崩壊する盟約、悲劇の魔人形
勇太たちが城門に出ると、魔族と兵士たちが向き合っていた。
勇太は魔族をみてすぐに察した。
(赤い肌に額の角…。マリーと似た容姿、あれはやはり鬼人族か)
「わしらの家族をどこにやったんだ! お主らとの古い盟約を忘れたか!」
猛吹雪の中、城門の前に集まった鬼人族。その中央で、老齢の魔族が杖を突きながら声を震わせていた。
「何を言っている! 魔族と取引などするわけがないだろう。お前たちとは何度もここで戦っている!」
兵士たちの怒号に対し、老齢の魔族は悲痛に叫び返す。
「それはわしらではない! 食糧を求めて流れ着いた他の魔族だ! わしら鬼人族は人間と争ったことなどない! 今日は仲間を探しに来ただけなのだ!」
「長老……やはり他の部族が言っていた通り、人間は魔族に反旗を翻したのかもしれません。話は通じない……」
隣にいた若い鬼人の言葉に、長老は苦渋の決断を下すように頷いた。
「……ならば、せめて現城主のアイズに会わせてくれ! 危害は加えない、ただ同胞の行方を聞きたいだけなのじゃ!」
だが、アイズ三世に忠誠を誓う兵士たちに、その言葉は届かない。
「アイズ様にだと? 下等な生物が気安く口にするな! 命じられているのは問答無用の撃退だ。覚悟しろ!」
兵士たちが一斉に斬りかかろうとした、その時。
「やめてえええ!!」
小さな影が、両者の間に割って入った。マリーだ。
「マリー! やはりここにおったか! 父親のことはわしらが探す、お主は村へ帰れ!」
「長老……ここに、お父さんがいるの。私、見たもん。でも、お父さん、私のこと忘れちゃったみたい……」
泣きじゃくるマリーの言葉に、長老は絶句した。「やはりか……アイズ、貴様は何を……!」
「――ここにいますよ」
背後から響いた、冷徹で、どこか楽しげな声。
振り返れば、そこには兵士たちを引き連れたアイズ三世が、薄汚い笑みを浮かべて立っていた。
「行きなさい。私の、可愛い『魔人形』よ」
アイズが指を鳴らした瞬間――。
空から、巨大な質量の塊が轟音とともに降ってきた。
「ウオオオオオオオオオオッ!!!」
激しい雪煙。その中から現れたのは、昼間に見たあの異形の魔族だった。
だが、その速度は昼間とは比較にならない。煙が晴れる暇もなく、異形の拳が長老を捉えていた。
「マリー!! 逃げるのじゃ――」
長老の言葉は最後まで続かなかった。鈍い音とともに、彼の体は雪原に沈んだ。
「なっ……!?」
「長老!!」
一瞬にして戦場は静まり返り、次の瞬間には兵士たちも勇太も武器を構え、戦闘態勢に入った。
だが、長老から「逃げろ」と言われたマリーだけは、雪の中に膝をつき、震えたまま動けずにいた。
目の前で長老を惨殺した、血に濡れた異形の怪物。
その怪物を見つめ、マリーは絶望に満ちた声で、弱々しく呟いた。
「……お父……さん……?」
昼間、勇太が斬ろうとして止めたあの魔族。マリーが父だと確信していたその存在は、今やアイズの傀儡となり、自らの同胞をその手で引き裂いたのだ。
勇太は、その光景に激しい吐き気を覚えた。
(……これが『救済』か? これが俺のやるべき『正義』なのか!?)
「アイズ……!! あんた、何をさせたんだ!!」
勇太が叫ぶ中、アイズ三世は満足げに、ひしゃげた肉の塊を見つめていた。その瞳には、人間も魔族も、等しく「実験材料」としか映っていなかった。




