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回避とサイコとツトム外伝  作者: 時田総司(いぶさん)
後日談

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第十四節 手と手


「あっ! あっ――――!!!!」



「あっはは! 面白い。女の子と二人で歩いてたから、ちょっといぢわるしちゃった」


 尾坦子はお腹を抱えてケタケタと上機嫌になっている。

 フーと一息入れて、彼女はそこから問い質して来る。


「ツトム君。コレ、誰にあげるの?」


「あっ、えっと……母さんに……」


「私のは無いんだ?」


「はあぁぁっ(恐)!!」


「最近、デートの回数減ってきたよね?」


「はあぁぁっ(恐)!!」


「さっきの娘、本当に浮気じゃないの?」


「はあぁぁっ(恐)!!」


「……?」


「……とりあえず、スイマセン……」



 ――、


「前話した通り、家庭クラブっていうのに入ってて、そこで自分の周りの人を大切にしようってスローガンで部活やってるんだ」


「へぇー。聴きたい」


 河川敷に座る二人――、その空間は時折吹く風の様にゆっくりと時間が流れているようだった。


「環境学部っていうから、自然環境保護を主に学習していくって思ってたけど、入ってみれば人の生活もしっかり考えなきゃいけないって、当たり前のことを学ぶ日々です」


「人だもんね」


 身を乗り出して相槌を打つ尾坦子の言葉に、主人公はかつての彼女の影が、現在の姿に重なって見えた。


(尾坦子さん……、ゾムビーから人間に、元の姿に戻れて本当に良かった!!)


「? どうしたの、ツトム君?」


「何でもないよ」


 主人公は全ては語らなかったが、尾坦子を安心させるように優しく微笑んだ。そして顔を向け、目と目を合わせてから話の続きを始める。


「『地球環境をどうにかしよう』って言っても、そんなの大きすぎる問題だから良く分かんないじゃん」


「うんうん」


「だからまずは、身近な地域の環境から。ごみの分別をする、だとか。ポイ捨てしない、だとか」


「そうだねぇ」


「それが、そういう小さな一歩が、地球環境保護という大きな大きな課題解決に繋がるんじゃないかってこと!」


「なるほど!」


「人との関係も同じでさ」


「んー?」


「人々が身近な人を大切にできれば、やさしさの輪が広がって、世界平和に繋がるんじゃないかって……思ってるんだ」


「おお!」


「多分……だけどね。多分、先生達が言ってることを大袈裟に捉えればそういうコトだと思う」


 少し頬を赤らめて下を向く主人公だった。その姿を恥ずかし気もなく誇りに思う尾坦子は立ち上がり、声のトーンを上げて彼に投げかける。


「素晴らしい! 流石ツトム君!!」


「ははっ。そんな……」




「人の生活と環境」




「?」


 主人公の返答を少し遮るかのように尾坦子は続けて言う。


「当たり前の様で、当たり前じゃないよ。この二つの大きな要素。この当たり前を、君が! 主人公ツトム君がくれたんだ。私にくれたんだ!」


「尾坦子さん……!」


「それと、あの日のコト忘れないよ」


「あっ……」



(回想)


 主人公はガラス張りの檻から尾坦子を助け出すべく、手を差し伸べる。対して尾坦子は取り乱したように言う。


「……どうして? 私は化け物で、実験台にしか役に立てないのよ。それなのに……」


「そんなことない。さあ」


 主人公に迷いは無かった。


「どうして? 抱き合う事さえ、手と手を触れる事さえできないのに、何でそこまで構ってくれるの?」




「あなたのコトが大切だから」




「!」




 尾坦子に対して、主人公が言い放った言葉は胸に深く突き刺さった。主人公は続ける。


「それに、こうすると……」


 あの日つくった手袋を、主人公は手にはめていた。


「ほら、手をつなぐことができる」


 二人の手と手は一切れの布越しではあるが、確かに触れ合った。


「! …………」


 尾坦子の目に、涙が溢れた。しょうがないなと言わんばかりに、主人公は少し溜め息をついてから言う。


「さあ、行こう」


 二人は歩き出した。


「ツトム君、手袋だって、いつか……溶けちゃうんじゃ?」


 泣くのを必死でこらえながら尾坦子は言う。主人公は答える。


「なら、その時まで」


(回想終了)



「あの日、手を繋いでくれた感触、投げ掛けてくれた言葉、その時感じたキモチは、ずっと忘れないよ」


 今度は、尾坦子から手が差し伸べられていた。主人公も立ち上がり――、



 手と手がギュッと握られていた。




『ありがとう』




 主人公は目いっぱいに光る雫を浮かべて――、

 尾坦子はしっかりと目を見つめて――、


 声を揃えて言った。



 少し遠くの方で――。


「ワタシより一回りくらい、年食ってるクセに!!」


 一級河川の看板の影から、巨房がそっと二人を睨んでいた。

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