残光の果て、決意の産声
「……殺す。こいつは、今ここで殺しておかないとマズい!」
本能が、ローガンの黄金の肉体に警鐘を鳴らしていた。
目の前のガキが放つ「光」は、理屈を超えている。ローガンは超・金剛強化の全負荷を拳に込め、彰人の眉間に向かって最短距離で突き出した。
だが。
「……あ?」
拳が彰人の顔面に触れる直前、ローガンの指先から「サラサラ」と砂が溢れるように、その屈強な肉体が崩れ始めた。
「聖なる光」に触れた黄金の鎧は、浄化されるように霧散し、彼の本体さえも内側から光に焼かれていく。
「待て、俺は……俺はまだ、こんなところで……!」
断末魔の叫びも虚しく、王国最強と謳われた傭兵の姿は、彰人の目の前で一筋の塵となって夜風に消えた。
同時に、限界を超えていた彰人の意識も急激に遠のき、彼はその場に崩れ落ちた。
「……おうさま! おうさま!!」
耳を劈くような、聞き慣れた少女の叫び声。
彰人が次に目を開けた時、視界に入ってきたのは、洞窟の天井ではなく、木材と毛皮で作られた素朴な部屋だった。
「……ここは?」
「……レジスタンスの隠れ家。よかった、本当に……よかった」
傍らでは、魔力封じの枷を解かれたウルティマが、その淡い青の瞳を潤ませて彰人の手を握っていた。その奥では、全身を包帯で巻いたモスが、杖を突きながら深く頭を下げた。
「魔王様、お目覚めですか。……あの後、残ったレジスタンスの仲間が駆けつけ、皆様を救出しました。ローガンが消滅したのを見た傭兵どもは、蜘蛛の子を散らすように里から逃げ出していきましたよ」
里は半壊し、犠牲者も出た。しかし、生き残ったオークたちは彰人を「真の王」として崇め、里を再建しようと活気を取り戻していた。
【信仰値:0 → 1200】
彰人は視界に踊る数字を眺め、複雑な思いに駆られた。
あの「光」が何だったのか、ローガンがなぜ消えたのか。自分には何もわからない。
ただ一つ、痛いほど理解したことがある。
(……俺に、力以外の、本当の力がもっとあれば。……あいつと、対等に殴り合えるだけの何かがあれば。……もっと違う結末があったはずだ)
相手に「対話」をさせるためには、相手を黙らせるだけの強さが要る。
彰人はベッドから這い出すと、まだ傷の癒えぬモスに向き直った。
「……モス。あんたに頼みがある。……俺に、格闘の稽古をつけてくれないか」
「魔王様? あなた様には強力な魔法があるというのに……」
「魔法は、俺の力じゃない。……俺自身の足で立って、俺自身の手で守れるようになりたいんだ。頼む、師匠」
モスは驚きに目を見開いたが、彰人の瞳に宿った静かな、けれど熱い決意の色を見て、快く頷いた。
「……承知いたしました。魔術以外のことでしたら、このモス、骨の髄まで叩き込みましょう」




