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回避とサイコとツトム外伝  作者: 時田総司(いぶさん)
後日談

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第十六節 座学


「『他者と他者の共生は無理』という意見があります」



 急に現実を突き付けられた様で、シンと、静まり返る教室。


 主人公のクラス――、


 今日は座学がおこなわれている様だ。教壇に立つ、丸メガネの頭髪が薄い教員が、生徒の様子を数秒確認する様に間をおいて、続きを話し出す。


「2年前、飼っていたフクロウが猫に襲われて死にました。そこで、次から飼うフクロウは、放し飼いからケースに入れて飼うことにしました。この様に、『環境を整えるコトで、生きていき易くする』この生活環境コースや環境学部全体でも学んできたことですね。これが人間だけではなく、動物達にも当てはまります」


 その言葉を聴き、教室内はホッと胸をなでおろす生徒達で溢れていた。教員は続ける。


「しかし、前飼っていたフクロウのコトを痛み、それについて学年会の後に話してみました。すると、同僚たちはこう返して来たのです」



(回想)


「野犬や狼が他生物を食べる」

「そうそう、可愛そうだとは思いませんか?」


 他教員が弱肉強食の自然界を憂いていたが、話し手の教員は表情一つ変えず、淡々と言い放った。



「よっぽど共生できている。何故なら彼らは同族の他殺をしない」



「……!」

「なっ……!?」


 他教員達はその言葉で顔色が変わった。


「何を酷い事を言っているのか!?」

「そうだ! 野生生物を守る気はないのか!?」


 それでも教員はスッと只右手を上げて淡々と続ける。


「現実として、私達も牛肉や豚肉、鶏肉に魚を食べている。命あるものを糧として生きている以上は、そこを非難するべきじゃない。問題は、我々が、意味のない同族の他殺をすることだ」


「……」

「あ……」


 室内は、数秒前とは打って変わって静まり返っていた。そこで、それまで表情一つ変えなかった教員は、少し寂しそうに笑い、一言添えた。


「それでも、フクロウが死んだのは悲しいのですけどね」


「……」


(回想終了)



「と、まあこんな感じに……」



「センセー、何で、『共生できている』って言ったのですかー?」



 巨房が持ち前の積極性を出し、手を上げた。


「良い質問ですね。知っている生徒さんも居ると思いますが、前提として2つのコトが挙げられます。


 1つ、捕食者は獲物を必要以上に殺さない。


 2つ、獲物が減れば、捕食者自身が生きられない。


 その結果として、個体数は均衡点に戻る。捕食者も獲物も絶滅しない世界となります」


「おおー!」

「自然界ってスゲー!」


 教室内は目新しい知識を得た生徒達で盛り上がりを見せていた。


「それでも、死んでいく者はいるんですがね。それが前、飼っていたフクロウだったため、寂しい気はします」


「……!」

「! ――」


 教員はぼそりと漏らしたため、教室内は再び勢いをなくした。主人公も思うコトがあるようで――、


(大きな循環の中で生きていると、理解しようとしても、身近な死には割り切ることはできない……先生は、どうしてこんな話を? どう着地させるんだ……?)



「さて、話題を少し変えます。SNSで、秩父に旅行に行った人の書き込みを目にしたのですが、自然を満喫しに行く予定だったそうですよ。そして書いていました。『自然の声を聴きに来たのに、不気味な鳴き声ばかりだ』とね。そんなに良い音色が聞きたいなら、京都の鐘の音でも聞いとくれってね」


「あっはっははは!」


「勝手だなー」


「そうなんです。人は、本来勝手なのです。自分勝手で、他者を傷付けるか、否定してしまう存在なのです。私は、『他者と他者の共生は無理』という一文を本で目にし落胆し、失意の底に居ました。我々が、意味のない同族の他殺をする。自然界ですら、他者の命を奪って共生している。思いやって、死を伴わない共生の方法は無いのでしょうか……?」


 教室内はシンと静まり返った。誰もが答えを見いだせないでいた。


「庭で座り込み、頭を抱えていたら、愛犬のラブラドールが野花を持って来てくれました。愛犬は野花を利益のために持ってきたのではなく、ただ私を慰めようとしてくれた。その時は、頬が緩みましたよ。

 何か、新しい世界で、人間や動物、植物や自然界が共生して行ける方法が、見えた気がしました。皆さんも、それについて考えてみてください。私からの話は以上です」


 段々と木霊した手を叩く音は教室いっぱいに広がっていた。

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