霊峰の九尾、不遜なる試練
「着いた……」
丘から見えていたソウル山は、近づくにつれてその巨大さで彰人たちを圧倒した。麓に辿り着くと、そこには古びた、しかし荘厳な「鳥居」が鎮座していた。
「この世界にも鳥居があるんだな……」
「鳥居……? これは、結界を繋ぐための門」
ウルティマの言葉に、彰人は納得したように頷く。「なるほど、許可された者だけが通れる関所ってわけか。でも、誰もいないぞ?」
「…ん。」
ウルティマが指差した先。そこには、いつの間にか狐の面を被った魔族が静かに立っていた。
「ようこそ、魔王様。我らが里へ。さあ、門の中へおいでください」
誘われるまま門をくぐると、視界は瞬時に白い霧に包まれた。
「魔王様、これは……」
「ああ……こりゃすげえや」
霧が晴れると、そこは雲を遥か下に見下ろすソウル山の頂だった。門が空間を繋いでいたのだ。澄み渡った空気に彰人が感心していると、背後から女の声がした。
「よう来てくれたな」
振り返ると、そこには彰人と同年代に見える、九尾の尾を持った女性が立っていた。
「あんたが、クウコさんか?」
「いいや、クウコはウチの母親や。ウチは九尾族の長代行、クウカイ言います。よろしゅうな」
「クウカイか。俺は彰人、こっちはウルティマだ」
挨拶もそこそこに、クウカイは舐め回すように彰人を観察する。
「ふーん、あんたが魔王サマねぇ……。ほな、案内するわ」
連れられて向かった集落は、岩場に立ち並ぶ時代劇のような古い日本家屋の街並みだった。その最奥、集落の半分ほどを占める巨大な高級料亭のような建物が、クウカイの家だという。
中に入ると、大勢の九尾族が待機していた。
「魔王様だ!」「魔王様!」と沸き立つ民たちを、クウカイが「客や、少し黙れ」と一言で静まり返らせる。
「改めて挨拶させていただきます。……魔王彰人様、はるばるここまで来てくださり感謝申し上げます」
深々と頭を下げる彼女の、先ほどまでとは別人のような態度に彰人は戸惑う。だが。
「はあ〜……。これくらいでええか。もうめんどいわ」
突然、クウカイが顔を上げて笑い出した。
「あとは誰か説明してやって〜」
あまりの態度の変わりように周囲がざわつく中、ウルティマの瞳に冷たい怒りが宿った。
「あ、待て!ウルティマ!」
「貴様……魔王様を馬鹿にしている……!」
彰人の静止を無視してウルティマが手を向けると、クウカイの周囲の重力が捩れるようにうねり、空気がビリビリと鳴り響く。
「こんなもんか? 魔王サマたちは」
笑いながらクウカイが鉄扇を一振りすると、その重力波が霧散した。驚くウルティマとの距離を一瞬で詰め、鉄扇を振り下ろす。
――キィィィィィンッ!!!
鋭い金属音が響いた。彰人が割って入り、モスから授かった小刀で鉄扇を受け止めていた。
「いきなり何すんだ……このっ!」
必死に食い止める彰人だったが、クウカイの怪力に少しずつ押し込まれていく。
「これが魔王サマ。ほんまに拍子抜けやな」
「そこまでっ!!!!!」
建物全体を震わせるような怒号が響き渡った。
その瞬間、騒いでいた九尾たち、そしてクウカイまでもが即座に平伏し、床に頭をつけた。
「あ?一体なんなんだよ…」
襖が勢いよく開き、その主が現れる。
「我が娘が失礼した。代わりに話は我がしよう」
そこに立っていたのは、九尾族の長――クウコ。
「老齢で戦えない」という噂を嘲笑うかのような、圧倒的な威厳を纏ったその姿に、彰人は息を呑んだ。




