それぞれの正義、それぞれの対価
「改めて、ようこそこのクソッタレな街へ。先ほども言ったが、ここオーランド州の冒険者ギルドを全て束ねているギルドマスターのラウストだ。よろしくな」
酒場の喧騒を抜け、案内された二階の応接室。そこは階下の荒れ模様とは打って変わって、驚くほど整然とした空間だった。
ラウストはソファに深く腰掛け、鋭い眼光をジャンヌに向ける。
「おい、下で暴れてた嬢ちゃん。たしかジャンヌだったか? サンドラがえらく褒めてたが、あれはただの甘やかしだったのかな?」
「なっ……。サンドラ様を知っているのか貴様!?」
驚愕に目を見開くジャンヌに、ラウストは鼻で笑った。
「ああ、俺ら冒険者ギルドは、何か起きた際に対応できるよう王国騎士団とは常に連絡を取り合っている。なんだ、知らなかったか?」
何も返せず唇を噛むジャンヌを横目に、カレンが落ち着いた声で割って入る。
「ラウスト様、その話はもうそれくらいにしてあげてください。……ここに私たちを呼んだのは、別の要件があるのでしょう?」
「あー、そうだったな王女サマ。お前らがここに来るまでに、ギルドでも剣鬼団の消息不明について調査してたんだ。そしたら面白いことがわかってよ」
ラウストが身を乗り出す。
「面白いこと……?」
勇太の問いに、ラウストは表情を消した。
「ああ……おそらくだが、剣鬼団は魔族の手によって壊滅してる」
「なっ……!」
ジャンヌとカレンが同時に息を呑む。
「あのローガンのオッサンがやられたってのか!? 魔族って、どんな奴だ!」
「まあまあ、落ち着けよ。詳細は調査中だが……。オーランドから西に進んだ暗黒大陸の森に、オーク族の里がある。剣鬼団は国からの依頼でそこに攻め込んだ。だがな、ローガンの野郎、里を潰さずにオーク族を奴隷のように扱い、自分たちの享楽に使ってたみたいだぜ」
「……何?」
勇太の声に、隠しきれない怒りが混じる。
「聞いてた通り、甘ちゃんな勇者様だな。だが……何故だかそこのフードの嬢ちゃんの方が、先にキレちまってるみたいだがな?」
ラウストの眼光がマリーを射抜く。
「やっぱり、知っているんですね。マリーちゃんのこと……」
カレンの言葉に、ラウストは肩をすくめた。
「そんな怪しい格好で突如勇者パーティに加われば、普通は気づく。魔力の質が人間とは根本的に違うからな。……まあ、俺は邪魔をしないなら魔族だろうがどうでもいいが」
ラウストは机の上に地図を広げた。
「それでだ、勇者。お前らにちょいと頼みがあってな。……なあに、簡単な依頼さ」
「依頼? 何でしょう」
カレンの問いに、ラウストは不敵な笑みを浮かべる。
「そのオークの里に、ギルドの冒険者を派遣したんだが、連絡が取れなくなってな。そいつらを迎えに行ってほしい。俺は他にやることが山積みでよ」
「はあ!? 貴様らの失態を、なんであたいらが尻拭いしなきゃいけないんだよ!」
ジャンヌが強く反発するが、ラウストは意に介さない。
「報酬は弾むぜ。先出しにした今の調査報告ともう一つ……面白い『情報』がある。俺もお前らみたいな残念な奴らに頼むのは癪だが、腐っても勇者だからな」
「……わかった。引き受けるよ」
勇太が短く答える。
「勇太様!」「勇太!」
驚く二人に、勇太は冷静に返した。
「どのみち、オークの里には行くことになってただろう。それに、冒険者の人たちのことも心配だ。……もう一つの情報ってのも、気になるしな」
「話のわかる奴で助かるぜ、勇者よ。少しは見直したぜ……ほんの少し、な」
皮肉混じりのラウストの言葉を背に、勇太たちは新たな目的地――魔族と人間、そして欲望が入り混じる「オークの里」へと向かうことになった。




