第十三節 初対面
「お疲れ様でーす!」
空一面に広がる橙が瞳に染みる頃――、主人公と巨房は時を同じくして放課後、〇×高校の校舎から下校することとなる。と、言うよりはたまたま同じ部の部活動が終わったために同じ時刻に学校の敷地内から出ていくだけであった。
「いやぁー、“たまたま”主人公隊員と一緒の家庭クラブが終わって、“たまたま”一緒の時間に下校出来て嬉しい限りですなー」
「ミノリちゃん……ホントに、たまたま? それにもう狩人は離職したから隊員じゃないって何度言えば……」
いつものあっけらかんとした様子で話す巨房にたじろぐ主人公は、下駄箱の靴を取り出そうとしている彼女に懐疑の念が多く付き纏い、腑に落ちない様子だった。
「それにしても!」
「?」
巨房が急に切り出してきたため、主人公は虚を突かれ、キョトンとする。
「部活の課題の家族へのプレゼント、何作ってたの? 私はポケットティッシュケース作りに集中してたから、主人公隊員の分、見れなかったなー」
「ああ、それなら……」
主人公はゴソゴソと、右ポケットから家族へのプレゼントなるものを取り出した。
「これ! お守り」
「わぁー!!」
主人公の右手から差し出されたのは、深い緑色の地に白いマークと黒い字が『御守』と縫いつけられた手製のお守りだった。
「すごーい、なんのお守りー?」
「とりあえず、家内安全……かな?」
「さっすが、主人公隊員! 家庭的ー」
「はは……」
「ツトム君……?」
「!」
「!?」
主人公を呼んだ声のする方へ、彼と巨房は顔を向けた。二人は丁度校門を出ようとするところだった。普段は誰かに話し掛けられるハズの無い、そんな場所で彼を待っていたのは、主人公の本当の彼女だった。
「尾坦子さん……」
「来ちゃった……。ああ、今日は休みなの。有給余ってるから取れって言われてて……」
「あっ……嬉しいよ。わざわざ来てくれて……」
「……(疑)」
「……(怒)」
「えっ?」
主人公を挟んで、尾坦子と巨房の睨み合いが始まった!!
「はっ!!(そう言えばこの二人が面と向かって対面するの、今日が初めてだったー!!)」
「……ツトム君。この娘、誰?」
「あなたこそ、誰ですか?」
その睨み合いは、熾烈さを増し目線の先で火花がバチバチと飛び、交い互いに一瞬でも隙を見せればその火花が他方の眼球を襲う勢いだった。
「む……」
「ムム……」
この張り詰めた空気に、その場に立っていることさえ耐え切れず限界を迎えた主人公は、テンパりながらも誤解を解こうと必死に他己紹介した。
「この子は、巨房ミノリちゃん、同級生で一緒の部活動を終えたところです! で、ミノリちゃん、この人は尾坦子さん! 僕の……」
「んー?」
巨房はジト目になって主人公を見つめている。明らかに不信感を持って、そして不満も表情に表して――。
「僕の……!」
「んー?」
しどろもどろな主人公の、喉から出そうで出てこない次の言葉を巨房は待ちに待っていた。
「たっ!! 大切な人です!!!!」
「わっ」
主人公は右手で尾坦子の左手を握り、ぴゅーっと走り出してしまった。
「あーっ! 待てー(怒)!!」
巨房もその後を追っていった。
――、
先程よりもっと夕日を拝める、見渡しの良い河川敷に主人公は尾坦子を引っ張ってきていた。
「こっ……ここまで来れば……ハッ……ハッ……」
「ハッ……ツトム……君……ハッ……走るの……速くなってない……?」
二人は全力で走ってきた所為か、肩で息をし疲れを隠せないでいた。不意に言われた言葉に、主人公は当たり障りのない返事をする。
「ハッ……うん……健康維持に……ハッ……ちょっと走ってて……ハッ……」
「ハッ……ちょっとぉー……ハッ……こっちは……ハッ……もうすぐアラサーになるぐらいなのに……ハッ……フー……本気出し過ぎ!!」
「あはは……は……」
二人は、暫く見つめ合った。未だに主人公の右手と尾坦子の左手は握られたままだった。互いの手先は運動後であるため熱を帯びており、すぐにでもシャワーを浴びたくなる様なほど汗ばんでいた。
「……手」
「……はっ!! ゴメン!」
思いがけず主人公はパっと慌てて手を離した。気まずい沈黙が二人のあいだに挟まって、余計に距離を意識させた。そっとほどかれた指先が、どこか寂しげだった。繋いでいたぬくもりが失われたことに、どちらもすぐには気づかないふりをした。
「ツトム君……何か持ってたね」
「!」
主人公は右手を確認する。
(回想)
「家族へのプレゼント、何作ってたの? 私はポケットティッシュケース作りに集中してたから、主人公隊員の分、見れなかったなー」
「ああ、それなら……」
主人公はゴソゴソと、右ポケットから家族へのプレゼントなるものを取り出した。
(回想終了)
あの時手にしていたハズのものが……無い。主人公は血の気が引き、息が止まり、時間が一瞬止まった感覚に陥った。
「あっ……(あれ……母さんに贈るハズだったのに……どうしよう……?)」
「じゃーん! コレ、なぁーんだ?」
顔色が変わった主人公をニタっと笑いながら眺める尾坦子は正に小悪魔の様に見えていた。左手には、主人公からくすねた深緑の錦織をチラつかせていた。




