新たな出会いと別れ。そして霊峰へ
「先ほどはすまなかった、魔王アキト」
膝をつき、深く頭を下げる天狗。その態度は、先ほどまでの攻撃的なものとは一変していた。
「別にそんなに気にしてないぞ。それより、お前の名前はなんていうんだ?」
彰人が気さくに問いかけると、天狗は静かに首を振った。
「私に名前はない。天狗族は名前を持たぬ種族だ。ただ、森を人間から守護することだけが役目なのだ」
「そうなのか。でも、名前がないのは不便だろ? ……『テンちゃん』なんてどうだ?」
屈託のない彰人の提案に、天狗は一瞬呆気にとられたような顔をした。
「テンちゃんだと? ……ふん、まあ、お前がそう呼びたいのなら好きに呼べ」
「テンちゃん……かわいい……」
ウルティマがぽつりと呟いた言葉に、天狗は少しだけ居心地が悪そうに視線を逸らす。
「テンちゃん、さっきも言ったけど俺たちはソウル山に行って九尾族を助けたいんだ。だから、ここを通してくれないか?」
「無論だ。お前は私よりも強い。心配はいらぬ、道を開けよう」
「すまないな。じゃあ、行かせてもらうぜ、テンちゃん」
彰人は歩き出し、去り際、ふと思い出したように言葉を添えた。
「あ、そうだ。人間たちも、別に悪い奴らばかりじゃないと思うぞ? ……まあ、俺もこの世界に来てからは、まだそんな奴らに会えてないけどな」
その言葉には、どこか寂しげな響きが含まれていた。
「ふん、そんなことはあるまいよ。……だが、お前が言うのなら、あるいはそうなのかもしれないな。アキト」
天狗はわずかに口角を上げ、去っていく背中を見送った。
彰人たちが去った後、天狗は深い森の闇へと溶け込む。
「魔王アキト……。ん、また新たな人間の気配か。……アキトの言った『良い人間』だといいのだがな」
その呟きを残し、天狗は夜の森へと消えていった。
湖を抜け、険しい山道を進むこと数時間。
不意に視界が開け、一行は広大な丘へと出た。そこには、雲を突き抜けんばかりに高くそびえ立つ、荘厳な山が鎮座していた。
「あれが……ソウル山……」
ウルティマが、圧倒されるようにその山を見上げる。
「ひぇ〜……。高いな、こりゃ。あの上まで登るのか」
彰人は額の汗を拭い、目の前の巨峰を見据えた。
「よし、行こう、ウルティマ!」
それぞれの想いを胸に、勇者と魔王は、運命の地「ソウル山」の麓へと集い始めていた。




