幕間:盤上の観測者
「あはは! 見た? 今の。二人同時に飛び出すとか、出来すぎでしょ! 運命ってやつ?」
純白の無重力空間。
全知全能。完全無欠。天上天下。世界を創造し、破壊を楽しむ退屈な観測者【神】は空中に浮かぶ映像を指差して笑い転げている。その傍らには、漆黒の事務服に身を包み、空中に浮かぶホログラムの書類を淡々と整理する**「事務官」**が立っていた。
「……主様。あまり笑うと、ポップコーンのカスが次元の狭間に詰まります。掃除するのは私なのですが」
事務官は、感情の起伏を一切感じさせない声で、眼鏡のブリッジを押し上げた。
「いいじゃん硬いこと言わずにさあ。見てよ、この二人。片方は命の恩人のために正義を貫きたい純粋くん。もう片方は、その恩人の息子なのに期待から逃げ出したい秀才くん。この二人を『勇者』と『魔王』に配置するなんて、僕って天才だと思わない?」
「配役については、計算上、最大級の『悲劇係数』を叩き出すことが予測されています。事務的には非常に効率の良いエンターテインメント・ソースと言えるでしょう」
事務官は手元の端末を操作し、二人の魂に「設定」を流し込んでいく。
「主様。例の『帰還の予感』のプログラム、実装を完了しました。誰に教わるともなく、『これを成せば帰れる』と本能で信じ込むように調整してあります」
「ありがと! これが大事なんだよね。人間って『自分がそう信じたこと』のためなら、驚くほど残酷になれるから。……ねえ、勇者くんのほう、ステータス全振りしすぎじゃない? 万能スキル盛り盛りだよ」
「はい。彼は『力があるがゆえに孤立する』モデルとして設計しました。逆に魔王側は、初期能力値を『一般市民以下』まで下げてあります。民衆の信仰心が集まらない限り、彼は勇者の指一本にすら触れられません」
「うわ、性格悪いなー。さすが僕の部下!」
「お褒めに預かり光栄です。……ところで主様、人間側の国家に定着させた『魔族絶対悪』の思想ですが、浸透率が100%に達しました。これにより、勇者がどれほど対話を試みようとしても、彼の耳に入るのは『民衆の悲鳴』、口から出るのは『殲滅の号令』となります」
神は満足げに、空中を漂うポップコーンを一つ口で受け止めた。
「最高。勇者くんは家族のために正義を研ぎ澄まし、魔王くんは民のために責任を背負う。そして最後、お互いがお互いの『帰るための障害』になる。……あーあ、早く戦場で再会しないかなぁ。楽しみで寝られないよ」
「主様、神に睡眠の概念はございません。……間もなく、被検体両名、意識を完全覚醒させます。第一フェーズ、開始しますか?」
「もちろん。さあ、始めようか。――僕を楽しませてよ、親友同士くん」




