第7話:特異個体:タトゥーゴブリン
本日は2話投稿です。
次の話は21時に登校予定です。
異様なゴブリンリーダーを見る少し前に、時間は戻る。
ほとんど姿を見せないゴブリンを警戒しながら、私はボス部屋と思しき部屋への通路をのぞき込もうとしていた。他の二人は、一つ曲がった角で待機してもらっている。ここまでの戦闘は二、三回だけで、消耗はほとんどない。
そして、のぞき込んだ先に、あの異様なゴブリンリーダーのようなものを見つけたのだ。
私は素早く角まで戻って、二人に相談した。
「……どうする?」
火野さんが、私たちの顔を見て困ったように言う。私は正直、かなり揺れていた。
「……正直なこと、言っていいですか?」
「どうぞ」
「倒したら、評価高くなりそう」
「「わかる」」
私たちは大きくうなずいた。
今のところ、Bランクに早くなる方法はない。というか、Bランクそのものの人数が少なすぎて、どうすればなれるのかも判然としていないのだ。まだ始まって二年の業界なのだから。上げられる評価は、リスクをある程度背負ってでも上げておくに越したことはない。
「正直、私、ちょっと早めにランクを上げたいんですよね。事情は、今度話しますけど」
私がそう言うと、二人は聞きたそうな雰囲気を出しつつも、聞いてはこなかった。
「俺は……家の金がちょっと厳しくてな。学費も込みで、早めに稼げるようになりたい」
火野さんがそう言う。
「私は今のところ、そういうのはないけど……確かに、評価は欲しいわね。それに、今回逃すと、半月後まで待たされちゃうし」
白雪さんはそう言ったが、隣の火野さんを意識しているのは丸わかりだった。
三人の意見は一致した。
「じゃあ、作戦を立てましょう。あれ、絶対強いので」
「そうね。できるだけ勝算は高く、かつ命大事に」
「ガンガン行こうぜ!」
「「このあほ」」
次の瞬間には、頭を押さえる火野さんの姿があった。
◇
私は極力気配を消して、ボス部屋の入口に待機していた。反対側の壁には、火野さんが同じように息をひそめている。
部屋の中では、異様なゴブリンリーダー……言いにくいな。タトゥーゴブリンとでも呼ぼう。タトゥーゴブリンが、うろうろと歩き回りながら、定期的に絶叫を上げていた。威嚇なのか、ただ興奮しているのか。結局、どうでもいいことだ。あいつは、私たちが狩るのだから。
私はタトゥーゴブリンが後ろを向くパターンを見極めて、火野さんに向けて三本指を立てた。火野さんと、後方の白雪さんがうなずく。一本ずつ、指を折っていく。
三……二……一……
私が手を握り、親指を上げた瞬間、火野さんがタトゥーゴブリンへ向かって一気に走り出した。
「……っ!」
無言で接近し、あと一歩で攻撃範囲に入るという瞬間、木刀が一気に燃え上がった。
「!?……ぐぎゃ!?」
魔力の動きで気づいたのか、タトゥーゴブリンが慌てて振り返る。しかし、遅かった。燃え上がった木刀は肩口に叩き込まれ、タトゥーゴブリンは吹き飛ばされて、ボス部屋の壁に激突した。数秒張り付いて、地面に落ちる。
肩で息をする火野さんは、倒したと思ったのか、動きを止めている。しかし私は、この程度で終わるはずがないと思った。
「注意をそらさないで!!」
私が叫んだ瞬間、タトゥーゴブリンは両腕で体を持ち上げ、近くに落ちていた何かを素早く握りこむと、すさまじい勢いで火野さんへ突進した。
「へ? っうわっ!?」
火野さんが慌てて横に跳ぶ。次の瞬間、先ほどまでいた場所を、槍が貫いた。他のゴブリンが落とした槍を握ったらしい。
「ちっ……」
私は小さく舌打ちして、火野さんとタトゥーゴブリンの戦いを横目に、視界に入らないよう気をつけながら、手早く部屋に入った。そして私が特定の場所にたどり着いた瞬間、白雪さんが通路から飛び出した。
しかし、早すぎる。もっと時間をかけて狙いを定める予定だったのに。
「恒一!!」
白雪さんはそう叫んで、クロスボウを放った。矢には霜が降りている。極限まで魔力を注ぎ続けて冷却した矢だ。だが、それはタトゥーゴブリンの肩をかすめただけだった。
「gggrrrrr」
タトゥーゴブリンがバッと振り向き、白雪さんへ向かって走り出す。火野さんが慌てて自分に注意を向けようと切りかかるが、追いつけない。このままでは、白雪さんに接触してしまう。
そこで私は、側面から襲いかかった。
心臓から魔力が一気にあふれ出し、体が思った以上に軽く動く。音を立てずに静かにしていれば、案外気づかれないものだな、という発見を得ながら、結晶を纏った警棒をしならせて、横からフルスイングした。それはタトゥーゴブリンの膝に激突し、その足を砕いた。
ここには、ちょっとした工夫もある。何も意識せずに結晶纏いをすると、ガラスのようになめらかな表面になる。だが、意識して時間をかけて纏わせると、表面を鑢のようにザラザラにできるのだ。訓練中に発見していたものの、準備に時間がかかるので実戦では使えないと思っていたのだが……。
それは想像どおりの効果を発揮し、砕いた足の皮膚と肉を、ズタズタに削り取って激しい痛みを与えた。
「gggrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!???」
タトゥーゴブリンが絶叫する。私はそのままタックルを仕掛け、あらかじめ借りておいた火野さんのラウンドシールドで、押し倒した。盾の上からのしかかって、動きを封じる。
「火野さん!!」
私が必死に抑え込みながら叫ぶと、
「おうっ!」
頼もしい声が返ってきて、立ち上がろうとするタトゥーゴブリンの頭に、炎の塊が叩き込まれた。
「ggr!?」
さらに強く暴れ出す。吹き飛ばされそうになった、そのとき、背中に重みを感じた。振り返ると、切羽詰まった表情の白雪さんが、のしかかってきていた。抑え込むのを手伝ってくれているらしい。おかげで、どうにか持ち直せた。
火野さんは、燃え上がったままの木刀を、タトゥーゴブリンの顔に押しつけ続けている。
「g……gr……」
顔に炎が燃え移り、タトゥーゴブリンの動きが鈍っていく。
頭の奥では、ずっと、心臓の軋む音が鳴っていた。聞こえないふりをした。
数分後。そこには、動かなくなったタトゥーゴブリンの姿があった。
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