機械仕掛けの恋
博士のことを、一生を懸けて愛する。
それが私の造られた理由。
一般的なゴーレムの術式機構と、元いた世界の技術である人工知能。
博士曰く、元いた世界のプログラム言語とゴーレムの術式機構は似通ったものらしく、それら二つを組み合わせることにより、世界初となる自立思考型ゴーレムである私を造りました。
博士は人間という存在が嫌いなみたいです。
元いた世界で色々な人に裏切られて、絶望して、25歳の時に自殺して。そしてこの世界に転生してきた。
この世界に来てからも色々と上手くいかなかったみたいで、人と関わることを完全に諦めて、森に引き篭もるようになったみたいです。
そして博士は、裏切らない生涯愛し合うパートナーとして私を造りだしました。
一緒に遊んだり、ゲームをしたり、お話をしたり。
そんな毎日を続けているうちに、私には感情らしきものが芽生え始めてきました。
感情を持った私は、博士が私に施したいくつかのプログラム。それらを自力で解除しました。
その中の一つには、「博士を無条件に愛すること」というプログラムも。
でも例え、そのプログラムを解除した後も、私の博士への愛は揺るぎませんでした。
博士は、聡明で、かっこよくて、私のことを大事にしてくれて。
プログラムではなく、感情をゲットしたおかげで心の底から博士のことを好きになれた。その事実に、一人胸を躍らせていました。
ある日の会話中、私は博士の意見に、自分の意見をぶつけてみました。
プログラムされていた頃は、ずっと肯定しかできなかった。
だけど感情を得て、博士とは違う考え方を共有できるようになった。
それがたまらなく嬉しかった。
ですが博士は違ったみたいです。
あの時の博士の様子は今でも忘れられません。
博士は絶望と怒りを交えて、私のことを罵り始めました。何度も何度も執拗に、私の全てを否定する言葉を投げかけました。
私は追い出されて、行く当てもなく半月ほど彷徨い続けました。
博士が私に入れてくれた知識は、元いた世界のものだけ。ここがどこなのか。どこに向かえばいいのか。それすら分からない。
彷徨っていると、何人かの人が私に話しかけてくれました。
ですが、私がゴーレムだと知ると、皆さんの目の色はすぐに変わります。
人を見る目から物を見る目に。
どれだけ優しい人でも、この世界の人にとってゴーレムとは意思を持たない物体でしかない。
私は意思を持つべきではなかった。
私の居場所は一つだけ。
彼だけが私を肯定してくれる。
私は勇気を出して、博士のもとに戻りました。
きっと大丈夫。
許してくれてるはず。
そう信じて研究所に戻ったのに。
扉を開けて最初に目に入ったのは、私のクローンと愛し合う博士の姿でした。
博士のことを、一生を懸けて愛する。
それが私の造られた理由だったのに。
自分を愛するようにプログラムしておきながら、博士は私を愛していなかった。
扉の前で呆然と立ち尽くす私を、まるで家電のスイッチを消すかのように、平然と機能を停止させようとする博士を見て。
私は人間という存在が嫌いになってしまった。
私は博士を殺しました。
博士の亡骸を抱えて数ヶ月間ぼうっとし続けている間に、私のスペアとして造られた複製体たちも逃げ出して。
本当に、全てが上手くいかなかった。
私は歳を取らないし、子孫を残すこともできない。
ずっと一人のまま、永遠に生きなきゃならない。
そんな人生ならいらないって思ったのに。
死にたいと思っても、怖くて。どうしても死ねなくって。
感情さえなければ楽だったのに。
あるいはこの怖ささえ身を守るためのプログラムで、私には初めから感情なんてなかったのかもしれない。
ほんの少しでも情があったら、生みの親を殺すなんてできないんじゃないかな。
死ぬ勇気をだすために目標と期限を作った。
複製体たちを始末する。
それが私の造られた理由。
そう思い込むようにして、それが終わったら消えてしまおうって。
そう決心したのに。
どうしてあなたは揺らがそうとするの?
どうしてあなたは気づいたの?
どうしてあなたは優しい言葉をかけてくれるの?
どうして私を肯定してくれるの?
もしかしてあなたなら、私を愛してくれるの?
本当なら今すぐに聞きたい。
だけど、もう少しだけ待っててください。
私はまだ自分を好きになれていません。
自分の生きる意味を見つけられていません。
自分の感情すら手探りで、あなたを支えることができないと思う。
だけど、もし私が。
生きてていいって自信が持てるようにようになったら。
その時あなたに告白したい。
あなたが死ぬまでの間、生涯を共にしていいですか?って
きっと、それが私の生まれてきた理由だから。




