追跡の狐火、孤立無援の丘
「やっぱり、あの赤い門みたいなのは見つからないじゃない……」
暗闇に包まれた山道を歩きながら、ユウリが不満げに漏らす。
「うーん……俺たちが見つけたのは一個だけだったのか」
「それに、魔物も全くいないみたいだし。……引き返そう、オズ。この山は指定難易度A級なのよ。私たちB級じゃ、何かあったらおしまいだわ」
ユウリの必死の説得に、オズは深い溜息をついた。
「……はあ。またラウストの野郎に馬鹿にされるな。……わかった、戻ろう」
折れたオズが地図を確認しようとした、その時だった。
「ね、ねえ……オズ。あそこに浮かぶ『火の玉』は何……?」
「あ? 火の玉? そんなもの……」
指し示された方向を見たオズの体が、凍りついた。
「ユウリ……ありゃ死者の霊か、それじゃないなら魔族だ。この暗さじゃ俺たちに不利すぎる。合図をしたら一気に逃げるぞ」
「わかった……」
「よし……一、二の……三!」
二人は背を向け、なりふり構わず走り出した。
「よし! 追ってきてない! このまま逃げ切るぞ!」
「ちょっとオズ! この道で合ってるの!?」
「わからない! だが今は止まれるか、行くぞ!」
必死に森を抜けるオズの頬を、不意に赤い「何か」が掠めた。
「え……」
「熱い、熱いっ!! なんだ!?」
頬を押さえて叫ぶオズ。その直後、ユウリの目の横を再び赤い光が通り過ぎる。
二人が恐怖に駆られて後ろを振り返ると、そこには、先ほどまで遠くにいたはずの火の玉が、意思を持っているかのように猛スピードで迫っていた。
「う、うわあああああッ!!」
必死に麓の丘まで逃げ延びたところで、月明かりがその正体を照らし出す。
それは、尻尾を赤く燃え上がらせた、あの九尾族の少女だった。
「あ! あの時の……!」
「追いかけてきたのか!?」
空中を自在に舞うクウカイは、不機嫌そうに悪態をついていた。
「あんな人間ども、ワイだけでどうにかなるんや! なにが魔王や、大仰に……!」
ついに追いつかれた二人は、死を覚悟して武器を構える。
「ぜえ……ぜえ……。ちきしょう、ユウリ! お前だけでも逃げろ! ラウストに増援を頼むんだ!」
「何言ってんのよ、私たちパーティでしょ!? 置いていけるわけないじゃない!」
「無理だ……俺たち二人でも敵わねえ。頼む、行ってくれ!」
ユウリは唇を噛み締め、涙を浮かべながら踵を返そうとした。
だが、その動きを嘲笑うように、周囲に無数の火の玉が出現し、二人を円状に包囲する。
「逃さへんで」
クウカイが静かに丘へ着地する。その背後で、燃える九つの尾が威嚇するように揺らめいた。
「これでようやく話ができるわ。ワイは九尾族のクウカイ。お前らオーランドの冒険者やろ? ……なんでここにきた? 正直に言わんと、丸焼きやで」
絶体絶命のオズとユウリ。クウカイの尋問が始まろうとしたその時、丘の反対側から「新たな足音」が近づいていた。




