迫り来る牙、守護の誓い
「で、お前がこやつらを捕まえてきたと?」
九尾族の里、広間。クウコの冷徹な眼差しが、引きずられてきた二人の冒険者に注がれた。
「は、はい……。ワイのケツは自分で拭かんと納得いかなくて……」
先ほどまでの威勢はどこへやら、クウカイはおずおずと視線を落とす。
(おいおい、さっきまでの勢いはどうしたんだ……?)
彰人はその豹変ぶりに呆れつつも、親子喧嘩の邪魔をしないよう沈黙を守っていた。
「馬鹿者っ!」
「ひぃっ……!」
クウコの一喝に、クウカイは蛇に睨まれた蛙のように縮こまる。
「我はお前に動くなと言ったはずだ。わざわざ魔王殿に頼んだのじゃ、なぜ話を聞かぬ? もし、我が動けぬ今、この里が襲撃されたらどうするつもりだったのじゃ!」
「ほんまに、すいません……」
泣きそうになりながら謝る娘を、クウコは深いため息とともに見逃した。そして、視線をオズとユウリに向ける。
「……まあよい。して、そこの冒険者よ。何をしにここへ来たか、聞かせてもらおうか。危害を加えようとしていたなら、話は別だがな……」
クウコの再度の睨みに、オズはガチガチと歯を鳴らして言葉を失う。
「こ、ここには『剣鬼団』を探しに来たんです……!」
隣のユウリが必死に声を振り絞った。
「剣鬼団? なんだそれは」
首を傾げるクウコに、彰人が静かに口を挟む。
「剣鬼団は人間の傭兵団だ。少し前まで、オークの里に居着いて悪虐の限りを尽くしていた奴らだよ」
「なに? オークの使者から聞いていたのは、そやつらのことだったのか……」
クウコが納得したように頷く。そこへ彰人が続けた。
「冒険者たち。残念だが、その剣鬼団は俺が潰した。だから、諦めて国へ帰れ。今なら危害を加えるつもりはない」
「なっ……!?」
オズとユウリが絶句する。傭兵団を壊滅させたという魔王の言葉に、二人は言葉を失った。
「うむ。我らもそれでよい」
クウコが同意した、その時だった。
「失礼します! 人間が! 大勢の人間が、この山に向かっています!」
九尾族の門番が血相を変えて広間に飛び込んできた。
「なにっ!?」
クウコが立ち上がる。クウカイはハッとして、縛り上げられた二人を睨みつけた。
「貴様ら……もしかして、あの時の……!」
「へっ……俺の投げた信号弾を見て、オーランドの冒険者たちが駆けつけたんだな。もう遅いぜ……」
オズが勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「貴様らぁっ!」
激昂したクウカイが二人を持ち上げようとしたが、クウコの声がそれを制した。
「やめんか! 今はそんなことをしている場合ではない! クウカイ、戦闘部隊を編成し、備えるのじゃ!」
「……わ、わかりました!」
クウカイが外へ飛び出していくのを見送り、クウコは彰人に向き直った。
「魔王殿よ、すまない。我は今から里を守るため、結界をより強固にする。儀式の間、我は一切動けなくなる。……どうか、我の馬鹿娘と、この里を守ってくれんだろうか」
「……ああ、わかった。できる限りのことはしよう!」
彰人の力強い返答に、クウコは微かに微笑んだ。
「では、この冒険者らは牢獄へ投獄しておけ。決して殺すことは許さんぞ。……我は奥に籠もる。誰も近づくでない」
クウコは周囲の九尾族に命じると、威厳に満ちた足取りで儀式の奥の間へと消えていった。
彰人はウルティマを連れ、戦備を整えるクウカイを追って外へと走り出す。
ソウル山の麓。そこには松明を掲げた無数の冒険者たちが、欲望に目をぎらつかせながら、刻一刻と里の入り口へと迫っていた――。




