絶技の火花、輝ける断罪
「こっちだよ! お父さん!」
鬼神と化したマリーの声が、猛吹雪の戦場に響き渡った。向上した身体能力で、彼女は父であった怪物の攻撃を紙一重でかわし、挑発しながら距離を取っていく。
「ウオオオオオオオオオッ!!」
理性を失い、本能だけの獣と化した父親がマリーを追う。マリーは魔力で形成した巨大な戦斧を振るい、積もった雪を豪快に巻き上げた。地吹雪が視界を遮り、魔人形の動きをわずかに鈍らせる。
「行って! お兄ちゃん!」
マリーの叫びに、勇太は無言で力強く頷いた。その足が、狂気の元凶であるアイズへと向かって地を蹴る。
「アイズゥゥゥゥッ!!」
勇太は聖剣を振りかざし、再び光を灯した。渾身の斬撃。だが、アイズは不敵な笑みを崩さず、ただ静かに手を上げた。
瞬間、周囲を固めていた魔人形の一体が、盾となるように勇太の前に立ちはだかった。
ギィィィィィィンッ!
「……っ、な……!?」
聖剣の光が、魔人形の肉体に触れた瞬間、霧が晴れるように吸い込まれて消えていった。剣刃は厚い皮膚をわずかに傷つけただけで止まり、勇太は舌打ちとともに距離を取った。
「無駄ですよ。私の魔人形たちには、悪意など微塵もありませんからね。勇者のスキルはあなたの『正義』に仇なすものに反応する。だから純粋な兵器には通じない。勇者の身体能力といえど、彼らの再生能力の前では無力です」
アイズの冷徹な分析。どうすればこの壁を突破できるのか。勇太が焦燥に駆られたその時、後ろから肩にそっと手が置かれた。
「……勇太、アタイが他の魔人形、全員引き受けるよ」
そこに立っていたのは、満身創痍のジャンヌだった。
「ジャンヌ! 無理だ、そんな体じゃ……。まだ十数体は残ってるんだぞ!」
「ああ、無理だろうな。だけど……少しだけ鈍らせるくらいならいけるかもしれない。考えがあるんだ」
ジャンヌの瞳には、死を覚悟した戦士の光が宿っていた。
その時、遠くからマリーの鋭い声が飛ぶ。
「お兄ちゃん! 鬼人族は自己再生する時、ツノに魔力を集めるの! その瞬間に膨大な魔力でかき消せば、再生を止めて一時的に行動不能にできる! お兄ちゃんの魔力なら、それができるはずだよ!」
ジャンヌの口角が、不敵に上がった。
「……聞いたか、勇太。あんたの魔力量なら、それができる。アタイがあいつら全員、一瞬だけ止めて見せる。……合わせろよ、全力だ!」
勇太には、もはや迷っている時間はなかった。
「……わかった。マリー、ありがとう。……ジャンヌ、頼んだ!」
ジャンヌは笑みを浮かべて勇太を一瞥すると、静かに目を閉じた。
彼女が前へ突き出した手の中に、青白い魔力が収束し、一本の「剣」の形を成していく。
「サンドラ様に憧れて魔剣の練習をしたけど、あいにくアタイには剣に魔力を通す才能がなかった。……でも、魔力そのもので剣を作れば、数秒なら、あの方と同じ力が使える……!いくぞ…!とっておきだッ!!」
ジャンヌの咆哮。手に握られた魔力の剣が、雷のような紫電を激しく放ち始める。
「いくぞ、魔族共ォッ!!」
ジャンヌは、かつてサンドラに教わった居合の型を構えた。そして、限界まで高めた魔力を一気に解き放ち、閃光の如く抜き去った。
――一瞬。
世界が静止した。
吹き荒れていた雪すらも、その動きを止めたかのように勇太の目には映った。
ヒュッ――。
空気を裂く微かな音。次の瞬間、周囲を取り囲んでいた魔人形たちの巨体が、一斉に上下に分かれ、雪原へと崩れ落ちていった。
「……いまだぁっ!!」
ジャンヌの魂の叫び。
「応っ!!」
勇太は天に向かって聖剣を掲げた。聖剣は、勇太の体内に眠る膨大な魔力を吸い上げ、眩いばかりの、太陽のような光を放つ。
「おお……おおお……」
アイズはあまりの眩しさに目を細め、その場に立ち尽くした。
一秒にも満たない強烈なフラッシュ。光が収まった時、倒れた魔人形たちは、先ほどのような再生を見せることなく、ただの肉の塊となって横たわっていた。
「終わりだ! アイズッ!!!」
障害は消えた。勇太は聖剣を構え、狂った英雄気取りの男へと、一直線に特攻を仕掛けた。




