新たなる目的地と新たなる出会い
「よし、準備は整ったな。じゃあ行くぞ、ウルティマ」
彰人は大きな荷物を背負い、気合を入れ直した。
「ん、わかった……。でも、魔王様。荷物は私の魔術で持てる……」
ウルティマが不思議そうに首を傾げるが、彰人は笑って首を振った。
「いや、いいんだ。これも修行の一環さ。俺もウルティマくらい重力魔術を使いこなしたいからね」
モスとの過酷な修行を経て、彰人は体術や剣術だけでなく、スキルによって継承したウルティマの重力魔術の鍛錬も怠っていなかった。
「魔王様。オークの里を出て南に進むと『霊峰ソウル山』がございます。そこは九尾の一族が住まう聖域。最近、人間の街オーランドの冒険者たちが九尾討伐を企て、頻繁に出没しているようです」
モスが地図を指しながら現状を伝える。九尾の一族は火の魔術に長け、族長のクウコはその実力から魔族の中でも一目置かれる存在だという。
「そんなに強い奴なら、人間の冒険者程度では手が出せないんじゃないか? それとも、またあのローガンのような強者が現れたのか……?」
彰人の脳裏に、あの略奪の光景がよぎり、表情がわずかに強張った。
「それが……クウコ殿は御年三百歳を超える老齢。最近は一族にすら顔を見せず、戦える状態ではないとの噂です。それゆえ、魔王様の力を貸してほしいと文が届きました」
「よし、わかった。次の目的地は決まりだ。ありがとう、師匠。必ずまた戻ってくるよ。そっちも何かあればすぐに俺たちを呼んでくれ」
彰人が感謝を伝えると、モスは静かに膝をついた。
「いえ、もう『師匠』と呼ばれるのは恐れ多い。あなた様はその身に、真なる魔王の才覚を宿されたのですから」
「本当に、ありがとうな」
彰人の優しい言葉を遮るように、ウルティマが袖を引いた。「魔王様……もう行かないと」
「よし、じゃあみんな、またな!」
彰人はオークの里の民たちに大きく手を振り、次なる目的地へと歩み出した。
里を出てしばらく歩いた場所に、静かな湖があった。
「いいところだな、ここは」
「ん……落ち着く……」
ウルティマも少しだけ表情を緩める。だが、湖畔に近づいた彰人は、何かが水面に浮いているのに気づき足を止めた。
「ん? 誰だ、あそこにいるのは」
「あれは……」
ウルティマが何かに勘づいたように呟く。「天狗族……。ゴーズが言ってた。森を人間から守ってる、番人……」
天狗。元の世界では空想の存在だったものが、目の前で静かに浮いている。彰人が感心しながら見つめていると、不意に声が飛んできた。
「そこで何をしている?」
「俺たちはオークの里から来たんだ。今からソウル山に行くところだよ」
彰人が答えると、水面に浮いていた天狗は鋭い視線を向けた。
「そうか。だが、この先は危ない。人間たちの気配がする」
「大丈夫だ。俺たちはそこらの魔族よりは、多分強い」
彰人が不敵に笑うと、天狗が小さく呟いた。「なら……」
次の瞬間、天狗が彰人の眼前へと瞬時に現れた。その手が彰人に向かって突き出され、何らかの魔術を発動しようとする。ウルティマが迎撃に動こうとしたが、彰人はそれを手で制した。
「大丈夫だ」
目にも留まらぬ速さで、彰人は天狗の手首を掴み、その力を無力化して制圧した。
「くっ……!」
悔しそうな声を漏らす天狗に、彰人は笑みを浮かべながら言った。
「ほら、言っただろ?」
「魔王様は、負けない……」
ウルティマが誇らしげに告げる。その言葉を聞いた天狗が、驚愕に目を見開いた。
「魔王様……!? お前、あの魔王様なのか……?」
「ああ。俺は一応、魔王って呼ばれてる『彰人』だ」
「魔王……アキト……」
天狗は、信じられないものを見るような目で、その名を噛み締めるように呟いた。




