第十七節 記念館
7月――、
主人公は、高校2年目の夏休みを迎えていた。外ではジリジリと陽炎がアスファルトを燃やし、ミンミンと蝉が暑さにうだっている。主人公は冷房の効いた部屋で、ゴロンとベッドに横になっていた。
「暑い日が続くな――、夏休み。来年には大学受験でゆっくりできないんだろうな……。それはそうと!」
携帯に手をやる。にやぁと頬が緩んだ。
「尾坦子さん、デートできる日が増えるって嬉しがってたなー。『海行こう』ってメッセージもきたし……尾坦子さんと、海……!?」
主人公は、尾坦子の普段着を想像していた。いつも明るめの色を基調とした全身に、上から下まで目線が進む。そして、ふっくらと膨らんだ二つの峰の柔らかな窪みに目が落ちていく。
「!!!! 普段でも、破壊力抜群のプロモーションなのに! 海って言ったら、尾坦子さんの!! 水着!!?」
主人公は鼻血を吹き出しながら大声を上げる。
すると――、
「ツトムぅー? 二階で何騒いでんのー、近所迷惑よー?」
母が一階から注意してきた。
「あーっ! ごめんなさーい! 静かにしまーす!!」
一旦冷静になる、主人公だった。
――、
「それにしても、夏かぁ……3年前の夏休みから、狩人の隊員になって、戦いに臨むようになったんだよなぁ……」
「ピリリリリ! ピリリリリ!」
「!」
ここで、受信音が鳴り響く。
「誰だろう? 尾坦子さんかな……? ! あっ」
電話主は逃隠だった。
「もしもし! サケル君?」
「ツトムか? 最後に電話で話してから、1年以上経つんだい! こっちはダッヂ2号と仲良くやっているんだい!」
「ダッヂ2号!?」
「愛犬だい!」
「……」
「だい!」
「……な、何の用事で電話かけてきたの?」
「夏休みだし、暇してるんだい? ちょっと顔を貸すんだい!」
「えっ!? どこで?」
「今は夏休みだい! 勿論……」
――、
銀色に輝く、特殊な金属性の壁――、バリケードの中で佇むその建物は、主人公と逃隠を堅苦しくも歓迎しているようだった。
「あっ! 隊長!」
「身体隊長だい!」
建物の入り口には、身体が二人を待っていた。
「二人とも、よく来てくれた!」
――、
「離職してから、入館証のカードキーを返納しているからな。二人だけでは中に入れないだろう?」
狩人ラボ内を、三人は歩く。忙しなく小走りに進む、すれ違う研究員達は、身体に『お勤めご苦労様です』と挨拶をして去っていく。
「隊長、それにサケル君……これからどこに……?」
主人公は率直な疑問を口にするが、身体、逃隠の二人は思わせ振りな態度をとり、素直に答えは言わなかった。
「フ……」
「だい……」
「?」
「ツトム、会わせたいお方が居るんだ」
「会わせたいって……?」
身体の言葉に、主人公は更なるはてなマークが頭に浮かぶ。
「ツトム、爆破隊長に会うんだい!」
「えっ、スマシさんに……!? まさか……」
逃隠が言い放つ頃に、三人が足を止めた。目の前の扉が重く、ゆっくりと開く。
「ここは……!?」
主人公の目にまず映ってきたのは、特大の、爆破スマシの遺影の様なバストアップ写真だった。
「はっ!!!?」
次に目に映ったのは、爆破の過去に身に着けていた、胸章や部隊章や手袋等、狩人に関する遺品がショーケースに入れられている様。
「!!」
おまけに、『爆破初代隊長の生涯と軌跡』と書かれた、年表まで飾ってあった。
「『爆破スマシ記念館』が出来上がってる――――!!!?」
主人公は、ショックのあまり頭を抱えて大声で天に向かって叫んだ。
「そうだ、ツトム。前隊長の事を偲んで、俺が建てた」
(呼び名もそれで良いんだ……)
そっと返す身体に、心の中で軽くツッコミを入れる主人公だった。
ここで逃隠が鼻を擦りながら、少し得意気に語り掛けてきた。
「驚いたカ、ツトム……オイラは1ヶ月前に驚いたんだい……」
「そーなの……。でも身体隊長。どうして爆破隊長が亡くなって2年経った、こんなタイミングで?」
「……」
身体が少し間を上げた後、沈黙を破るように、低く語った。
「お前達二人が、大人になったからだ。2人には、一度ちゃんと向き合って欲しかったんだ」
「!」
「だい……」
「あんな事があった……しかも中学3年生という年端もいかない年齢で……当時から直ぐにこんなことをされても、お前達は納得しないんじゃないかと思ってな」
「あ……はい」
「だい」
「しかしお前達も来年には大学受験を控える程大きくなった。その分、強くもなっているんじゃないかと踏んでいて、な――」
「身体隊長……!」
「オイラは家業を継ぎまス!」
「二人共、爆破隊長の言葉を少し借りると、あの方を失った悲しみが少しだけ紛れた後に、楽しかった思い出を思い出して、笑顔でここにまた足を運んで欲しい。……近くの者は居るか? そうだ、アレを……」
急に無線機で身体が何か話し出した。かと思えば、入り口が開き、狩人隊員が何か手に持ち現れた。
「ツトム、サケル……添えてあげてくれ」
「受験シーズンでも、来年も来ますよ……」
「だい!」
二人は献花台に白百合を供え、深く頭を下げた。
「……来年も、きっと来ます」
それは約束というより、自然に零れた言葉だった。
狩人隊員は何も言わず、ただ一歩退く。
代わりに、展示室の奥で古い無線機が、かすかに軋む音を立てた。
誰も触れていない。
それでも、一瞬だけ――
返答があったような気がした。




