ゲリラ戦
ここからが本番。2対同時に相手どらなければならない。シンヤとマキナのチーム。それぞれが1体倒したあとで、双方に1体ずつ分かれてくる。多対1の状況を作り続けることが理想系だった。
だがそう計画通りに運ぶはずもない。
コード02からコード05までの4体はそれぞれ視覚を共有しており、分体の得た情報を元に戦略を組み立てる。
風魔法。転送魔法。そして致命傷を与えることが出来るのは一人だけ。
これらの情報から、彼女たちに組み込まれたプログラムが導き出した戦略。それは、二手に分かれゲリラ戦を展開することだった。刹那、二体が別方向へと走り出す。
バキッ!バキッ!
壁を蹴破る音。扉をむしり取る音。聞いたこともないような異音が街中に響き渡る。遮蔽物に潜伏し、隙をついて攻撃する、ゲリラ戦の構え。
戦闘経験の無いシンヤ。実践経験が浅いメクル。司令塔は必然的に、レオンとフウライの二人になった。
家に隠れるという想定外の行動をした討伐対象たち。それに動揺したメクルが、レオンに指示を仰ぐ。
「どうする!?家ごと吹き飛ばす?」
「いや、こちらからは攻めない。膠着状態になるならむしろありがたい。マキナたちが加勢にくるまで時間を潰す——」
レオンが話を中断したのは、遠方に、何かを持った討伐対象を見たから。
それはまるで、子どもがフリスビーを投げるような構え方。唯一違うのは、彼女が片手で支えているそれが、直径1mを超える円形の物体だったこと。
パチンッ!
指がなる音を聞いた瞬間、
『伏せろ!!』
という命令がシンヤの脳内を支配した。
危機を感じとり頭を下げた刹那。彼の頭上を通過したのは時速200kmで投擲された時計。コンマ数秒でも伏せるのが遅れていたら、彼は戦闘不能な状況に追い込まれていただろう。
ガキンッ!
投擲されたそれが後方の柱に当たり鈍い音を立てる。その音で我に帰ったシンヤが再び前方に目をやるも、既にその投擲主の姿は消えていた。
メクルの視界に入らないよう、常に隠れ、動き回りながらの遠距離攻撃。
「学習してるな。遠距離からの投擲を続けるつもりだぞ」
「問題ない。投擲物は俺の風で弾く。レオンは俺のカバーに。メクルは敵の位置補足に注力。視界に入れ次第、シンヤを奴の元に転送しろ。シンヤはそれに備えて、剣を振ることだけを考えて——」
『Priusquam te! formarem in utero!』
フウライの言葉が大音量の音楽によって遮られる。
恐らくは蓄音機から流される、録音された聖歌。それが敵の足音を掻き消す。
その上、
ドゴォォォン!!!
家屋の中から聞こえてる爆発音。それが響くと同時に、壮大な火柱が登る。
この街の家屋。そのほとんどが乾燥地帯に見られるレンガ造りの家。素材自体は燃え広がりにくいが、問題は街の密度。この街は王国建立後、急速に発展した街。そのため、家屋は隙間なく密集した状態で
ギチギチに敷き詰められ建てられている。
登った火柱が、あっという間に辺り一面に延焼を始める。
『novi te: et antequam exires de ventre!sanctificavi te!』
爆音で鳴り響く聖歌。周囲一体の延焼。敵の一連の妨害工作により、戦闘経験の無いシンヤだけでなく、メクルまでもがパニックに陥り始める。
「どうすんの!?今の内に建物を吹き飛ばしちゃった方が良いんじゃない!?」
「まだ焦るな!今出力の高い魔法を使うのはリスクが——」
ブンッ!
話しの途中、フウライの真上に投げられたのは重さにして100kgは下らないであろうグランドピアノ。
「クソッ!」
ゴオオオオ!
寸手のところで、何とか風で軌道を逸らすことには成功する。だが、この絶望的な状況が改善された訳ではない。
『Multi igitur sancti fuerunt !et mundi ab omni peccato! Hieremias autem et de uentre sanctificatus !est et Iohannes adhuc in utero !portatus exultauit in laetitia in uoce dei genetricis Mariae!』
ますます音を大きくする聖歌。ますます勢いを増し続ける炎。死角から容赦なく放たれる投擲物。完全にペースを掻き乱されている。
(なんとか•••俺がなんとかしないと•••)
外界から来た異物が、常識に縛られない突飛なアイディアを出して問題を解決する。ある種創作物のテンプレート的な展開。
『俺なら何か思いつくはず』
その可能性に縛られ、脳をフルに稼働させ打開策を思案し始める。
だがそれは、結論から言えば悪手であった。
彼がその思考に集中し注意が散漫になった瞬間。彼女はそれを見逃さなかった。
ドガンッ!!
マカロニウェスタンのワンシーンが如く酒場の扉を勢いよく蹴破り、コード03がシンヤに接近する。
問題は、彼がそれに気づけなかったこと。
聖歌によって掻き消された足音。
そして、代償として失った左目の視力。それによって生まれた死角。
左脇腹を狙い放たれた正拳を、彼は捉えることが出来なかった。




