おせっかい
「全会一致だね。ようこそ私たちのパーティーに」
マキナの口から出てきた衝撃のカミングアウト。他にも転生者がいるという驚愕の事実。その余韻に浸る間もなく、すぐに全員が狩りから戻ってきた。そこからは、マキナの言葉を信じてパーティーに入れるか否かの話し合いが始まった。
転生者だという博士のことについて、もう少し具体的に知りたかったが仕方がない。話し合いの最中、彼女は「博士」のことのついて一度も触れなかった。博士を殺したという事実がマイナスイメージに繋がることを恐れたのだろう。だとしたら、何故俺にだけそれを話したのかが気になるが•••
その後、マキナを信じてパーティーに迎い入れるという結論に達し、具体的な討伐案を練ることになった。
「私の複製体、コード02から05までの4体。彼女たちは今、全員この街に集まっています」
彼女が指差した場所は王国でも屈指の大都市、エルドラ領。繁華街での大規模な討伐戦になる。それに加えて敵が4体という耳を疑いたくなる追加情報。しかしそれに怯むことなく、レオンは冷静に策を練る。
「4体をいっぺんに相手取る必要はないな。6人がかりで一体ずつ順に潰していくほうが確実だ。
「いえ、それでは問題があります」
彼女が指摘した問題。それは任務の難易度を何倍にも引き上げる、予想以上に大きなものだった。
「戦闘において複製体にプログラムされているルールが二つあります。
①コード2~4のいずれかが戦闘状態に突入した場合、残りの複製体が即座に現場に急行し加勢する
②コード2~4の内3体に行動障害が起こり最後の一体になった場合、一切の戦闘を停止。その後は「研究所の生態保管室」に急行し、自身の状態保護に努める
①のルールにより、最初の一体は奇襲できたとしても残り3体がすぐに駆けつけてきます。故に多対1戦闘の形式を取り続けることは難しいでしょう。ですが、真に厄介なのは②のルールです」
「何か問題なのか?最後の一体になった時点で研究所に引きこもってくれるなら楽だと思うんだが」
「普通ならそう考えるのが正しいです。ですが博士の死から5年が経ち、研究所の生態保管室は完全に機能を停止しています。故に奴らがどんな挙動を起こすのか全く想像がつきません。逃走せず戦闘を続けるのか、壊れた保管室に逃げ込むのか。最悪なのは『バグ』を引き起こすこと。お察しの通り、私は皆さんの知る魔法の他に、高度な工学技術が加えられています。この二つが合わさった時どうなるか私にも分からない。最悪の場合動力炉の魔力変換システムが暴発し、辺り一体を巻き込む大爆発を起こす恐れも•••」
「なるほど。出来るだけ時間差なく、最後の2体を同時に壊さないとってことか」
現状複製体に有効打を与えることができるのは、同じ素材で出来たマキナと~無敵の剣豪~を持つ俺の2人だけ。よってマキナとカルネ。俺、メクル、フウライ、レオンの2組に別れることになった。
討伐の上限人数に抵触しないか気掛かりだったが、ゴーレムは人としてカウントされず、「ゴーレム甲種取り扱い」の資格がある人間立ち会いの元なら問題ないらしい。(もっともゴーレムのほとんどは自力で動くすることすら出来ない土塊であり、彼女の様な存在は想定外のはずだが。)
今回はレオンがその資格を有していたおかげで、無事合法的に6人パーティーを組むことが出来た。
作戦の理想的な展望はこう。
現在、コード3とコード4は街の中央付近。コード2とコード5は中央公社を軸とした対極の位置を徘徊している。俺たちの班がコード2。マキナたちの班がコード5を担当。狼煙を上げた後、コード2とコード5を同時に奇襲し撃破。
倒し終わった後、戦闘を察知したコード3とコード4がそれぞれの班にどちらか一体ずつくればベスト。常に多対1の戦況を保つことができる。
有効打を与えることができるのは俺とマキナの2人だけ。それぞれの班に一人しかトドメをさせる人間がいない都合上、2体以上を同時に相手取ることは厳しい。この作戦はあくまで理想。失敗が前提の希望的観測をふんだんに交えた取り急ぎの策。だがこれが失敗すれば、討伐は絶望的。
エルドラ領
作戦決行6時間前
「これが最後だけど、何か聞きたいことはあるか?」
分隊前、最後となる集まり。これからは私語厳禁。生き死にをかけた戦いに突入する。作戦は既に確認済み。そんな中聞きたいことがあるとすれば•••
「何でフウライはこの任務に参加したんだ?報酬だけならもっと良い任務があっただろ?」
フウライは悩む素振りすら見せずに即答する。
「そりゃあ楽しそうだからに決まってるだろ。誰も目撃したことのない史上最強のゴーレム討伐。こんな仕事滅多にお目にかかれないからな。そういうお前はどうしてこの任務を?」
「俺は•••」
正直な話、「成り行き」としか言いようがない。
テリアに頼まれて、断れなくて、まあ他にしたい事もないし、良い所見せれば好きになってくれるかもしれないし、取り敢えず協力しとこうって。だけど強いて、理由を一つ挙げるとすれば•••
「テリアが困ってたからかな。だから助けてあげたくなって」
「•••そうか。いい奴だな。後でレオンにも伝えておくよ」
そう言い残し、彼はレオンの元へと向かった。どうしてこの話しの流れで、テリアではなくレオンに伝えようとしたのかは分からないし少し気になる。だけど今は目の前の任務に集中しよう。そう思っていると
「最後だけど、何か確認することはある?」
マキナがいつも通り、貼り付けたような笑みで俺に聞いてくる。ここからは完全な別行動。次会ったときには死んでいるかもしれない。何か言うなら、このタイミングしかない。
本当は一つだけある。絶対に言わなきゃいけないことが。初めて会った時から感じていた違和感。それを確認しなきゃいけない。それなのに、俺の口から出てきた言葉は——
「ああ。特にないよ。大丈夫だ」
「そう。ならよかった。じゃあ私も持ち場に——」
「いや、嘘だ。ある。一つだけ言っておきたいことが•••」
寸手のところで考えを変える。ダメだ。これだけは言っておかないと。将来、絶対に後悔する。
余計なおせっかいかもしれない。もしかしたら彼女を傷つけてしまうかもしれない。だけど、彼女の無理矢理に作ったようなその笑顔を見ていると、これだけは言わなきゃダメな気がした。
「その••死ぬなよ。絶対に」
マキナは一瞬キョトンとした顔をした後、笑顔で、大きな声で答える。
「心配頂かなくも大丈夫ですよ!私こう見えても強いので、そんな簡単に殺されたり——」
「違う。この任務が成功した後の話だ。自分から命を投げ出すようなことはしないと約束してくれ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の顔つきが明らかに変わった。これまでずっと、まるで答えを予め用意していたかの様に早く鋭い返答を繰り返していた彼女が、初めて口を籠らせる。
「•••どうして」
「•••どうして分かったの?」
彼女の顔から笑みが消える。ずっと作られたような、パターン的な喜怒哀楽の顔しかしなかった彼女の表情筋が、初めて絶妙な変化を覗かせた。
「俺の身内にも一人いたんだ。だから、なんとなくそう思っただけ。博士を殺して、複製体を野に放って、それで罪悪感を抱えてるんじゃないかって。•••博士を殺したのも何か理由があるんだろ?だから、これ以上は詮索しないし、誰にも話さないでおくから安心してくれ」
彼女は神妙な顔つきのまま、問いを重ねる。
「•••私に心ってあると思う?」
それは、1週間前までただの何処にでもいるような大学生だった自分にとってあまりにも重すぎる質問。正直言って専門的なことは何も分からない。恐らく彼女は、俗に言う人工知能。魔法と現代のテクノロジーが融合した稀有な存在。AIの知識なんて映画で見たことしか知らないし、魔法のことも、ゴーレムのことも何も分からない。だけど
「責任を感じれるってことは、心がある証明だと俺は思う」
彼女を否定することは間違っていると、心の中の何かがそう叫んでいた。この返答が論理的観点から、哲学的観点から見て、正しいのか間違っているのかは分からない。だけど少なくとも、その言葉を聞いた彼女は
「ありがとう。君は優しいね」
そう呟きながら、乾いた瞼を親指でなぞった。




