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『真・八犬伝 〜転生して再び伏姫と恋人になった俺、時を超えて現れた最強の親友と妖怪軍団から彼女を奪い返す〜』  作者: 凡太M太郎


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第12話:完璧な師と、泥まみれの洗礼


「――面ッ! ……志貴君、腰が浮いているよ。もう一度だ」

放課後の剣道場。鋭い踏み込みと竹刀がぶつかり合う音が響く。

剣道部に「特別外部コーチ」としてやってきた道人さんは、圧倒的な強さと凛とした立ち振る舞いで、瞬く間に部員たちの心を掌握していた。

「……はぁ、はぁ! ありがとうございました、道人さん!」

面を外した志貴が荒い息を吐くと、道人さんは爽やかな笑顔で清潔な手ぬぐいを差し出した。

「志貴君もお疲れ様。君は筋がいいけれど、剣筋に迷いがある。もっと自分の中の不純物を捨てて、『清らかな一撃』を意識しないとね」

「道人さん、本当にかっこいい……。ねえ、志貴」

マネージャーの姫菜が目を輝かせてスポーツドリンクを差し出す。その光景は絵画のように美しく、志貴が入る隙間など一ミリもなかった。

     *

帰り道、夕闇の迫る部室裏。どろりとした黒い液体が溢れ出し、中級妖怪『泥目どろめ』が姿を現した。

「志貴、下がって!」

姫菜が叫ぶ。武器を持たない志貴は彼女を庇おうとするが、妖怪が放った泥の弾丸が足元で爆発し、ぬかるんだ泥の中へ叩きつけられた。

「うわっ……!?」

「志貴! 今助けるでござる!」

どこからともなく、夕食のネギが飛び出した買い物袋を抱えた荘助がしれっと、しかし必死な形相で駆け寄ってきた。戦国からタイムスリップし、志貴の家に居候している彼は、買い出しの帰りに異変を察知したらしい。だが、彼よりも一瞬早く、道人さんが風のように志貴の元へ滑り込んだ。

「危ない、志貴君! 僕が助ける!」

道人さんが叫び、志貴の腕を掴む。その姿は、教え子を救おうとする英雄そのものに見えた。

だが、引き上げられると思った志貴の体は、道人さんの不可解な力によって、逆に妖怪の攻撃範囲へと強引に「固定」された。

ドゴォォォォン!!

妖怪の重い一撃が、志貴のすぐ横の地面を叩き割る。衝撃波でさらに深く泥に沈められた志貴を見て、道人さんはわざとらしく手を差し出した。

「おや、すまない。手が滑ってしまった……大丈夫かい、志貴君?」

――その時だった。

「……ハッ、随分と下手な演技だね。見てるこっちが恥ずかしくなるよ」

漆黒の衣装を翻し、校舎の屋根から舞い降りたのは、現役トップアイドルのレンだった。着地と同時に腰の鉄扇を「パサッ」と広げ、その衝撃波で妖怪の追撃を粉砕する。

「レン……!? なんでここに……」

「仕事が早く終わったから、アンタの無様なツラを拝みに来てやったんだよ、志貴」

「……レン君? 随分な挨拶だね。目上の人間を呼び捨てにするのは、アイドルのマナーとしてどうなんだい?」

道人さんが少し意外そうに目を細める。レンは広がった鉄扇の端を道人の鼻先に向けた。

「マナー? アンタみたいな『演技過剰』な奴に払う敬意なんてねーんだよ。……道人、今わざと位置をズラしただろ。助けるフリして、志貴が潰されるのを期待してたツラしてたぜ」

道人さんはいつもの余裕ある「好青年」の顔で微笑む。しかし、レンの視線は道人さんの手元――志貴に触れた後、猛烈な勢いで自分のスラックスを何度も拭い、消毒液を狂気じみた手つきで塗り込んでいるその指先を見逃さなかった。

「レン君、やめて! 道人さんは志貴を助けようとしてくれたんだよ!」

姫菜が道人さんの側に寄り添い、彼を庇うようにレンを睨んだ。

「そうでござる! 道人殿が身を挺して飛び込まれたのを、拙者もこの目で見たでござる! 姫菜殿も怯えておられる、それ以上は無礼千万!」

荘助すらも、道人の放つ「高潔な気」に当てられ、心酔した様子でレンをたしなめる。

「……ハ、最高だね。アンタら、全員まとめてあのキラキラ野郎に毒されてんのかよ」

レンは強引に志貴の襟首を掴み、泥の中から引きずり出した。

「いいか、道人。今のは見逃してやる。けど次、志貴に指一本でも『変な触り方』してみろ。アンタのその面、俺の鉄扇でズタズタに仰いでやるからな。……行くぞ、志貴」

「レン……ありがとう。でも、道人さんは俺を……」

「黙ってろ、お人好し」

去っていく二人を、道人さんは目を細めて見つめる。その隣には、彼を案じる姫菜と、深く謝罪するように頭を下げる荘助の姿があった。

「……気にしなくていいよ、姫菜さん。レン君も、志貴君のことが心配なだけなんだろうからね」

道人さんは優しく微笑み、姫菜の肩をそっと叩いた。

だが、その足元。彼が踏みしめていた地面は、無意識に放たれた「火遁」の熱によって、黒く焦げ付いていた。

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