白光の断罪、黄金の勇者
「グアアアアアアアアアッ!!」
理性を失い、黒い霧を撒き散らしながら獣のようにアイズへ肉薄する勇太。対するアイズは、その暴威を嘲笑うかのようにいなし、超越者の膂力をもって勇太の肉体を破壊し続けていた。
その凄惨な光景を前に、カレンは血の気の引いた唇を強く噛み締めた。
「勇太様……元に戻ってください。あなたには、人類全員の希望がかかっているのです」
カレンは静かに、しかし凛とした動作で両手を組み、目を瞑った。彼女の全身から、これまでとは異質の、神々しいまでの魔力が溢れ出す。
「大地よ、海よ、空よ、我求める汝の力を。神の御心を賜えし器は巫女なる我にあり」
「神の雷は我の雷。神の光は我の光。神の知恵は我の知恵……。聖神極大魔法――『神ノ断罪』!!」
詠唱が終わると同時、分厚い雲を突き破り、天から巨大な光の柱が降り注いだ。
「これは……ッ!?」
アイズはいち早くその異常なエネルギーを察知し、勇太の攻撃をかわすと球体へと姿を変え、その周囲に分厚い赤黒い防護膜を張り巡らせる。
光が直撃した瞬間、戦場は真っ白な世界へと塗り潰された。激しい蒸気が立ち込め、地鳴りのような振動がアイズ城を揺らす。
「な、なんだこの魔術……」
ジャンヌが唖然と見守る中、光を直接浴びた勇太は、喉を掻き切るような悲鳴を上げてのたうち回った。
「私が使える、最強の魔術です……。勇太様、帰ってきてください……」
全魔力を使い果たしたカレンが、その場に崩れ落ちる。
やがて光が収まり、再び夜の帳が降りた。
「……いやー、計算外でしたね。超越者に届きうる魔術を放つ者が、勇者以外にいたとは。しかし……もうその魔法は打てないようですね」
アイズは、赤黒い膜を溶かされながらも、即座に肉体を再生させていた。
「フッ……あの魔術は、貴様に対するものではありませんよ。……貴様を倒すのは、私たちの希望、勇者様です」
カレンの言葉に、アイズがハッとして勇太を振り返る。
そこには、先ほどまでの黒い霧をすべて吹き飛ばし、黄金のオーラを纏って静かに立ち上がる勇太の姿があった。
「チッ、死に損ないが……死ねぇ!!」
アイズは音速を超え、勇太の頭部を粉砕せんと触手を突き出した。
キンッ!!
鋭い金属音が響く。だが、勇太は剣も振っていない。アイズの触手は、勇太の数センチ手前で、見えない壁に阻まれたように静止していた。
「くっ……!? 何をした……!」
アイズは焦りを隠せず、無数の触手で乱打を浴びせる。だが、そのすべてが勇太の周囲で虚しく弾かれる。
「貴様ァ! 何をしたんだッ!!」
「私はただ、勇太様を解放しただけです。……これは、彼が本来持っていた力の一部に過ぎません。貴様は、それを見誤り過ぎた」
カレンの言葉がアイズを逆撫でする。
「なぜだ! 私のッ! 超越者の攻撃がッ! 通らぬッ!!」
狂乱するアイズの前で、勇太がスッと目を開けた。
その瞳は、元のブラウンではない。黒目が消え、銀盤のような真っ白な輝きを放つ「神の眼」へと変貌していた。
勇太は一言も発さず、聖剣をアイズへと向ける。
「……オリ(光よ)。」
呟きと共に、聖剣の鋒から糸のように細い光が放たれ、アイズを貫いた。
「……? 何もなっていないじゃないですか! 取り繕うのはやめなさい!」
アイズは嘲笑おうとしたが、言葉が詰まった。
ボコッ。
音を立てて、アイズの胸に巨大な空洞が穿たれた。
「なっ……!? 再生……再生しない……!? なぜだ!!」
絶大な自己修復能力が、その穴に対してだけは完全に沈黙していた。
「貴様ァァァ!! もういい! 手加減はやめだ! 殺してやる! 殺して、私が英雄になるんだァァ!!」
アイズが消えた。
あまりの高速度に、ジャンヌやカレンの目には残像すら映らない。勇太の周囲を、高速移動による「壁」が包囲し、全方位から不可視の圧力が迫る。
「死ねえええええええっ!!」
アイズが英雄への執念を込めて、勇太をミンチにせんと肉薄したその瞬間。
勇太の唇が、静かに動いた。
「イェシャ・オリ(神ノ光)」
パッ、と世界から音が消えた。
勇太を囲んでいた「壁」が霧散する。それどころか、超越者であったアイズの肉体までもが、風に吹かれた砂塵のように、サラサラと虚空へ溶けて消えていった。
断末魔すら許されぬ、完全なる浄化。
勇太の目が元の色に戻り、聖剣が手から滑り落ちる。
そのまま、勇太は糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。
「勇太様!!」
「勇太!!」
カレンとジャンヌが、勝利の歓喜よりも先に、仲間の無事を祈って駆け寄った。
アイズ城に、ようやく本当の夜明けが訪れようとしていた。




