新たな依頼
「先ほどは我が娘が不躾な態度をしてしまって、本当に申し訳ない」
九尾族の長、クウコは深く、真摯に頭を下げた。
「い、いやいいんだ。こっちもウルティマが先に手を出したわけだし……」
彰人が慌ててフォローを入れると、ウルティマも「……すみません」と、どこか不服そうながらも小さく頭を下げた。
「ほれ、お前も謝らんか!」
「うう、すんません……」
クウコに頭を無理やり押し下げられながら謝るクウカイ。その様子は、先ほどまでの不遜な態度が嘘のような、どこにでもある母娘のやり取りのようだった。
「この子も、私が動けぬ中で里を支えようと頑張ってはおるのじゃが、少し生意気なところがあってな……」
「お母様、ワイは魔王なんかに頼らんでもこの山を守れます! さっきも見たでしょう、ワイの方がこの人らより強い!」
「馬鹿者!」
クウコの拳がクウカイの頭に落ちる。
「人間たちはどこまでも狡猾じゃ。お前一人で一族全員を守りきるなど不可能だろう。それに……この間の襲撃で、門を一つ破壊されたのを忘れたのか?」
「……この間の襲撃?」
彰人の問いに、クウコは表情を曇らせた。
「ええ。先日、人間の冒険者がこの山に踏み込んでまいりましてな。村へと繋がる門の一つを見つけられてしまい、やむなく破壊せざるを得なかったのじゃよ。私が動ければ、門を壊さずとも追い払えたのじゃが……」
クウカイが悔しそうに口を挟む。
「あれはワイの責任や。奴ら、山の中で何かを探し回っとるみたいやったんや。様子を見てたら門を見つけられおって……焦って門を自ら壊した隙に、逃げられてしもうたんや」
「魔王殿よ。我ら九尾族はこのソウル山を守る役目も負うておる。ゆえに、ここを動くわけにはいかん。頼みというのは、我らに代わってその冒険者たちを探し出してはくれんかのう?」
「探す……? 探した後はどうすればいいんだ?」
「なに、殺しはせぬ。少しお灸を据えて、二度と近づかぬよう誓わせるだけでよい。我らは、ここで静かに暮らしていきたいだけなのじゃよ」
クウコの言葉に、彰人は真っ直ぐな瞳で頷いた。
「わかった。それなら、俺たちがその冒険者を探しに行ってくる」
【場面転換:ソウル山麓の洞窟】
「クッソ……やっぱり、ここには剣鬼団はいないんじゃないか?」
焚き火の爆ぜる音に混じり、冒険者オズが吐き捨てるように言った。
「あんたが『こっちにいそうだ』なんて言うから、わざわざ来たんじゃない」
仲間のユウリが呆れたように返す。
「だけどよ、あの山はやっぱり何か隠してただろ。それにあの狐顔の魔族……ありゃ相当な手練れだぜ」
「だろうね。私たちじゃ手に負えないよ。一度ラウストのところに報告に戻って、援軍を呼んだ方がいいと思うけど」
ユウリの正論に、オズは渋い顔で火を見つめた。
「うーん……もう少し『旨い情報』を持って行かねえと、あのラウストのことだ、移動賃くらいしか出してくれねえよ。……だから、もう一度チャンスを伺って見に行こうぜ」
暗い洞窟の奥、揺らめく火に照らされた二人の冒険者。
彼らが探す「剣鬼団」の行方、そして九尾族を狙う意図。その執念が、山を下りてきた彰人たち、そしてこの地を目指す勇太たちを、一つの運命へと導こうとしていた。




