静寂の森の番人
「うう……。さっきまで暑かったのに、いきなりひんやりする」
急激な気温の変化に、ジャンヌは肩を抱いて身震いした。
「なんだか懐かしい感じの場所だな」
対照的に、マリーはどこか安心したように周囲を見渡す。
「ここからは魔族の領地ですからね。マリーちゃんにとっては、住んでいた場所に似た空気感なのでしょう」
カレンが周囲を警戒しながら答える。
「ここが、暗黒大陸……。さっきまでの景色は、誰かの結界によるものか」
勇太はおもむろに聖剣を天に掲げた。聖剣から放たれた静かな光の波が、周囲の闇を洗うように広がっていく。
――ドサッ。
近くの茂みで何かが倒れる音がした。
「誰だっ!」
即座に反応したジャンヌが音のした方へ駆け寄ると、そこには長い鼻をした赤い顔の魔族が、苦しげにうずくまっていた。
「ま、魔族だっ!」
ジャンヌが剣を抜き、戦闘体勢に入る。
「待て、ジャンヌ!」
勇太がそれを制し、倒れ込む魔族の元へ歩み寄った。「……あの結界はお前の仕業か。ここで何をしている?」
魔族はうめき声を上げながら、恨みがましい目で勇太たちを見上げた。
「お前ら人間……。人間は通しちゃいけない……。アキト様がそう言った……」
「アキト……!? 今、アキトと言ったのか!?」
勇太の顔色が劇的に変わった。彼は倒れた魔族の胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄る。
「急にどうしたんだ、勇太!?」
あまりの豹変ぶりに、ジャンヌが驚いて駆け寄る。
だが、勇太はそれを無視して、さらに語気を強めて魔族に問い詰めた。
「そのアキトってのは人間か!? 魔族か!? どっちなんだ、答えろ!!」
「勇太様、少し落ち着いてください……!」
カレンが宥めようとするが、勇太は「ちょっと黙っててくれっ!!」と激しく怒鳴りつけた。
「……お兄ちゃん、怖いよ……」
カレンの陰にしがみつき、震える声で呟くマリー。その声に、勇太はハッとして我に返った。
「……っ、ごめん。マリー、カレン……」
勇太が力を緩めたその隙だった。魔族は身を翻すと、信じられない速さで森の深い闇の中へと消えていった。
「あ! 待て!」
ジャンヌが後を追ったが、そこにはすでに気配すら残っていなかった。
勇太はその場に立ち尽くしたまま、動けない。
(アキト……。彰人……お前じゃないよな……?)
スラーデンでの夢に現れた、ボロボロの彰人の背中が脳裏をよぎる。なぜ、この未知の土地で幼馴染のと同じ名が囁かれるのか。
底知れぬ不安と胸騒ぎが、冷たい森の空気とともに勇太を包み込んでいた。




