混迷の吹雪、揺らぐ正義
「……ごめん。急に連れてきて。ここなら多分安全だよ」
勇太は自室の扉に鍵をかけ、震える少女――マリーに向き合った。
「俺は勇太。……君は、その、魔族だよね?」
『……うん。私はマリー。鬼人族だよ。……お兄ちゃんは、人間だよね? 人間には話しちゃいけないってお父さんから言われてるんだけど……。お兄ちゃんは、なんか他の人間と違う気がする』
「あ、ありがとう……」
戸惑いながらも、勇太は彼女の目線に合わせて腰を下ろした。
「……マリーちゃん。なんで君みたいな小さな子が、こんな危険な場所に一人でいるんだ?」
『鬼人族の村のみんなが、最近……いなくなっちゃうの。……お父さんも……』
勇太の心臓がどくりと跳ねた。
「……それで、探しに来たのか?」
『うん。長老たちには絶対に行くなって言われてたんだけど、我慢できなくて。……それで、さっき門の前で、お父さんを見つけたの。でも……私を呼ぶ声も聞こえてないみたいだったし、体がお父さんじゃなかったから……怖くて、木の陰で見てたの……』
マリーの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「……だから、俺が斬ろうとした時に止めたんだね」
勇太は、昼間のあの異形の魔族を思い出した。鬼の角、虎の体、鱗……。
「でも、あの魔族は、本当に君のお父さんだったのか?」
『うん……たぶん。顔はお父さんだったし……魔力が、お父さんのものだったから』
勇太は絶句した。
あの時逃げたはずのあの魔族…。マリーの父の魔力が、あの「地下の研究所」のような場所から漂っているという。
なぜ地下から?あんな姿に変えられて、意思も疎通できないバケモノとして戦わされているのだとしたら――。
(……アイズ公、あんた、一体何を……)
その時だった。
城内に、夜の静寂を切り裂くような兵士たちの怒号が響き渡った。
「魔族だ! 魔族が出たぞーーー!!」
マリーが弾かれたように顔を上げた。
『……! 村のみんなが来たんだ!』
マリーは身軽な動作で窓枠に飛び乗った。
『お兄ちゃん、話を聞いてくれてありがとう。長老たちが来たみたい。……人間にも、勇太みたいな優しい人がいて嬉しい。バイバイ!』
「待て、マリー! 外は危ない!」
勇太の制止も聞かず、小さな影は猛吹雪の闇の中へと消えていった。
「勇太様! 勇太様、起きておられますか!?」
直後、荒々しくドアをノックする音が響く。
入ってきたのは、戦闘態勢を整えたジャンヌと、顔を強張らせたカレンだった。
「勇太、さっき誰かと話してなかったか?」
鋭いジャンヌの問いに、勇太は一瞬言い淀んだが、「いや……独り言だよ」とだけ返した。
「それより魔族だ! アイズ城を囲むように、奴らが山から降りてきたわ!」
勇太は二人に促されるまま、武器を手に外へと向かった。
吹き荒れる雪の中、城壁の向こう側に蠢く無数の魔族の影。
(……なんだ、どうなってるんだ、この世界は。……魔族が悪い奴らで、俺たちはそれを倒す側なんじゃないのか?)
聖剣を握る手が、今までにないほど冷たく感じられた。
マリーが言っていた「長老たち」は、仲間の奪還に来たのか、それとも本当に略奪に来たのか。
真実が雪に隠され、見えなくなっていく。
「……クソっ……俺は何を信じればいいんだ!」
勇太は、眩いばかりの光を放つ自分の体を見つめ、初めてその「全能の力」に激しい不信感を抱いた。




