第4話:八犬伝説、新宿の立ち食い蕎麦屋にて再始動
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第4話まで来ました!!楽しんでいって下さい!!
店内に漂う黒い霧が凝縮し、電子部品の破片を鱗のように纏った巨大な怪異が姿を現した。
無数のスマホの画面が明滅し、そこには歪んだ人間の笑顔が映し出されている。
「……ギギ……拡散……共有シテヤル……」
「な、なんだよあれ。……っ、喋ったのか?」
志貴が息を呑む。喉の奥が引き攣り、足が床に縫い付けられたように動かない。これまでは画面の向こう側の出来事だと思っていた「怪異」が、今、目の前で毒々しい殺気を放っている。
すると、荘助が抜刀しながら、低く地を這うような鋭い声で応じた。
「あれは**『骸殻機』**……人の悪意や嘲笑う心が、捨てられたガラクタに宿りて形を成したものじゃ。志貴、下がっていろ。これしき、飯の前の運動にもならぬ」
その背中は、つい数分前まで蕎麦を啜っていた行き倒れの男のものとは思えないほど、峻烈な闘気を纏っていた。
志貴は反射的に、今にも飛び出そうとする荘助の腕を掴んでいた。その瞬間だった。
荘助の懐にある『義』の珠が、呼応するようにカッと青白い光を放つ。その輝きは血管を伝うように刀身へと流れ込み、錆び付いていたはずの白刃に、バチバチと弾ける雷のような光を纏わせた。
「志貴、そこにいろ。貴殿に触れたおかげで、今の拙者の刃は……かつてないほどに冴えている!」
荘助が地を蹴った。踏み込んだ床板が悲鳴を上げる。
骸殻機の蜘蛛が放つ呪いの糸は、一度触れれば対象の醜態を記録し、永遠にネットの海へ晒し続けるという。だが、荘助は舞うような足捌きでその光の網をすり抜け、一気に敵の懐へと肉薄した。
「——八行・義光斬!!」
一閃。
空間そのものを浄化するような清冽な光の軌跡が、怪異の巨体を真っ向から両断した。
「拡散」を囁いていた醜い声は、光に焼かれて消滅し、黒い煙となって虚空へ霧散していく。
静寂が戻った店内で、志貴は呆然とその光景を見つめていた。
破れたビニールカーテン、ひび割れた自動ドア。その中心で、刀を鞘に収める一人の武士。あまりにも現実離れした光景に、思考が追いつかない。
「……すげぇ……」
一拍置いて、我に返った志貴の耳に、厨房の奥から「なんだなんだ!」と店長が叫びながら走ってくる足音が届いた。
「——おい、荘助さん! ぼさっとしてる暇ねーぞ! 店長が来る、逃げるぞ!」
店の惨状を見れば、事情を説明する前に警察を呼ばれるのは火を見るより明らかだった。三人は夜の新宿、ネオンが揺れる喧騒の海へと飛び出した。
狭い路地裏まで逃げ込み、ようやく足を止めた志貴は、膝を突いて激しく肩で息をした。
「はぁ、はぁ……ここまで来れば、大丈夫だろ……。それより荘助さん。そのボロ布みたいな格好で刀持って歩いてたら、即座に通報されて終わりだ。……とりあえず、俺の家に来い」
「志貴、殿。家とは、貴殿の拠点か……?」
「殿も主もいらねーよ! 外でそんな呼び方されたら恥ずかしくて死ぬ! 俺の名前は志貴。これからは呼び捨てでいい。いいな?」
「……承知した。では……志貴。世話になる」
志貴は親が寝静まっていることを祈りながら、裏口から荘助を家へと招き入れ、そのまま脱衣所へ押し込んだ。
「いいか、まずはそのボロ布を脱いで、このツマミを回せ。お湯が出るから体洗えよ。あと……これ、カミソリだ。その髭も剃れ。絶対だぞ」
「……おゆ? この小刀で髭を……? 承知した、やってみよう」
三十分後。
脱衣所の引き戸がガラリと開き、中から一人の男が出てきた。
それを見た志貴と、勝手についてきた姫菜は、飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。
煤汚れを落とし、無精髭を綺麗に剃り落としたその素顔。
そこにあったのは、志貴たちと同じ高校生ぐらいの、驚くほど端正で凛とした美少年の姿だった。
志貴が貸した、少し使い古された学校指定の紺色のジャージ。それが、戦国から迷い込んだはずの武士に、妙に、そして残酷なほど似合っていた。
「……荘助さん、マジかよ。あんた、実は俺らと同い年くらいだったのか……?」
「……え、ちょっと待って。荘助さん、めちゃくちゃ美形じゃん! 落武者なんて言ってごめん!」
「……なんだ。二人して、拙者の顔に何かついておるか?」
濡れた黒髪をタオルで拭いながら、不思議そうに首をかしげる荘助。
その瞳には、過酷な運命を背負った武士としての鋭さと、現代の文明に戸惑う年相応の幼さが同居していた。
「……だな。これなら、街を歩いてても不審者どころか、ただのイケメン高校生だわ」
志貴は溜息をついた。目の前の光景がまだ信じられない。
その時、ぐうぅぅ……と静かな部屋に、今日一番の大きな音で荘助の腹の虫が響き渡った。
「……っ!」
荘助は顔を真っ赤に染め、濡れたタオルで顔を隠すようにして俯いた。
「……すまぬ、志貴。命を繋いでいただいた上に、身なりまで整えてもらいながら……この、不甲斐ない腹の虫が、どうしても……」
消え入りそうな声で謝るその姿は、先ほど怪異を圧倒した武人とは思えないほど、年相応の少年のものだった。
「……ははっ、いいよ。戦った後だもんな」
志貴は思わず吹き出し、キッチンの棚をガサゴソと探り始めた。
「待ってろ。蕎麦ほどじゃないけど、すぐ食えるもん作るから」
「……かたじけない。恩に着る、志貴」
ジャージの裾を握りしめ、志貴の背中を申し訳なさそうに、だが期待を込めて見つめる八犬士。
新宿の夜は更けていく。だが、志貴の部屋で始まったこの「非日常」は、まだ序章に過ぎなかった。
頑張って毎日更新続けるので!!是非是非読んでください!!




