団長が……あの『剣鬼』が来るぞ……」

死を目前にしてもなお、男の瞳には狂気的な優越感が宿っていた。

静寂が訪れた森に、彰人の荒い呼吸だけが響く。

泥にまみれたダークエルフの死体。親友が見たら、どんな顔をするだろうか。

彰人の胸に、神の呪いのような「直感」が、これまでになく強く突き刺さる。

(――この民を守れ。さもなくば、お前は二度と帰れない)

「……っ、ふざけるな……。こんなの、正解なんてどこにもないじゃないか……!」

彰人の絶叫は、冷たい風に掻き消された。

一歩、また一歩と、彼らは後戻りのできない血の轍へと足を踏み入れていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ